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終焉都市の雑草~凶悪な魔物達に侵略された都市で、たった一人の生存者~  作者:
第三章 旅路編

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50話 ギルド2

「はっ?! 失礼しました。最近寝不足のせいで意識が混濁してしまったかもしれません。・・・・・・どのような魔道具だと?」

「探知の魔道具だ」

「・・・・・・ふむ、そうですか」


 寝不足による空耳、そう片付けてしまえればどれだけ楽だっただろうか。だが、現実は非情だ。聞き間違いではないという事実が、じわじわと脳を侵食してくる。

 逃げたくなる気持ちを抑え、エドガーは動揺を静かに収めた。


「まず詳細について伺ってもよろしいでしょうか。これ程の魔道具となりますと、私でも解析が難しいので」

「構わない。この魔道具は魔物の探知に特化したもので、探知距離は3キロ」


 その数字だけでも十分に異常だった。

 トゥラは説明する傍ら、淡々とした手つきで魔道具に触れる。


 起動した魔道具は、中空に立体映像を展開する。

 それは魔道具を中心とした円形の地図。

 画面内では簡易的に表示されていたものが、立体映像にされることでより詳細に認識できるようになった。

 地形の起伏、建物の配置、そして点在する反応までもが、直感的に理解できる形で映し出されている。


 紙の上の線とは違う。記号でもない。

 そこにあると錯覚するほどの、圧倒的な実在感。


「これは・・・・・・っ!」


 エドガー自身、多くの魔道具に触れる機会はあった。

 しかし、それはあくまで人間族が製作したもの。


 魔道具に関して最先端をゆく魔族との技術力の違いを理解していなかった。

 近年の成長度を考慮すれば、既に魔族の技術と比肩しているのではと、そんな甘い考えさえ思考の隅にあった。


(ここまで差があったのか・・・・・・!)


 甘い想像は、実物を見て180度変わる。

 今だ紙の地図で現在地・目的地を確認するのが一般的だというのに、遥か先の未来にもしかしたら存在するような立体映像が現れれば無理もない。


(これを売るつもりなのか・・・・・・?)


 こうしてギルドで売買しようとしている時点で、それが種族にとって重要な機密ではないともくれば、より優れた技術があって、魔族にとってはそこまで重要な物ではないと判断してもおかしくない。


