49話 ギルド1
お久しぶりです!
取り敢えずは活動報告通りに動いていくつもりです(≧▽≦)
門番に教えて貰った宿へと移動し、恰幅のいい女店主と何事かを話し合いながら、手早く手続きを済ませるイナ。
「一室でいいよね?」
「はい、お願いします」
できれば二室、男女で分けた方がいいものではあるが、お金を出して貰っている手前、少しでもイナの負担になりそうな選択は言葉にできずに一歩下がるフォルナ。
そんな二人の背後。
フォルナよりも所在無さげな二人のおっさんは、とてつもない焦燥感に苛まれていた。
ちらちらと伺いみるような周囲の視線が気になり初める。
しまいには『あら、あの人子供にお金を払わせてるわよ? いい大人なのにね~』、『とんでもねえ穀潰しがいたもんだ!』などという幻聴まで聞こえだす始末。
過去。上に立ち、他者を守る立場にいただけに、今の状況は二人にとって受け入れがたいものだった。
「じゃあこれからどうしよっか。物資の補給ってそもそもなにをどのくらい揃えればいいの?」
「やはり食料と飲料じゃないでしょうか? それがあれば死にませんから」
「確かに必須だよね。お金に余裕があればもうちょっと日用品を揃えていく感じにするとか?」
何事もまずは考えることから。
二人の会話を邪魔せずに頷くに留めてしばらく成り行きを見守る。
「一ついいだろうか?」
一端の整理が出来たところで、トゥラが手を上げる。
「物資の前にまずはギルドにいくべきだ。二十年前と変わっていないのなら、あそこで身分証の代わりとなるプレートが発行されたはず。この町は比較的簡単に入れたが、都市ともなると必要になる」
「問題が起こった時にも提示すれば、比較的対応がましになる」と付け加える。
金銭面に関しての不安の払拭という点はおくびにも出さず、さも外の世界を知らない二人のためにというニュアンスで提案するのは流石の図太さである。
「確かにな。俺らは種族もバラバラだから注目もされやすい。面倒事が向こうから来るってこともあるかもしれねえし、早々に取っておいて損はねえだろう」
トゥラの裏の事情を察した朱里は胡乱な瞳を一瞬向けた。
にも関わらず、彼も案に乗ってギルドへと誘導するよう言葉を発した。
旅の初めは物が入用で出費がかさむ。
その度にイナに払わせることは、年齢的に爺なプライドが許さない。
出来ればちょっと甘やかしたいと思うぐらいには、既にイナの分け隔てない笑みにやられている二人である。
ちょっと優先順位に口を出すぐらいには、現状の不甲斐なさに不満を抱いていた。
「ギルドか、確か冒険者の会話でよく口にしていたような?」
「おそらくそれで間違いない。ギルドには幾つかの種類があるが、フォルナの言う冒険者は、冒険者ギルドで依頼を受けるためよく通うことになる。他には商業であったり生物・錬金と多種に渡る」
ギルドとは、ようは同業者組合のことだ。
依頼の仲介からトラブルの調停まで、入る事によるメリットは大きい。枕詞にギルド員が国に寄与する者であれば、という文言はつくが、そこから外れる者の方が少ないだろう。
問題さえなければ、一定の力を持った後ろ盾を得る事になる。
「聞いていて疑問に思ったんだが、ギルドに行けば確実に身分証が手に入るのか? 随分と簡単に聞こえるが」
フォルナからすれば、身分証は決して手が届かないアーティファクトのような認識だ。
彼の中で身分証とは、言い換えれば『存在していいかの人間の証明』に近い。
持っているだけで、正規の仕事に就けて法に守られるだけじゃない、移動や居住も容易に移動できるだろう。
裏路地で生き、公式には存在しない生物として生きていた身としては、彼らのトゥラ達との認識に大きな差を感じずにはいられなかった。
「そうだな。ギルドにもよるが、例えば商業は一定の価値のある物品を取り扱っていることを示せばいい。冒険者ギルドは、一定以上の年齢と戦闘に関するスキルがあれば良かったはずだ」
「年齢か」
「最低年齢は昔は十程度だったと思うが、今は分からない」
十と言えば、都市に神龍が来てから四年が経過していた頃。
