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十七話 力の目覚め

ちょっと長め

 




「本当に厄介だ」


「喜んでくれたなら嬉しいよ」



 氷の迫撃砲がボルテックスを撃つ。


 風の刃で取り払うも、服の裾が凍っていく。


 そして追撃してきたハミールと剣を交える。

 その衝撃で凍った服が割れた。


 ハミールは氷を纏った剣を振るう為、辺りがどんどんと凍っていく。何度も剣を打ち合わせている内に、ついにボルテックスが足を滑らせる。



「なっ!?」


「はぁぁぁぁあ!」



 それを待っていたかのように寸分たがわず、首へと真っ直ぐに剣を振る。


 それをギリギリでボルテックスは反応し、身体を捩って肩へと変える。


 結果、深々と肩を切り裂いた。


 それでもボルテックスの表情は変わらない。グッと突き刺さった剣を手で強く握った。ハミールは引き抜くことが出来ない。



「キミは強い……だからちゃんと解放しよう《神器オービット!》」



 風が渦巻き、ボルテックスの背中に触手のようについた。先程と比べれば小規模で風圧も感じない。


 だが、ハミールはその中に莫大なエネルギーが秘められていることに勘づいた。



「ちゃんと構えた方がいいよ」



 その言葉が聞こえた時には、もう既に竜巻が目と鼻の先にあった。



「!?」



 反応なんて出来ない。軽々と吹き飛ばされ、背中から墜落した。これで骨が多分何ヶ所か折れた。


 攻撃が一切見えなかった。身体強化を使用しているのにも関わらず。


 対策として氷の障壁を貼った。しかし雷はまるでそんなものは紙だと言わんばかりに、簡単に粉砕し、ハミールを襲った。


 再び吹き飛ばされるが、また障壁を貼る。



「それは無駄なことだよ。君ならもう分かっていると思うんだけど……もしかして焦って頭が回らなくなっちゃった? ……それとも……」


 そこでボルテックスはハミールの様子がおかしいなことに気づいた。


 ハミールは剣を突き立てた。



「何を……」


「五芒氷柱」



 ボルテックスを中心にして氷の美しい五芒星が地面から浮かび上がった。それはボルテックスの理性が激しく警鐘を鳴らす。これは神器級の封印だ。



「こんな大掛かりな儀式、一体いつ……」



 そこまで言いかけて、五芒星の先端全て、ハミールが立っていた場所だと悟った。



「これで終わりだよ、ボルテックス……。これはかつて伝説のエンシェント・ドラゴンを封印した魔法、たとえ君でも逃れられない」


「神器オービット!! 暴天風……」


「もう遅い」



 突き立てられた魔剣レヴィアタンが青白く光り出す。





 ギィィン!

 そこには1つの巨大な五角形の氷柱が立っているのみだった。



「はぁ……疲れた。流石に今回は危なかったね」


 もう魔力は欠片ほどにも残っていない。受けた傷も相まって早くベットで眠りたい。強い怠けに従って、その場に座りこんだ。


「お父様!」


「フィア!? なんでこんな所に! 遠くに逃げていた筈じゃあ……」



 瓦礫の物陰からシルフィアが飛び出した。



「お父様が心配だったんだもん!」


「はぁ……シルフィア、ちょっとそこに座りなさい」


「?」


「いいから」



 シルフィアは不思議そうな顔をするが、素直に従う。そこにぐいっと険しい顔つきと低い声音を作って話しかけた。



「シルフィア。パパは遠くに逃げろって言った筈だぞ。あれは本当に危ないからそう言ったんだ。いくらパパが危なくても絶対に逃げろと言われたら逃げろ」



 それに押されたように少し震えた口調でシルフィアは言う。



「それで誰かが死んじゃったら……どうするの?」


「それでも逃げろ。誰かが死んでしまったなら、逃げて生き延びて、その人の分まで生きればいい。絶対に逃げろと言われたら逃げて。これは絶対だ」


「ご、ごめんなさい……」



 泣きそうな顔でシルフィアが謝った。それを見て、口調と表情を和らげる。



「分かってくれたならいいよ。心配してくれたのは嬉しいしね……でもこれからはこういうことはないように……ね……」


「はい!」



 シルフィアが元気よく返事をする。



「それじゃあ、皆のところに帰ろ……」



 ピシピシ。

 亀裂が入った音が鳴った。発生源は氷柱。


 即座にシルフィアを庇うようにして、氷柱に目を向ける。



「まさか……そんな…………」



 亀裂はあちらこちらに出来ていき、小さいものがどんどんと繋がっていって大きくなっていく。



「あれは……この世に存在する中で最強の部類の封印魔法なんだぞ!?」



 パリィィイン!