「簡易的な説明だが、理解できただろうか」

「ええ、ありがとうございます。ちなみにこのような魔道具は魔族内では一般的に普及しているのでしょうか?」

「それは分からないな」


 トゥラは肩をすくめるように答えた。


「私は長く戻っていない。期間で言えば・・・・・・数十年になるか。少なくとも、出て行く前には既に存在していた代物だ。だから、今も普及している可能性はある」

「す、数十年前には既に・・・・・・」


 思わず声が裏返る。

 真実の程は分からないが、トゥラの堂々とした態度はそう思い込ませる気迫があった。

 堂々とした物言い。揺らぎのない視線。それだけで、十分すぎる説得力を持っていた。

 エドガーは小さく咳払いし、ギルド長としての顔に戻る。


「いやはや、正直このような魔道具は初めてでして、査定には悩むところではありますが――」


 言葉を区切り、ゆっくりと紙を差し出す。


「ただ是非とも買い取らせて頂きたい品ですので、こちらでいかがでしょうか?」


『利益よりも繋がりを』、エドガーは一連の流れからそう判断した。

 査定額を記した紙を机に置いて、トゥラに確認を取る。


 魔道具一つに付き、金貨2千枚。

 三個の売買で計6千枚の額になる。

 通常ならば躊躇する額だが、エドガーは迷いなく提示した。


「問題ない」

「ありがとうございます! では取引成立ということで、お支払いに関してですが、ギルド証書を発行する形でよろしいでしょうか?」


 ギルド証書とは、ギルドが価値を保証する支払い約束の紙だ。

 高額取引の際によく用いられるもので、ギルドが機密にしている魔術刻印がされているため偽造は不可能である。


 証書を用いれば、別のギルドでお金を下ろしたり商人同士の取引でも使用することが出来る。


「金貨200枚程は硬貨での支払いで頼みたい」

「かしこまりました。それでは手続きに移行します」


 取引の契約書面にお互いでサインしていく。

 ペン先が紙を走る音だけが、静かに部屋を満たした。

 ふと、エドガーは何気ない調子で口を開く。


「そう言えば、お名前はトゥラさんでしたね。やはり魔道具の開祖だと言われている方を尊敬されているのでしょうか?」


 ただの世間話。

 エドガーは自分の知識の中で、同じ名前の魔族を知っていて、なんとなく聞いてみた。


「・・・・・・いや、尊敬はしていない」


 僅かな沈黙。一瞬言葉に詰まりながらも、トゥラはそう返す。その声音は、先ほどまでとは微妙に違っていた。


「俺が尊敬しているのは、魔道具で生活を支え、人の営みに寄与した者達だ。そういう意味では、イナも私の尊敬する魔道具士かもしれないな」

「えぇっ?! わ、私ですかっ!?」


 突然名前を呼ばれたイナが、目を丸くする。


「えへへ~ なんだか照れちゃいますね~」


 頬を緩ませる彼女とは対照的に、エドガーの胸中には別の感情が渦巻いていた。

 魔道具の開祖。

 三代目魔王。


 大戦時に魔道具を用いて魔族を守り、そして他種族を鏖殺した魔族。

 英雄であり、同時に大量殺戮者でもある彼の情報は少なく、生死すらも定かではない。


 男である事、そして――金目の悪魔族である、らしい。




 ◇




 冒険者ギルド、ラウル支部。


 ラウルは比較的強力な魔物の出現が少ない。

 初心者の成長には適度な環境であり、また低ランクで燻っている年齢を重ねた冒険者にとっても楽な場所でもあった。


 一言で言えば、辺境の緩い環境である。


 ただ、年齢を重ねて燻っているだけの冒険者は、プライドだけは高いのか、でかい顔をして自分の方が上であると主張する者がいくらか存在する。

 新人がくれば、先輩面で絡みにいくのもこの支部ではよく見られる光景だった。


「ここが冒険者ギルドだ。受付に行けばそのまま登録できる。さっさと登録してなにか依頼受けようや!」

「できれば戦闘以外がいいな」

「む? 戦闘以外か・・・・・・そっちの依頼は見た事ねえが、なにかしらはあると思うぜ?」


 冒険者ギルドの出口から如何にも初心者ですと言わんばかりの会話が聞こえる。


(お、カモか?)

(昼間から登録かよ、物好きだな)


 だが、耳に届いた声には、妙な違和感があった。若さがない。

『仕事を追われたおっさんが仕方なく冒険者になろうとしている』という認識を何人かが、そんな勝手な結論に至る。


 ギルドに併設されている酒場で、昼から既に出来上がっている冒険者たちが、『いっちょ業界の厳しさを教えてやるか』と得意げな表情を浮かべながら振り返り、その倍の速さで元に戻る。


(なっなんじゃありゃ?!)


