第九曲 メンバー募集の作戦について
「……はっきり言って、今の状態じゃ無理だと思う」
「どうして?」
「そりゃ、自分の歌を聞かせてメンバー入りさせようって作戦、相手が感動する歌詞とか曲が作れなかったら全然、相手に刺さらないじゃんか!!」
盤理は全力で叫んだ。彼女の作戦は俺が言った通り、自分の曲を披露してバンドメンバーにさせよう、という安直とも呼べない愚策に等しい作戦に怒らずにはいられない。
「……そもそも、気に入った相手のことを思った歌なんて、お前自身のことは歌ってないんだろ?」
盤理は頭を掻いて、望月に小声で文句を言う。
すると、カップの取っ手を掴んだ望月はコーヒーの水面を眺める。
「歌ってる、私の感情を口にしてる。貴方にも刺さったなら、そういうところがあるってだけでしょ」
「だとしても……」
「曲もそう……私は、私の溢れる叫び以外の言葉なんて口にする理由がない」
望月はカップの先に口付けて一口、コーヒーを口にした。
彼女の声色も真剣で、至極当然と言いたげにコーヒーのカップをソーサーに置く。
「……で、でもっ」
「でも、なんて言葉を使うのは言い訳を言う癖がついてる人間だけ」
「……っ」
テーブルに置いた拳を強く握る。
「……俺なりの、処世術なんだよ。それを、わかったように言うなよ」
「貴方の中に燻った叫びは、私が私なりに形にしたかっただけ。だから、結果的には貴方に近いと感じる曲には一応含まれるってだけでしかない」
「……だったら、」
望月の言いたいことはなんとなくわかる。
必要以上の言葉を言うなら、音楽で伝えたいって言うどこまでもストイックなロッカーの精神だ。
……こういう奴じゃなかったら、俺はとっくに望月のバンドメンバー探しを辞退していただろう。
「私は、歌で嘘をつく気はないの……そんなの、あの屑共と一緒になる」
「? ……どういう意味だよ」
「知りたいなら、貴方が本当のバンドメンバーになるか、私の関係者の関係を維持するなら考えてあげる」
「いや、でもずっとは流石に無理だし……俺にだって都合が、」
コクリ、と望月はコーヒーをまた飲むと俺にすっと動画サイトの俺のチャンネルを見せる。
「バレたくないんでしょう? バンリP」
「うっ……!!」
「まあ、貴方にもメリットがないといけないから……だから、こうしようと思う」
「?」
「8月の終わりまでにSOUNDSHOCKTOKYOに出るバンドメンバーを集めきれなければ、貴方は私のバンドメンバー探しには協力しなくてもいい。もちろん、それ以降から貴方に関わらないようにするし作曲していることもバラさない……嫌な条件じゃないでしょ?」
「え……?」
意外と、あっさり彼女からの妥協案が出された。
夏まで、って限定されているしありがたいと言われればありがたい。
「……俺としては、ありがたいけど」
「ちなみに夏の間までちゃんと探さなくてもバラすから」
「ひ、卑怯だろそれ!!」
「アンタが私に弱みを握らせたのはそっちの方だって言ったはずだけど? で、どうする?」
「……わかったよ、やればいいんだろ?」
はぁ、と重い溜息を着きながら、ん、と無表情な彼女に猫耳が生えた幻覚が見えた気がする。
……この黒猫様はぁ!!
「そう、なら決定。明日から忙しくなるからそのつもりでいて」
「え!?」
「じゃ、私帰るから」
「え、えぇ!?」
「ばーい」
カランカラン、と鈴の音が扉から響いたと感じた瞬間、もう望月はBLACKCATから出ていた。
「即決すぎだろぉおおおおおおおおおおおおお!!」
盤理は大声を上げて、猫本さんに後から注意されるのであった。
俺は知らなかった、その日から俺の人生が劇的に変わって行く、プロローグの始まりなんて誰も予測していない。
予測なんてできない、だってこれは俺たちの叫びを形にした、物語なのだから。




