51話 初依頼
三章が終わったら、一度人物紹介のまとめを入れますね!(*^^*)
整備された道の上を歩き、依頼内容を確認しながらフォルナは町の中を歩く。
目的地は町の北西部の、町を守護する石壁に近い住宅地。
フォルナが受けた依頼の作業場所だ。
依頼内容は単純な運搬。
建物の解体に伴う廃棄物を焼却炉に持っていかなければならない。
ちなみに焼却炉の場所は石壁内の東側、風下の方に設置されているため、それなりの移動距離がある。
荷車に廃棄物を乗せて、引きながら何度も往復するという、内容的には非常に重労働なものであった。
専門の業者がいれば話も違うが、廃棄専門の職種はこの町にはない。
そのため解体業者がそのまま兼任するか、外部に発注するかのほぼ二択。
外部とはいえ受けてくれる場所は殆どないため、冒険者ギルドを通した依頼を申し込んだ。
あと数日の間に受注されない場合は、依頼は引き下げて自分達で処理しなければならない。
「どうも、冒険者ギルドに依頼した解体現場はここで合ってますか?」
指定された解体現場。
到着したフォルナはそのまま少し離れた位置で現場を監督している男の元に行き、声を掛ける。
「うぉっ?! すまん気付かなかった。もしかして冒険者か?」
「はい、依頼を受けてきました」
「本当か! まさか受けてくれる奴がいるとは。お前等、ちょっと俺は外すから解体は後にしてがらを集めといてくれ!」
解体の工程は終盤、廃棄物の運搬は自分達でやるかと半ば諦めていた中での請負人に、監督の声に喜色が滲む。
「う~っす」と微妙に気の抜けた職人の返答を聞きながら、若干不安そうにしつつ監督はフォルナに向き直る。
「ここの監督兼職長のドレクだ、改めて今回はよろしく頼む」
「冒険者のフォルナです」
「まずは依頼の詳細について説明しよう。ついて来てくれ」
少し移動し、現場で出た解体物が集められている場所に案内される。
積み上げられている廃棄物、幅は数メートル、高さはフォルナの身長の二倍はあった。
「依頼に記載してあった運搬ってのはこれのことだ。ちと量は多いんだが・・・・・・。半分、いや三分の一だけでも持って行ってくれれば後は俺達でなんとかできる」
どうやら全部を運ぶ必要はないらしい。
運搬量に応じた追加報酬と内容に書いてあったのはそういうことかと納得しながら、積み上がった解体物を見上げる。
(運ぶだけならすぐに終わりそうだが・・・・・・)
全てを一任されるなら、廃棄物を下から持ち上げ、そのまま丸ごと運んで終りだ。
ただ、フォルナは自身の能力で強引に終わらせるのではなく、かつての自分ができなかった仕事がどういうものかを知りたいという考えもある。
そのためスキルや、ステータスのごり押しをするつもりはなかった。
「分かりました。これを東側にあるという焼却炉に持っていけばいいんですよね?」
「そうだ。場所は分かるか?」
「石壁の近くだとは聞きましたが、詳細な場所までは分かりません」
「じゃあ行く時には最初に案内を付けるから、そいつについてってくれ。あと、運ぶ時はこの荷車を使ってくれていい」
ドレクが示したのは、簡素な木製の荷車だった。
二つの車輪に、木板を組んだだけの台。丈夫ではありそうだが、積める量には限界がある。一度に大量に運べる代物ではない。
「注意点としちゃ、周囲に物をぶつけないことだな。木材の柱何かはなげえから、もしも運ぶのに不便だと思ったら、どいつか捕まえて切らせるか、まあ自分で切ってもらうっきゃねえ」
ドレクは小走りに、作業場の方へと向かうと、道具類を漁って一つののこぎりを手に取る。戻りながら鋸の刃を確認して、状態が悪い事に若干眉を寄せつつ、「無いよりはましか」と考えてフォルナに手渡す。
「残りもんであんまし切れ味はよくねえかもしれねえが、これを使ってくれ。一度試してみるか?」
ドレクは近くに転がっていた長めの柱材を指差した。
フォルナは手渡された鋸へ視線を落とす。
細かく並んだ独特の刃。片側へわずかに傾いた形状に、彼は小さく興味を惹かれた。
(妙な形だな・・・・・・切りやすくするためか?)