ギルドどころか、生存者が片手の数、生存していたかも怪しい。
(どのみち関係なかったか・・・・・・)
知見を得ようとしない自分が怠惰だった訳ではない事に少しの安堵を覚えつつ、フォルナの意識は身分証へと向く。
「取れるなら取りたいな。イナさんはどうでしょう?」
「いいんじゃないかな。やっぱり安心材料はあった方が不安は薄れるし、なによりギルドってどんなとこなんだろう~って、一回見て見たいな!」
「んじゃ決まりだな。嬢ちゃんとトゥラは商業で、俺とフォルナは冒険者の方に行くか」
ある程度の方針を決めた後、二手に分かれてそれぞれの目的地へと向かった。
◇
商業ギルド、ラウル支部。
ギルド長の名はエドガー・ミレニアといった。
齢は四十八。肉体的な衰えを如実に実感しつつ、髪がまだ後退していないことに安心感を覚える今日この頃。
商業ギルドの一室で、ソファに腰を下ろす。
対面するのは新規に登録した二人だ。
「エドガーです。本日はよろしくお願いします」
「よろしく頼む」
「よっ、よろしくお願いします!」
一人は魔族の男。緊張した様子はなく、場慣れしていることが伺える。
もう一人は森人。こちらは反対に緊張が隠せていない。
森人の年齢は判断しずらいが、様子から見てまだ年若いのだろうと、エドガーには思われた。
――半刻前。
トゥラとイナが商業ギルドを見つけその扉を開き中に入る。
「わぁ~ なんだかキラキラしてますね!」
木造の建築とは違う石造り。住宅に使われるようなものではない表面に光沢のある素材で作られた床、意匠をこらえた柱に、佇まいの確かなギルド員。
外壁もあるそれなりに大きな町とはいえ辺境。
もう少し粗悪な環境を想像していたトゥラも『ほぅ』と声を漏らした。
そのまま周囲をキョロキョロと見渡すイナを連れたって、受付の元へと移動する。
「商業ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「登録がしたい。俺とこの子の二人だ」
「承知いたしました。登録料としまして、二人で金貨十枚となります」
商業ギルドは他のギルドに比べて登録料が高い。
商売を扱う者として最低限の金額は払って然るべきという判断だからだ。
その分、ギルドも登録者に対して販売場所の提供や、支払いの仲介、踏み倒しの防止をしてサポートを行う。
商業ギルドに登録する最大の利点は、商人が安全に、比較的容易に取引を行える点だろう。自身にコネがない場合は、商業ギルドを利用すべきだと断言できる。
(金貨十枚。以前と少し変わったか)
かつての記憶とは変わり、扱う品の提示ではなくなっている。
無一文のトゥラには勿論出せる金額ではない。
が、想定内。
背負っているリュックに手をかけているイナの動きを制止してトゥラは受付に質問する。
「商品の買い取りもお願いしたいのだが、そこから登録料を引いてもらうことは可能だろうか? 生憎、硬貨はあまり持ち歩かない主義でね」
「かしこまりました。商品はどのようなものになりますでしょうか?」
「魔道具を数点。・・・・・・いい機会だし、イナもなにか見てもらうか?」
「え?! じゃ、じゃあ私も魔道具を見て貰いたいです!」
そうして、受付嬢の所感と魔道具と言う専門性の高い系統の品という事で、ギルドの長であるエドガーが対応することになった。
「魔道具という事でしたが」
「はいっ、これですッ!!」
イナが机の上に魔道具を置く。
「これは! ・・・・・・なんでしょう」
イナの迫力に圧されて、エドガーもカッと目を見開くも、置かれたそれを見てすぐに平静を取り戻す。
机の上には、四足歩行で緑色の体表をした生物を模した魔道具が置いてあった。
「ぴょんくんマークエイトです!」
名前は非常に可愛らしい。
しかし、実際の物体は蛙である。しかも背中には羽が生えており、少々人を選びそうな見た目だ。
名前から、おそらく七体の試作機が作られていることにも驚きだが、それらの感情を一度呑み込んでエドガーは魔道具の性能に関して尋ねる。
「これはどういった性能なのでしょうか?」
