十五話 レクス・フィン・ユンディア
ええ、今日は待ちに待った連続投稿の日です。盛り上がってくれたら嬉しいです~
「はぁはぁはぁ……」
「レクス様!」
地に仰向けに倒れ苦しそうに呼吸するレクスに、拘束された貴族が思わず声を上げる。
あの後もレクスはたった一人で抑え込み、三体を倒した。
でもそれが限界だった。身体は無事な所がないくらいに全身から出血し、鉛のように重く動かない。
もう電気を纏うことなど出来そうにもなかった。
まるでこれがお前の現実だとでも言うかのように巨人たちはレクスを取り囲む。
振り下ろされた拳を転がるようにしてギリギリで避けるが、余波が彼を殴り飛ばした。
そのままハミールとアルミラの戦場に吹き飛ばされた。
「レクス!」
思わずアルミラが声を上げた。近づこうとするが、その前にボルテックスが立ちはだかる。
「うんまあ、彼頑張ったよねー。神器持ってるとはいえその歳であの巨人相手にあれだけやれたらかなりのもんだよ。取り敢えずあの子は殺して神器の持ち主を消そうか。そして新しい適合者をこちらで見つければいい話だし……」
「そこを……どけぇぇぇぇ!!!!」
嘲笑うかのように嗤うボルテックスにアルメラは吠えた。
全身の魔力を黄金の剣にありったけ篭める。
「陛下! ダメだ!!」
ハミールの制止の声はもう届いていない。
「プライド・バニッシュ!!」
黄金に光る斬撃。
王家の威を示すような一撃だった。
それでもボルテックスには届かない。
「スパイラル・スクリーン」
風の分厚い防壁が光をかき消した。
残ったのは魔力がもうほとんどない硬直した者のみ。
「まずは君だね」
もうアルメラは反応すら許されず、剣の腹で強かに打たれ意識を失った。
「いやぁやっぱり君が残ったかぁ……」
「おかしいな、私の記憶が正しければ君は最初、僕からやると言っていたはずだけど?」
「キミみたいな相手はやりづらい、ボクの経験上はね……。だからて出来れば君との一騎討ちはやりたくなかったのさ……」
その呼吸の合間をとってハミールは一瞬で距離を詰め、首筋へと一直線に剣を振った。
何拍か遅れて頬の薄皮を切られながらも後ろに回避する。
「こういうことがあるから」
「いやいや僕なんかよりも後ろを見た方がいいと思うよ?」
「何を……」
その時、ボルテックスの背後で爆音が鳴り響いた。
******
レクスは自分を助けようとして黄金の斬撃を放った父を見ていた。
明らかに全力を振り絞った一撃。己を助ける為に自分を助けようとしたのだ。王の責務である国民の救済を捨ててまで。
父にそんな行動をさせてしまったことに申し訳なかった。
自分なんかに力を使わないでいて欲しかった。
あの方の子として生まれる者として自分は力不足だったのだ。
ああ、父が崩れ落ちた。
自分のせいだ。自分が弱いせいで……。
そんな思いが胸の内を埋めつくしていく。
そして身を捩って岩の巨人の攻撃を回避していたが、こんなことは自己保身にしかならないと気づいた。
こんなことなら、父の恥になってしまう前に俺は…………。
再び迫る岩の拳。
レクスはそれを避けようともしなかった。
ただそれを受け入れるようにして仰向けに転がり、目を瞑った。
「お父様……親不孝者の私をどうかどうか許さないでいて下さい」
******
「レクス殿下、この技の特徴は魔力を指先から足先まで高速に張り巡らせることです」
大地の向こうには高い山々が連なっている。それを遮るものなく、鑑賞できる広大な草原の中で、アルベールは剣を正眼に構えるレクスにそう言った。
「はぁぁぁぁ!!!」
言われた通りに魔力を動かそうとしてみるが、魔力が身体からはみ出てしまう。
感覚が上手く掴めなかった。
「くそ……はぁはぁはぁはぁ、これホントに出来るのか? お前が特異体質だからお前にしか出来ないんじゃないか?」
原っぱに背中から転がって口を尖らせる。
今まで全てのことを修めてきたレクスにとって、自分を納得させる為にはそれくらいの理由が必要だった。
自分が出来ないことは他人にも出来るはずがないことだった。そしてこれは現に……。
「ええ、確かに私以外に使える者はおりませぬ」
「じゃあ……」
「しかし今まで数々のことを成し遂げてきた殿下ならきっと出来ます」
そう言われれば、何故か悪い気はしなかった。
もう一度やってみようと身体を起こした。
でもなんどやっても身体から魔力が離れてしまう。
「やっぱり……元から出来ないんじゃないか!?」
「いいえ、殿下なら必ず出来ます。今は出来なくともこの技が必要となる時、諦めない気持ちさえあればきっと……。この技が殿下にとって神器以外の、いざと言う時の切り札になってくれると、そう願います」
丁寧な言葉遣いとは裏腹に、豪快に笑って、そう言った。
その言葉は何故かレクスの頭を離れることはなかった。
そして現在。
******
岩の拳がレクスを推し潰そうとする中、レクスは唐突にアルベールの言葉を脳裏に思い出した。
そう言えばまだ試していなかった。
まだ自分は何もやっていないじゃないか。
諦めるにはまだ早すぎる。
諦めるなんて勇者の血筋には似合わない!