 氷柱は粉々に砕け散り、破片は粒の大きさくらいで辺りに撒き散らされる。



 ボルテックスは空中に留まったまま、ハミールとシルフィアを見下ろした。



「やって……くれたね…………。このペンダントが無かったら本当に危なかった」



 青白い光を放つ首から下げたペンダントを見て、そう言う。綺麗なモノだが、何故かあれを見ていると心が汚れていくような、そんな気分に襲われる。



「それは、なんだい?」


「それがボクにも詳しいことは分からない。ウチの科学者にこれには魔力を暴走させる力と、精霊を殺す力があると言われただけだよ」


「!?」



 驚くハミールを尻目に、ボルテックスはシルフィアに目を向けた。



「へぇ、今度はキミの娘がいるわけか……これは楽しいことになりそうだ……」



 ボルテックスは舌舐めずりをした。

 その自虐的な目を捕らえられたシルフィアはビクッと身体を跳ねさせる。


 即座にハミールはシルフィアを隠すようにして間に立つ。



「くそ……」



 ここでシルフィアを逃がせば、一瞬で彼女に危害を加えられるだろう。それから守れる程の力はもう本当の本当に残っていなかった。


 もう魔力が残っていなくて、重い怪我を負っている自分はもうシルフィアの肉壁にしかなれない。



 形式として剣を向けるが、魔力がない今。あれほど頼りにしていた魔剣レヴィアタンが単なる棒切れにしか感じられない。


 疲労さえ感じさせないボルテックスの表情に焦りを募らせていた。



「まずはキミをいたぶるとしよう」



 突風がハミールを襲った。身体が宙へと浮く。そして風向きが途中に変わり、上へと押され、穴の空いていない天井の場所に押し付けられる。



「げほっ!」


「お父様!!」


「ハハハハ!! さぁ次々ぃ!!」



 風向きは次々に変わり、壁、天井、地面に何度も何度も打ち付けられる。

 まるで子供が人形を壊れる程に乱暴に扱うように。そしてハミールは綿が飛び出すように激しく出血していた。再び地面へと叩きつけられた。


 それでも彼はまだ意識を繋いでいた。



「…………ふ、ふぃあ……」


「ハハハハハハハハ!!! キミもこうなると無惨なものだなぁ!!!」


「やめて!」



 シルフィアの悲痛な叫び。しかしそれは聞こえども、決して心には届かない。



「あはははは、え? なんて? 大丈夫だよ、キミも後で高い高いしてあげるから……ハハハハ!!」



 口元を歪めて、ボルテックスはシルフィアを嘲笑った。もう彼に抗える者など存在しなかった。



「ハハハハハハハハハハハハ!!」



 ホールにはボルテックスの高笑いとハミールの激突音、そしてシルフィアの泣くような叫び声がずっと響く。








 ******






 どうしてこんなことになってしまったのだろうか?


 お姉様が消えて、それから何としてもパーティーに出ないといけないとお父様から言われて……。


 そしたら武器を持った人たちが、私たちを一斉に取り囲んで、お父様に逃げろと言われたから、王都の広場にまで皆で逃げた後、お母様を置いて、王宮に残ったお父様の所に言った。


 なんだかお父様がお姉様みたいに消えてしまいそうだったから。これ以上、誰も失いたくないから。


 人生で初めて言われたことを破った。


 そしたらお父様に物凄く怒られた。そしてそれはその通りだった。


 お父様の魔法で封印されていた人が復活して、お父様はもうボロ雑巾のようにされて、何の力もない私はただ逃げることも出来ずに、処刑の順番待ち状態。



 私なんかが来るんじゃなかった。


 パーティーだって、いつもお姉様とお揃いのドレスを着て、一緒にデビューしようと言っていた。

 お母様と一緒に広場で蹲って、事が終わるまでじっとしていれば良かった。


 なんで、なんで私はここにいるんだろう?


 分からない。



 お父様はどんどんとボロボロになっていく。そして再び地面に叩きつけられる。それでもこちらへと手を伸ばし。



「…………ふ、ふぃあ……」



 見ていられなくて、思わず叫んだ。



「やめて!」


「あはははは、え? なんて? 大丈夫だよ、キミも後で高い高いしてあげるから……ハハハハ!!」



 けれども男は聞く耳を持つどころか、馬鹿にしてくる。余程気分がいいのかそのまま高笑いを上げた。



「もう、勝負は着いているでしょ!」


「そうだね、だから彼とキミをどうしょうが勝者たるボクの自由だ」



 話か通じない。まるで人間じゃない化け物と話しているような錯覚に陥る。



「でもそろそろ飽きたね。そろそろ殺しちゃおう」



 お父様へとゆっくりとした足取りで近付き、剣を振り上げる。



「中々楽しかったよ、じゃあね……」



 お父様へと刃が届くまで随分とゆっくりに感じられた。


 お父様が死ぬ。

 いつも屋敷でお母様をからかって、私とお姉様を優しい目で見守っているあのお父様が死ぬ。どこか遠い国の出来事のように思える。


 でも、これは現実だ。


 お父様がいなくなるなんて嫌だ。でもそれを防ぐような力は自分にはない。


 だからって……こんな未来受け入れられる筈がない。


 だから。



「だめぇぇぇぇぇぇ!!!!」



 ありったけの魔力を男に放った。


 光属性の私の魔力が真っ直ぐと飛ぶ。


「!? ……ってなんだこの程度か」


 男は余裕といった風で剣を構える。しかし、空中で光は虹色に輝き始めた。


 否。

 虹色ではない。


 炎、水、風、地、雷の魔法へと変換されたのだ。それもただ変換されたのではない。何十倍にも増幅されている。



「なっ!?」


「いっけぇぇぇぇぇ!!!」



 全身全霊の魔法は男の身体を撃ち抜いた。









次は一時間後

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