武器とは違う、工具として作られた刃。
戦うためではなく、物を加工するためだけに存在する道具というのは、フォルナにとってあまり馴染みがない。
言われるまま、地面に置かれていた柱材へ近づく。
右手で端を軽く持ち上げ、その途中へ鋸を当てた。
角度がついた木材を切ろうとすると、固定されていないため上手く刃が入っていかずに途中で止まってしまうことが多い。
初心者なら知らなくて当然のことだった。
ドレクもそのつもりだったのだろう。
「あー、一度下に――」
「物をかませて水平にした方がいい」そう続けるはずだった言葉は、途中で止まった。
気付けば、柱材が斜めに綺麗に切断されていたからだ。
ずるり、と切り口が滑り落ちる。
一瞬、ドレクの思考が止まる。鋸を使ったはずなのに、木を引いて切る独特の音が聞こえなかった。そもそも、フォルナの手が動いたようにも見えなかった。
理解が追いつかずにただ瞬きを繰り返す。だが職人として長く生きてきた経験が、分からないものに対する都合の良い答えを引っ張り出した。
「あ、あぁなるほど、スキルか。冒険者だから攻撃系のスキルを持ってるはずだしな」
納得したように頷くドレク。
スキルも闘気もなく、純粋な技量で切断したというのが事実だが、手品を疑うような異質さによって思考にすら至らなかった。
対してフォルナは、特に訂正することもなく切断面を見ていた。
(・・・・・・なるほど。斬るんじゃなく、引いて繊維を断つのか)
鋸の構造と感触を確かめながら、内心で納得する。
「じゃあ案内に一人呼んで来るから。解体物を積んでてくれ」
「分かりました」
若手の職人を呼びに行くドレク。
その間に解体物を荷車に乗るぎりぎりで詰め込む。
(これで給料が出るのか。これならスキル関係なく誰でもできるな・・・・・・もう数年耐えてギルドに加入で来てたら自力で抜け出せたか?)
たらればの想像だ。
貴重なスキルがなくても誰でもできそうな作業だと感じた事で、ついそんな考えがフォルナの脳裏を過った。
「別に今は考えなくていいか」
人と会話して、作業してその日の給料を得る。
かつて想像していた仕事の通りで、また、自分の中での達成したかった目標の一部が満たされていくのを感じてフォルナは無意識に頬を緩めた。
やがて、やって来た若手の職人に焼却炉の場所を案内してもらい、一通りの手順を把握して現場との往復作業に入る。
何十キロとある解体物を、西からほぼ反対の東へと移動させる作業。
道もある程度整備されているとはいえ、がたつきはある。荷車が傾かないように、筋力で抑え続ける必要があった。
日頃から鍛えていてもあまり手出しはしたくない作業内容だ。
こまめに休憩を取らなければ、日照りの強さも相まってすぐに倒れてしまう。
依頼者ではあるが、運搬作業は初めてだというフォルナに多少気を回して、ドレクも見ていた。
「お、おいっ。流石に少し休んだ方がいい。疲れただろ?」
「そうですね。分かりました、一度休憩します」
全く同じ速度で何度も往復するフォルナに、流石にドレクも声を掛ける。
心配はするものの、どう見ても当人は疲れた様子がない。
(どんな体力してんだ。人数がいてもこれだけ運んだら普通バてるだろ。バてる、よな・・・・・・?)
人数を揃えて交代しながらやっても、普通はもっと消耗する。まして一人で何往復もしていれば、脚が止まって当然だ。
汗ひとつかいていない姿に、いつもどれだけの運動量をこなしているのかと内心で感嘆せざるを得ない。あまりに普通に過ごしてるせいで、逆に自分の認識が間違っているのかと疑う程だ。
近くに腰を下ろしたかと思えば、たった数分で立ち上がり、また作業に戻る。
気付けば、職人数人がかりで臨んでいる解体作業よりも、積んでいた解体物が早く片付いていく状況。
「誘ったらうちに来てくれねえかな・・・・・・」
その馬力に、監督のドレクはそんな呟きを残した。
・・・・・・
・・・
夕刻。
解体作業の終了。
そして清掃作業をしている間に、最後に出た解体物が即座に焼却炉に移動されて、運搬作業も終了した。
「たまげたな・・・・・・」
片付いた現場を見回しながら、ドレクが呆れ混じりに呟く。
「残りは明日俺達で運ぼうと思っていたが、全部綺麗になくなるとは」
そしてやはり、当の本人は全く呼吸は乱れていない。
肩で息をしている様子もなければ、呼吸が乱れている気配すらない。大量の瓦礫を町の端から端まで運び続けていた人間とはとてもではないが思えなかった。
「今日はありがとな。ギルドへの報告が終わったら一緒に飲まないか? フォルナのおかげでこっちは楽できそうだからな、奢らせてくれ」
「いいんですか? 分かりました。では少し待っていてください」
冒険者ギルドの依頼は、不正が行われないよう、依頼の達成時に職員が確認する必要がある。
そのため、冒険者は報酬を得る為に達成報告が必要だ。
フォルナは一度冒険者ギルドに向かい達成報告を終えると、職員が確認しに行くのを見届けた後、ドレクの元へと戻る。
フォルナを迎えた後、ドレクは他の職人達も連れて馴染みらしい酒場に移動する。
夕食時ということもあり、店内は既に賑わっていた。
木製の長机。飛び交う笑い声。酒と料理の匂いが混ざり合い、独特の熱気を作り出している。
席へ着くなり、ドレクは慣れた様子で人数分の酒を注文した。
しばらくして店員が木製のジョッキを運んでくる。軽く杯を打ち合わせ、それぞれが酒へ口を付ける。
フォルナも真似るようにジョッキを傾け、少し目を丸くした。
(あれ、飲みやすいな・・・・・・?)