 彼らの目に映ったのは、鬼人族の男。

 一目見て分かる肉体の完成度の高さ。

 ステータスやスキルによる目に見えない強さはあれど、朱里の鍛え抜かれた肉体を見れば、凄まじい鍛錬の末のものだと察するには十分。


 自身の肉体と比べ、その差に身震いしながら、酒場の冒険者たちは一気に酔いが覚めた。


 そんな冒険者たちの心情は脇に置いて、ずかずかと受付の元へと移動する朱里。探るような視線の中で警戒するフォルナは、少し後ろからついて行く。


「おぅ、嬢ちゃん! ちょいと俺とこいつの冒険者登録をお願いしたいんだが」

「はわ、はわわわ・・・・・・」

「どうした嬢ちゃん! 大丈夫かっ?!」

「申し訳ありません。どうやら体調が悪いようで、担当を私が引き継ぎます。ほら、あなたは一度休憩室へ」

「は、はい・・・・・・っ」


 新人をやんわりと促し、入れ替わるように前へ出たのは、落ち着いた物腰のベテラン受付嬢だった。表情一つ崩さず、二人へと向き直る。


「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 まるで何事もなかったかのような対応。

 流石は場数を踏んだベテラン、といったところか。日頃荒くれ者を相手にしているだけに、見た目だけでは気圧されることはないらしい。


「俺と隣の奴とで冒険者登録をしたい。・・・・・・多分さっきの嬢ちゃんは感覚が鋭敏で、気に当たっちまったのかもしれん。偶にあるんだ、代わりに謝っといてくれないか?」

「故意ではないのなら謝罪は必要ありません。逆にあの子にはよい経験になったかと思います」


 新人の受付嬢は【直感】というスキルを持っていた。

 スキルの警鐘が、常に途切れぬことのない朱里の自然体の警戒に引っかかった、もしくは隣の男の異常な戦力に反応してしまったのかもしれない。


 担当を変わったベテランの受付嬢は幸い圧を強く感じることはなく、業務をこなそうと作業に移る。


「まずはお二人の情報を登録用紙に記載して頂きます。登録の最低条件として、戦闘系スキルを一つ以上所持している必要がありますが、お二人は――」

「俺もこいつも問題ない」

「一つ、質問を。この登録用紙には全て正確に記載する必要があるのでしょうか?」


 手元の用紙に視線を向けながらフォルナが尋ねる。


「名前や得意分野、所持している戦闘系スキルに関しては必須項目となりますが、出身地や年齢、他の細かい部分は任意で構いません。ただし、記載した内容に虚偽があれば罰金や資格の停止などの措置がありますので、お気を付けください」


 身元が確認できれば、もしもの時の緊急時に対応が可能となる。

 得意分野も記載すれば、ギルド側が適正のある依頼を回したり、力を発揮できるパーティの斡旋するような形でのサポートが可能だ。


 中には自分の実力を過大表記して、優秀なパーティに寄生しようとしたものもいたが、それらが発覚してからは虚偽の記載には大きなペナルティが発生するようにして抑制に努めている。


「文字が分かりづらい場合は代筆も担っておりますので、お声がけください」

「ありがとうございます。一応文字は書けるので、すぐに書きますね」


 二人は受け取った用紙に必須項目だけを記載する。戦闘系のスキルは取り敢えず【衝撃波】だけにし、他のスキルは秘匿した。

 

 ギルド側の規定では、戦闘系スキルを一つ以上記載していれば登録は可能。

 情報を多く開示すれば、それだけ適切な依頼やパーティの斡旋を受けられる――という建前はある。

 だが裏を返せば、情報は『管理される』ということだ。

 他の項目にはなにを書いても要らぬ厄介が降りかかってきそうで下手に書く事はできなかった。


「ありがとうございます。必須項目は全て記載頂いているので問題ありません」


 受付嬢は一通り目を通し、すぐに頷いた。


「それでは、こちらがお二人のギルド証となります」

「よぉし! これでばんばん依頼が受けられるな!」


 なんらかの魔道具なのか、魔力を帯びたプレートが渡される。

 そこには名前と、冒険者としてのランクが記載されている。


 フォルナはギルド証を受け取ると、表面を指でじっくりとなぞる。


「・・・・・・随分と、簡単に手に入るものなんですね」


 ぽつりと漏れた本音。受付嬢は小さく微笑んだ。


「他のギルドを比較しますと、確かに冒険者ギルドのギルド証は入手しやすいでしょう。ただし、犯罪行為や迷惑行為を行えばすぐにギルド証を剥奪されます。再取得は非常に厳しくなりますので、ご注意下さい」


「まあここまで言っても分からない人は多いのですけど」と受付嬢はちらりと酒場の方に視線を向け、酒癖の悪い一部の冒険者はそっと視線を逸らした。


「話は変わりますが、入会時にはランクの飛び級制度というものがございます。希望されるのでしたら、訓練場にてなんらかの試験を受けて頂くことになりますが、どうされますか?」

