第八曲 喫茶店BLACKCAT
「いらっしゃーい」
カランカラン、と鈴の音が鳴る。
会計の所から顔を出した女性は、間延びした声で言った。
今日はロマンスグレーそうな男性が、カップをフキンで拭いている。
望月はカウンターに座ると、男性に声をかける。
「マスター、ブラックコーヒー」
「はい」
マスターと呼ばれた男性は一言いうと、コーヒーの準備に取り掛かった。
……寡黙そうな、マスターだな。
昨日はいなかったみたいだけど、あの時の女の人がマスターじゃないんだ。
「お、来たの―? お二人さん」
「……ど、どうも」
昨日の店員さんが、マスターの後ろから声をかけてきた。
俺はとりあえず、軽く女性に会釈した。
「あれー? そういえば、君の名前ってなんだっけ?」
「……駒板盤理です、チェスの駒をイメージしたら、大体そんな感じの名前だとわかると思いますよ」
「あー! そうだったそうだった! そういえばアタシたちとは自己紹介してなかったねぇ? アタシ、猫本! マスターは黒崎さんだよ」
「は、はぁ……」
親指でマスター……黒崎さんを指差す猫本さん。
ぐいぐい来るなぁ、この人。
ふと、望月は俺の方へと視線を向ける。
「アンタは何も頼まないの?」
「あ、えっと……」
ここに連れてこさせておいて、お前が払え的な感じか……?
……まあ、多少の小遣いなら母さんからもらってはいるけど。
「んじゃ、今回はお嬢のために来てくれたお礼ってことでバンちゃんのはアタシが奢るよ」
「え? いいんですか?」
「いいのいいの! ね? マスター」
マスター、黒崎さんは笑顔でこくりと頷きながらコーヒーをそっと望月のところに置いた。
……スマートだ、仕事人過ぎる。
あの会話の流れで、そんな自然にコーヒーを置くって、熟練された人の技なのではないだろうか。
「ドリンクを飲んでから、作戦を練るわよ」
「わ、わかった」