表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/13

第一章  第二幕

■■  第二幕  前途遼遠ぜんとりょうえん  ■■


 夜が明けると一行は遠くに見えていた集落へ向かった。集落は小規模な田舎町だったが、朝のマーケットは活気に溢れていた。中世ヨーロッパ風の建築が立ち並び、石畳の道には様々な店が軒を連ねていた。


「おお、これはまさに『ナーロッパ』の風景じゃないか!」健太は興奮気味に声を上げた。


「ラノベに毒されたお前にはこれが普通に見えるのか?」拓也は冷ややかな目で健太を見た。


町の人々とは言葉が通じなかったが、エリスが通訳してくれるおかげで、彼らは町を見て回ることができた。昨夜から何も食べていなかった拓也と健太は空腹を感じ、食べ物を探し始めた。


「腹減ったな…」拓也が呟いた。


「パン屋さん、行きましょう。」エリスは彼らを案内し、パン屋で今朝焼けたまだ仄かに温かいパンを購入した。次に彼らは肉屋に立ち寄り、燻製肉も手に入れた。エリスが所持していた銀貨で支払いを済ませた。


「異世界の通貨と食べ物…これって本当にファンタジーだよな!」健太は感動していた。


「学食の焼きそばパンの方がうまいけどな。」拓也はパンをかじりながら冷静に言った。


彼らがベンチに座って食事をしていると、隣に座っていた若い旅商人スコッツォーリが話しかけてきた。拓也たちはエリスに通訳を頼みながら話を続けた。


「年貢の増税が行われてから、食品やその他の流通状況はあまりよくないんだ。」スコッツォーリはため息をついた。


「どうして増税なんかしたんだ?」拓也は興味津々で尋ねた。


「ここら辺のガストルディ伯爵領は、周辺国と戦争して領土を拡大している。そのため、軍事費の増加に伴って増税が実施されたんだ。」スコッツォーリは説明した。


「戦争か…商人にとってはどうなんだ?」健太が尋ねた。


「商人にとっては軍需品をはじめ、色々と売れるから稼ぐチャンスだ。しかし、民を苦しめて領土を拡大するなんてのは、自分の指を切り取って売った金で指輪を買うようなものだ。」スコッツォーリは苦笑いを浮かべた。


「それに、元々は周辺国と友好的だったのが、丞相が交代してから好戦的な外交に切り替わったらしい。現在の丞相マルキは、ガストルディ伯に気に入られて急に政治中枢に入り込んだ。どうやら相当な野心家らしい。」スコッツォーリは少し声を潜めて言った。


「とにかく、旅の人よ。危険を予告された者は半ば救われた者だと言う。これからの旅路がよきものであるように。」水の入ったボトルを渡してスコッツォーリは手を振りながら去って行った。


「なるほど…」拓也は考え込んだ。「とにかく、この町の状況が少しわかった。エリス、ありがとう。君のおかげで色々と情報が得られた。」


エリスは微笑んで頷いた。「私も、あなたにお役に立てて嬉しいです。」


こうして、拓也たちは異世界の現状を少しずつ理解し始めた。スコッツォーリの話を聞いて、彼らはこれからの行動を慎重に考え始めた。



………

……



 拓也たちは町で宿屋を探し、部屋を借りることにした。宿屋の部屋はシンプルだが、ベッドと小さなテーブルがあり、旅の疲れを癒すには十分だった。エリスが宿屋の主人と交渉し、銀貨で支払いを済ませると、彼らはようやく一息ついた。


「これで今日は安心して休めるな。」拓也はベッドに倒れ込んだ。


「ところで、これからのことですのけれど…」エリスが口を開いた。「あなたたち、この世界の言葉、学んだほうが良いはず思います。私が教えますあなたたちに。」


「うーん、でもエリスがいればとりあえず不自由はないし、学校から離れてまで勉強したくないよ。」拓也は首を振った。


エリスは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに満面の笑みに転じた。「あなた、ずっと側に居ろと言っているのですね?」


「えっ?いや、そういうつもりじゃ…」拓也は戸惑いながら言葉を濁した。


健太はそんな拓也を見て苦笑いを浮かべた。「でもさ、拓也。いつでもエリスが対応できるわけじゃないし、この世界の言葉を学んだ方が良いんじゃないか?金の価値もわからないと、生活に支障が出るだろうし。」


エリスは頷きながら言った。「私、教えること、前向き考えているです。少しずつでいいので、学んでください。」


拓也はしばらく考え込んでいたが、やがてため息をついた。「わかったよ、健太。エリスもそんなに言うなら、少しずつでも勉強するよ。」


「よし、それで決まりだな!」健太は嬉しそうに言った。


エリスは微笑んで頷いた。「それでは、言葉を少しずつ教えます明日から。まずは簡単なご挨拶や基本的な言葉からの勉強を始めましょう。」


その夜、拓也はベッドに横たわりながら、エリスの好意に対する戸惑いを感じていた。彼女の真剣な眼差しや優しい微笑みに心が揺れ動くが、その真摯な気持ちを簡単に受け入れてしまってよいのかわからなかった。しかし、異世界での生活を乗り切るためには、彼女の力が必要であることも理解していた。