「ランクが高いとなにかメリットが?」

「はい。何といっても受けられる依頼の幅が広がるのが最大のメリットですね。危険度は上がりますが、その分高額の報酬を得られるので、一攫千金も夢ではありません。比例して、依頼人との交流も増えるので、高ランクの冒険者は貴族様とのコネクションを持っている方も少なくありません」

「ん、ちょっと待ってくれ嬢ちゃん」


 ふと、疑問に気づいたように朱里が口を挟んだ。


「じゃあ俺らが持ってるこのギルド証で受けられる討伐依頼ってどんなもんなんだ?」

「Fランクの討伐依頼となりますと、ホーンラビットやスライムなどになりますね。ゴブリンなどの人型は最低でもEランクからでないと受注できません」

「ゴブリン以下、だとっ?!」


 依頼に制限が設けられている事を初めて知った朱里は、自分のランクが子供の小遣いぐらいの稼ぎにしか役立たない事を知り驚愕する。


「飛び級だ、今すぐに飛び級制度を申請する?!」


 ぐっと身を乗り出し、朱里が言い切る。

 その勢いに、受付嬢も一瞬だけ目を瞬かせたが、すぐに営業用の笑みに戻った。


「承知いたしました。フォルナさんはどうされますか?」

「俺はやめておきます。依頼の仕方だけ教えて貰ってもいいですか?」


 朱里は鼻息を荒くして訓練場を方へと向かい、フォルナは教えて貰った依頼ボードへと移動して、貼り付けてある依頼に目を通していく。


 大半が魔物の討伐や薬草の採取依頼だが、中には雑用の依頼もあり多種多様だ。

 戦闘に発展する可能性の高い外の依頼は選択から外し、町の中での依頼で適当なものはないかと確認していく。


 依頼用紙を左から右へと読み進めていく中、鈍い衝撃音を響かせながらギルド全体が大きく揺れた。


「な、なんだ今の! 地震かっ?!」

「結構大きかったぞ!」


 椅子から腰を上げて、建物が壊れないかと上を見上げる冒険者がいる中で、原因が分かっているフォルナはそのまま依頼ボードの前から動かない。


(・・・・・・建物が壊れない程度には抑えた、か。意気揚々と腕を回していたから少し心配だったが、流石に視界が狭まる程ではないなら問題はない)


 衝撃の震源地は冒険者ギルドの訓練場。そこで行われている飛び級試験。

 実力を見る試験の中で、加減はしながらも叩きつけた朱里の殴打が建物を揺らした。

 今までに前例がないのか、慌ただしく動き出す職員を横目に、フォルナは依頼を一枚手に取ってカウンターに移動する。


「この依頼を受けたい」


 ギルドの喧騒とは対照的に、静かな声で依頼の受理申請をした。


 *****

【依頼書】

 ■依頼種別:運搬補助(短期)

 ■依頼内容:

 ラウル北西部にて進行中の解体工事により発生した解体物(木材片、瓦礫、金属片など)を、指定の焼却炉まで運搬する作業。

 ■詳細:

 現地には既に解体班が常駐しており、解体作業自体は不要。依頼受注者は、現場に集積された廃材を荷車または支給される運搬具に積載し、町外縁に設置された焼却炉まで搬送すること。

 道中は比較的整備されているが、一部ぬかるみがあるため注意。重量物の取り扱いに慣れている者を推奨する。

 ■報酬:

 銀貨8枚(規定量達成時)

 ※運搬量に応じた追加報酬あり

 ■依頼主:ガルド解体工務店(現場責任者:ドレク)

 *****


遅れた! 申し訳ねえべ・・・(>_<)

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更新してくれて嬉しいね 無理のないペースでがんばるね
あまりに久々すぎて登場人物の名前がわからなくなったから、読み返しました……。 更新待ってましたよ!
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