フォルナが知っている酒は、師であるリアムと飲んだものが唯一。
酒と言えば、度数が非常に高いものだと思っていたが、今飲んでいる酒は控え目なものだった。
少し窺っている様子のドレクに気づき、笑みを返す。
「飲みやすいお酒ですね。もっと辛いものを想像してました」
「ははっ、ここのは度数よりも味重視だからな。気に入ったようでなによりだ」
いい感じに話し口ができ、ドレクは続けざまにフォルナについて尋ねる。
「それよか凄い体力だな。あれだけ動いてもけろっとしてるなんて、冒険者ってのは日頃からそんなに苛烈なことをしてるのか?」
「冒険者とは関係ない修行の成果ですね。俺には剣の師がいたのですが、体力がつくように毎日走り込んでいたので」
「剣が使えるのか。なるほどな、それで鋸でもあんな真似ができてたのか」
「俺も一つ質問があるのですが、一般的な願望というか、やりたいことってどんなものかと思いまして」
その場の空気が、一瞬だけ不思議そうに止まる。
あまりにも抽象的で、妙な質問だった。
まるで、普通の願望を知らないと言っているようにも聞こえる。
ドレクはジョッキを傾けながら、内心で首を傾げた。
願望なんてものは、子供の頃から次々と湧いてくるものだ。
金が欲しい。強くなりたい。モテたい。楽をしたい。数え切れないほどあって、逆に困るくらいである。
(・・・・・・願望が多すぎて悩んでるくちか?)
だからこそ、冒険者なんて不安定な仕事をしているのかもしれない。
妙に納得しながら、ドレクは気軽な調子で答えた。
「そうだなぁ。ありふれたもんだと、やっぱり金持ちになりたいとか、英雄になりたいとかじゃないのか。願望なんて現実的すぎてもつまらんだろ」
「なんか面白そうな話してるっすね」
「おぅ、お前等はなんか願望あるか?」
ドレクが振ると、若い職人が勢いよく手を挙げる。
「そりゃあるっすよ! めっちゃ美人なお嫁さんと暮らしたいっす!」
会話を耳にした職人たちが、面白そうに自分たちの願望を語り出す。
願望の形は様々で、基本的な欲求のものから安全や承認的な欲求。
これからの進み方が未だに掴み切れていないフォルナにしたら、どれも非常に参考になる話だった。
今は仲間と旅をしていることを伝えると、彼らは更に過熱して話を膨れさせる。
「王都なんかは辺境と違ってあらゆる物の最先端だから、時代が違って見えるらしいぞ!」
「んなもんより、娼館だろ! あらゆる技術・頭脳も優れている彼女達を抱くのに、高官がたった一日で一年分の給料を飛ばすのもざらって話だ。一度はそんな女神みたいな女と一夜過ごしてみたいもんだがなぁ」
「おめえは下に願望が寄りすぎなんだよ・・・・・・」
「そっちが俺の本体なんで」
飲み終わり、会計を終わらせたタイミングで、ドレクはフォルナに銀貨を二枚渡す。
「これは?」
「依頼にも書いてあったろ。運搬量に応じた追加報酬だ。こっちはギルドを通さなくても自由だからな」
「・・・・・・ありがとうございます」
取り敢えずお礼を述べ、渡された、銀貨を握りしめる。
初めての給料。
盗みで生きながらえていた頃を思えば、無性に達成感を感じた。
「本当はうちに誘いたかったが、旅の途中なら野暮だからな。とはいえ、食い扶持に困ったらまた手伝ってくれや」
「その時は是非」
他の職人たちとも軽く挨拶を交わして、そのまま別れる。
冒険者ギルドに報酬を受け取りに行く途中。
ふと露店の臭いが鼻を掠めた。
裏路地から見ていた。子供達が両手に持って、口を汚しながら食べる様子。
そして今、フォルナは自分の手の中にお金がある状況。
都市で死闘を繰り広げていた時に感じなかった、朧げな欲望を強く感じながら、フォルナは吸い寄せられるように屋台に近付く。
「この串焼きいくらです?」
「一本銅貨二枚だ。うちのはいい感じに脂がのってるから、食べ応えがあるぜ!」
「じゃあ五本。支払いは銀貨で」
「へいお待ち! 串焼き四本と、返しの小銀貨九枚。美味かったらまた来てくれよ!」
受け取った串から、熱気と香ばしい匂いが立ち昇る。
フォルナは左右の手で串を持った。そのまま、町の喧噪の中へ歩き出す。
誰に隠れることもなく。
誰かから奪うこともなく。
堂々と、道を歩きながら串焼きへかぶりつく。
「悪くない・・・・・・」
腹が膨れる以上に、かつて羨望の目で見ていた行為は、まだ不確かな欲望を満たしてくれた。
――目標達成
・仕事で収入を得る。
・盗まず、働いた金で物を買う。
いづれこの目標をページ一杯に埋めたいですね(≧▽≦)