思い切りぶちかまそう。
目の前の奴らに。
余裕ぶっている奴に一泡どころか涙でも流させてやる。
今なら確かに行けるような気がする。
神器から供給された魔力を全身へ、高速で流し込む。肌を身体から出さないようにする防壁と考えるのではない。
しっとりとスポンジに水を含ませるようなイメージ。
身体から莫大な熱量と力が湧き出る。
それを振り下ろされた拳にただ単にぶつけた。
それで己の拳の20倍はある大きさの岩が粉々に砕け散った。
出来た……。まさか本当に出来てしまうとは……。
なんだかアルベールに最後まで乗せられたみたいで悔しいという気持ちも少しあるが、それよりも出来なかったことを出来るようにしたという初めての体験に対する喜ぶの方が大きかった。
技の影響か、身体が灼けるように熱い。肌が鬼のように真っ赤へと染まっている。
この技に、名前はないからレクス様が完成させた時につけて下さいと、アルベールはそうよく言っていた。
「アルベロ……。俺が考えつくのはこれくらいだ……満足か? アルベール」
拳を失った巨人を筆頭に一斉にレクスに襲いかかったが、この技があれば敵ではない。
まずは足の付け根を剣でまるでロースハムを切るように滑らかに薄くスライスする。
それによりバランスを崩した一体が他の個体を巻き込むようにして地面へと倒れ混んだ。
「部下の仇……討たせてもらう」
レクスによる逆転劇が始まった。
アルベロで強化した身体でミカヅチから雷を剣だけに纏わせる。そして力強く地面を蹴り、空へと舞った。
切っ先を地に向け、雷を渦巻き状に凝縮していく。決して外さぬように片目で標的を合わせる。
「ライジング・ダウンフォース」
爆音とともにエネルギーが下へと発射された。雷は地に到達した瞬間、地面にエネルギーを拡散。連なっていた巨人などを一息に破壊し、吹き飛ばした。
もう穴だらけのホールだったホールがその衝撃で屋根が全て吹き飛び、壁にさらに穴がいくつも空いた。
あまりの爆風に吹き飛ばされる者が多く、特に立って貴族たちを拘束していたドールドの兵士たちはまともに受け、例外なく吹き飛んだ。
しばらくして風が止んだ後、貴族たちは自分たちで縄を切り、空いた穴から次々に脱出を図った。
吹き飛ばされたドールドの兵士たちは起き上がってそれを追いかけようとしたが、その前にレクスが立ちはだかった。
「我らユンディアの者たちに随分好き勝手にやってくれたな……」
「はっ……」
もう岩の巨人は全て破壊されていて、レクスを足止めするような戦力はどこにもない。
「……覚悟はあるのだろうな」
「ひぃぃい!!!!」
冷酷な瞳が彼らを射抜いた。
******
「殿下、私たちも助太刀致します」「どうかお側に」
開放された貴族たちの一部が脱出をせすに、助力を名乗り出た。
「助太刀は嬉しい……。だが、お前たちはもう魔力が残っていないのだろう?」
「殿下の肉壁くらいにはなってみせます!」
「不要だ」
切って捨てた。
そういう自殺志願はレクスの好みではなかった。
「お前たちは逃げろ……。その代わり……」
そう言葉を切って、ハミールとボルテックスの戦いから少し離れた所。そこに気絶し、倒れているアルメラを背負った。
「父上を頼む。安全な場所へ」
「御意!」
貴族たちはその場に跪き胸に手を当てて、臣下の礼をとった。
「行け……」
「殿下はどうなされるのですか?」
「俺は……」
ハミールと対峙しているボルテックスに力強い目線を向ける。赤く焼けた肌も相まって、まさに地獄の鬼のようだ。
「父上の仇を取りにいく」
明日……というより今日の24時台に更新予定です。
つかぬことをお聞きしますが、やっぱりガールズラブのキーワード外した方がいいでしょうか? 今後もあまら今出てきているものより激しいものを出す予定はないのです。
皆さんの意見をお聞かせ下さい




