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イヴの世界  作者: あこ
一章 ここが私の新世界
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壊れた結界


クラクは森林に囲まれた街だ。クラクだけの領地でいえば、そのほとんどが森林であり住民はそれほど多くはない。

 自然豊かな街。そう印象を受けるが、危険な側面が潜んでいる。それはーー魔獣だ。

 魔獣は暗がりに発生し生息する。森林の多いこの場所は魔獣にとって好条件なのである。そのためにクラクは、他の街に比べ魔獣対策の結界を強力にしている。

 そのはずだったが、事態は急変した。万全だった結界は脆くなり魔獣が発生しやすくなり辺りをうろつき始めたのだ。

 それは夜中になるほど魔獣の存在は強くなる。

 呪術師の襲撃、結界の破損。クラクに課せられた課題が屋敷の人間にのしかかる。

 招かざる訪問を受けてから、屋敷全体が一同になって動き出した。街の住人の安全、結界の補填、呪術師の打倒、そしてリリィの救出。これらを遂行するために動き始めた。

 ヘレナとアメリアは呪術師に捕まっていたが、ミズキに助けられ街にある住民を匿うための壕へと移動していた。

 壕で、屋敷の使用人であるメアリーとアルマそしてハナと合流した。そこで武器倉庫であった事を踏まえて今後の指針を決めたのである。

 現在、アメリアは壕に残りヘレナはーーアルマとハナと共に行動していた。

 彼女たちの目的は結界の補填である。ただ結界を補填できるのはハナしかできないため、アルマとヘレナは護衛という形でついている。

 結界は大きく分けて二種類のものに分類されるが、街を取り囲むように点在する結晶石と四方に置かれてある結晶石とあり後者に欠損が確認された。

 そのため森林に入り、街の四方へと彼女たちは向かった。

 背の低いハナはアルマにお姫様抱っこで担がれ、ヘレナは周辺を警戒しながら素早くその場所へと向かう。

 このおかげで移動は迅速で、魔獣と遭遇してもヘレナのナイフ捌きゆえに易々と結晶石のある四方へと行けた。

 そして、壕を離れまず最初の結晶石の場所へとたどり着く。その場所は森林に囲まれ草木の中にポツリと石碑の立つところだ。

 石碑には輝きを失った結晶石が埋め込まれており、一眼見ただけで魔獣を抑制する効力を失っている事はわかった。

 たどり着くなり、ハナはアルマの腕から飛び降りて石碑の前に立ち白い手を伸ばして触れる。

「大元の結界まで破損している……」

 確認するような呟きに、ヘレナは小さく息を吐いて口にする。

「ハナどれくらいかかる?」

「色を失っているだけだから時間はかからない、けど……」

 と、言い淀むハナにヘレナは訝しげに追求する。

「けど?」

「この結界は四方がともって成り立つものだから、ここ以外にも直さないと結界は機能しません」

「そう……」

 ヘレナは不意に苛立たしく面を歪めた。

 その様子に、アルマがヘレナの肩を叩いて宥めるように言う。

「そう苛立つな。君があの子の心配をするのもわかるが、信用するしかないだろう。彼女がルバートを見つけリリィ様を助ける事を」

「そうですけど……、いち早く結界を補填し助っ人に行かねば」

 ヘレナの横顔に焦りが目立つ。

 アルマはため息まじりにとがめる。

「焦燥は油断を招く。事を急ぐのは最もだが、結界は重要な事だ。それを怠る事は許されない」

「はい……」

 彼女の言葉に、ヘレナは物憂げに頷いた。

「君の焦る気持ちはわかる。だがな、呪術師を相手にできない私たちはできる事を最善に尽くすべきだ。結界の補填は街の安全に必要な事、屋敷も然りな」

「わかってます……」

 ヘレナとアルマは、石碑の前で結晶石に触り呪文を呟くハナを見守りながら会話をした。

 ヘレナは不安で仕方ない様子であったが、アルマは冷静を装っていた。

 クールな面で姿勢よく立つアルマ。ハナを見守る姿勢はさながら姉のような風貌で、背が高く表情に起伏のないヘレナが隣にいても姉のような姿に遜色ない。むしろ、ヘレナの不安そうな双眸から際立つくらいである。

 見守る二人が魔獣を警戒しながら、しばらくいると石碑に秘められた結晶石は青白い光を灯していた。

「とりあえずここは大丈夫……」

 ハナは一息ついて、スッと立ち上がり澄んだ瞳をこちらに向けた。

 見た目は背も低く幼い顔つきだが、しっかりとした面差しが感じられる。彼女は屋敷の使用人で結界を弄る事のできる人物だ。他に魔術師のルラもいるが、ルラは閉じ込められているため今頼りになるのは彼女しかいない。

 彼女は一つ安堵を見せた様子だったが、面には不安を滲ませていた。

 それを感じ取ったアルマが怪訝に訊ねる。

「何かあったのか?」

 その問いに、ハナは目線を上げて言う。

「もしかしたら魔獣の中にボスが生まれているかもしれないです……」

 彼女の推測に、アルマとヘレナはお互い見合わせる。

「……予想できなかったことじゃないが不味いな」

 アルマは初めて冷静な面を歪めた。

「そうですね。早急に結界を補填しなければ、今の状態で遭遇するのは危険」

 そう同意して言うのはヘレナだ。面には無表情ながら苦悶が刻まれている。

「ああ……ハナ、ここが終わったなら次にいくぞ。一応、魔獣索敵を広げておいてくれ」

「うん」

 そう返事したハナを、アルマは再び抱き抱える。

 側から見ると母が娘を抱き抱える様子だが、ハナもアルマを気にした様子はない。それをヘレナは一瞥し言う。

「次はどこにいくの?」

「ここの反対側です。屋敷裏手の二箇所は最後に行きます」

 ハナの助言にアルマとヘレナは頷く。

「結界が直れば魔獣のボスも相手できるが……、ヘレナ遭遇はしないと思うが遭遇した場合、君が先陣切ってくれ」

「ええ」

 アルマの言葉にヘレナは首を縦にふる。

「私たちは結界補填を優先する。ヘレナ、そこは頼んだぞ」

 そう言って、彼女たちは次の結界欠損場所へと走り出した。

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