「エリス、本当にありがとうな。」拓也は静かに言った。


「いえ、私はあなたたちを助けたいだけです。」エリスは穏やかに答えた。



………

……



 翌日、拓也と健太はエリスからこの世界の言葉について教えてもらうことになった。エリスはまず、基本的な挨拶や簡単な言葉から教え始めた。その文字は初めて見るもので、当然ながら文法も日本語とは全く異なっていた。


「こんな感じで、『こんにちは』は『リオーネ』って言います。」エリスは紙に書いた文字を指しながら説明した。


「うわ、難しそうだな…」健太は興味津々でメモを取っていたが、拓也は早くも集中力を失っていた。


「もうダメだ…」拓也は机に突っ伏してグダグダ言い始めた。「勉強する気力が出ない…」


「お前、勉強できるくせに努力は苦手だよな。」健太は笑いながら言った。


「ちょっとずつでもやっていくならば、成長できるよ。」エリスは優しく励ました。


「そういえば、この世界って名前あるのか?」健太が突然尋ねた。


エリスは首を傾げた。「世界は世界。特に名前なんてないです。」


「俺たちも俺たちの世界を何か名前つけて呼んだりしないだろ。『地球』ってのは星の名前だし。」拓也が補足した。


「それもそうだな。」健太は納得した様子で頷いた。


「ところで、魔法とか使えるようにならないかな?」健太が目を輝かせながら尋ねた。


エリスは少し困ったような表情を浮かべた。「魔法の習得にはとてもたくさん時間がかかります。基本的な魔法でも10年はかかるんです。」


「エリスは若いのに、治癒とか結界とかの魔法が使えるじゃん?」拓也が疑問を投げかけた。


「エルフははじめから魔法の適性が高いですので、人間とくらべてより早く使えるようになります。」エリスは説明した。「それにわたしは…」言いかけてエリスは途中で口を噤んだ。


「それじゃ、俺たちが魔法を使えるようになるのは無理か…」健太は落ち込みながら呟いた。


「でも、この世界で生きるための手段は魔法だけじゃないから。少しずつ学んで、いろいろな能力を身につけていけばいいんだよ。」エリスは健太を励ました。


「まあ、焦らずにやっていこう。とりあえず、言葉を覚えるところから始めるか。」拓也は気を取り直して、エリスの教えを受け入れることにした。


こうして、彼らは少しずつ異世界での生活に適応していくことを決意した。



………

……



 陽も山の稜線の彼方へ落ち、拓也たちは宿屋の1階にある食堂で食事をとっていた。木のぬくもりが感じられる食堂には、他の宿泊客たちも集まり、酒を楽しむ者やカードゲームに興じる者など賑やかな雰囲気が漂っていた。


「そういえば、エリス。異世界からの転移者って他にもいるっていってたよな?日本人なんかも来ていたみたいだけど、彼らは元の世界へ帰還できたのか?」拓也は興味深げに尋ねた。


エリスは少し考え込んだ後、答えた。「帰還したという話はわたしは聞いたことがありません。でも、行方が分からなくなった人はいます。もしかしたら、そういった人たちは元の世界に帰ったのかもしれません。」


健太はふとエリスに向かって問いかけた。「エリス、君は家に帰らなくていいのか?」


エリスは優しく微笑んだ。「私は今、旅をしています。一族の発祥の地への旅です。北にあるハイランドという場所を目指しています。」


「ハイランド?」健太は興味を示した。


「そこには既にエルフは住んでいませんが、かつて彼らが祀った神殿があります。その神殿へ巡礼しようとしていました。」エリスは説明した。


拓也はしばらく考えた後、決心したように言った。「俺たち特に行く当てもないし、エリスの旅に付き合うことにするよ。」


エリスは驚きと喜びが入り混じった表情で拓也を見つめた。「本当ですか?ご主人様。それはたくさん嬉しいです。」


健太も頷いた。「俺も賛成だ。エリスの旅を手伝いながら、この世界のことをもっと知りたいし。」


こうして、拓也たちはエリスの巡礼の旅に同行することを決めた。まだ見ぬハイランドへの道のりは険しく、様々な困難が待ち受けているかもしれない。けれど、未知への旅立ちというものは、若い彼らにはとても魅力的なものにも思えた。食事を終えた一行は、明日の出発に備えて部屋へと戻った。夜の静寂の中、彼らは異世界での新たな旅路を夢見ながら、深い眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