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まだ、生きている

 幸江はゆっくりと目を覚ました。クリーム色の柱にもたれかかっていたらしい。頭部に固い感触があった。

 いつの間にか眠ってしまったのね。

 体を起こしながら幸江はそう思い、辺りを確認した。

 ここは精神病院の待合室。一週間前から入院している娘、雛子に幸江は会いに来たのだ。もうすぐ専門の人が雛子を連れて来てくれる。


 幸江の頭の中では、いつも同じ場面が繰り返されていた。自分が舞子の制服を着た雛子に向かって「舞子? 」と思わず言ってしまう場面。


 その瞬間から、雛子は自分を舞子だと思い込んだ。

 いや、舞子そのものになっていた。


 雛子の様子はふざけているとか、舞子を失った両親を慰めようとしているとか、あきらかにそう言う次元の話ではなかった。それに、そもそも本来の雛子に演技して見せるなんて芸当不可能だ。

 幸江が夫と「あなたは雛子なのよ」と雛子に何万回説き伏せても、当の雛子は「何言ってるの、わたしは舞子よ。雛子は事故で亡くなったんじゃない。悪い冗談はやめて」と舞子の口調で怒るのだった。そしてなおも二人が食い下がると、雛子はエラーを起こした機械みたいに不自然な動きをはじめ、もごもごと何か言い、終いには奇声を上げながら階段から落っこちてしまったのだ。


 幸江は激しく混乱した。娘に一体何が起こったというのか。

 雛子は救急車で都内の病院に運ばれ、階段から落ちたとき捻挫した足の処置をしてもらい、その他の検査を受け、次の日にはこの精神病院に送られていた。


「娘さんはストレスで精神疾患におちいっているようです。いじめにより自分を否定しているのが原因ではないかと」

 医者は事務的に、かつ機械的にそう述べた。

 

 医者の判断で、それから当面は関係者皆雛子のことを舞子と呼んで接することに決まった。いくらあなたは雛子だと説得したところで、雛子は聞く耳を持たず暴れだすので、雛子の精神を考慮してのことだった。心のケアはそれからだと。



「ママ!」


 幸江ははっとして、我に返った。目の前に、優しく微笑む看護師と雛子が立っていた。あわてて自分も立ちあがる。

「ママ、今日も来てくれたんだね! ありがとう。ねえ、頼んでおいたマンガ持ってきてくれた?」

「持って来たわよ、舞子」

 幸江は駆けよってきた我が子に微笑んだ。そこにいるのはどこからどう見ても「雛子」だった。しかし今ここにいる雛子は、絶対に外れない「舞子」の仮面をかぶっている。


 本当に外れることはないのだろうか。

 幸江は思う。この「舞子」になった「雛子」のなかに、もう「雛子」はひとかけらも存在しないのだろうか。


 「いじめにより自分を否定しているのが原因」


 雛子は自分を否定していたから、自分を殺して、舞子になったのだろうか。雛子は、雛子の心は完全に死んでしまったのだろうか。


 いや、そんなはずはない。雛子は、雛子は結構辛抱強い子だった。死んでしまうはずがない。


「ママ? どうしたの、ぼうっとして。ね、中庭いこうよ」

「ええ、そうね、舞子。病院のお話、聞かせてね」


 きっと今も、雛子は自分を取り戻したくてもがいてる。取り戻そうとして頑張っている。周りにSOSを送っているに違いない。


 幸江と雛子が中庭にでると、雲ひとつない青空が広がっていた。雛子が「ベンチあいてるよ」と先に駆けていく。


 わたしがきっと気付くから。今度はあなたの声を、絶対に見逃さない。


 幸江は空を仰ぎ、それから雛子の背中を見つめて、強く、強く心に誓った。

ここまでお読みいただいたかた、心から感謝します。わけわかんないし、暗いし、文章変だしなのは承知しております。

けれども、がんばって完結できた連載なので、とりあえずはうれしいです。次の作品もがんばります。

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