「子供の玩具として作ったもので、魔力を流している間、周囲の声を模倣します! あと、軽く上に投げると羽を動かしてゆっくりと降りてきます!」
「成程、子供用の玩具ですか。声を模倣するのは面白いですね。触って確かめてもいいですか?」
「勿論です!」
今にも喉を鳴らして『ゲコっ』と言いそうなそれを手に取り、解析を試みる。
(回路は音を魔力の波に変換するものか。流している魔力に波をつくらせ、喉元にある音響膜を通して声を再現している)
素材に関しては比較的安価で手に入るものだ。
声を模倣するというのも、今までにない観点で面白い。素材を見る限り、声の録音は短時間のものになりそうだが、返っていらぬ厄介事には巻き込まれないだろう。
下手に性能が突出すると、貴族やら教会やらの権力が目を付ける。その点に関しては問題がないと判断出来た。
ただ、子供の玩具にしては、非常に高度な回路が組み込まれている。
そうなってくると、問題は価格だ。
「玩具に組み込むという発想は非常に新しいと思います。似たもので音響箱という魔道具がありますが、非常に高価で騎士団やギルドなどの組織や貴族しか保有していません。どの程度の価格帯を想定していますか?」
「そうですね、銀貨二枚・・・・・・とか?」
「銀貨二枚? ・・・・・・それでは利益がでないのでは?」
イナ本人が作製していて人件費が掛からないとしても、殆ど原価に近い価格だ。
相場を理解していない訳ではない。
商人ギルドに来るまでに、二人は市場に出て、ある程度の相場を把握した。
その上で、イナは銀貨二枚が適正であると伝える。
「この魔道具は、子供達に遊んで欲しくて作ったものなので、利益はそこまで求めてません。なので、なるべく手に取りやすい価格設定にしたい。といっても、魔道具なのでどうしても他の玩具よりは高くなってしまいますけど」
計算された腹黒さとは無縁の屈託のない笑み。
商人としてはあるまじき純真さ。聞く者によっては、その思想を利用しようとするだろう。
ただ、今回に限っては運が良かった。
元王都職員、中でも幹部の地位にいたエドガーは、泥沼な内部事情に心身を疲弊して転勤を願い出た過去があった。
良い商品、良い商売ではなく、ひたすらに利権を手に入れようとする金の亡者たち。
いつしか仕事にやりがいを見いだせなくなり、けれど惰性の中で仕事は続けた。
どこか諦めにも似た感情で仕事をする中、『子供達のために』という他者への思いやりの言葉を聞いて、しばし呆気にとられる。
「・・・・・・それは、素晴らしいですね」
経験不足もあるだろう。
醜い感情を持つ人物に触れてこなかったからかもしれない。
こういう相手は大抵、ギルドとしての判断として、すぐに挫折するだろうというものになる。
長く続かない商人に積極的には関わらない。時間は有限だ。
「では、こちらでの買い取りではなく、露店での方が安く販売できるのでいいかもしれません。露店通りにギルドが確保している敷地が幾つかあるので紹介しましょう」
「いいんですか! わぁ~ 実はお客さんのお顔を見ながら渡せたらいいなって思ってたんです! あっ、だったら登録料は手持ちから出しますね」
時間は有限。
しかし、金が全てではない。
エドガー自身の判断として、この小さな森人の一助になればと、ささやかな提案をした。
大都市でもない辺境に近い町だ。利益重視の都会の支部とは違い、彼女自身のペースで進められる提案ができるというのは、この支部ならではといえる。
提案を聞いて、イナは露店での光景を想像する。
自分の商品を欲しいと言ってくれて、手に取ったもので笑顔を浮かべてくれる誰かの姿を。その想像だけで、嬉しくなってついつい上がってしまう口角。
話し合いの場では落ち着いた対応をと理解はしていても、舞い上がってしまうのは、やはり初めての経験だからだろう。
リュックから登録料を出そうとすると、そっとトゥラが手で動きを制した。
「登録料は私の魔道具の買い取りから二人分を引いて貰うから、その硬貨は他の物にあてるといい」
「えっ、でもそれだと金貨十枚になりますよ」
「問題ない」
ぴょんくんマークエイトの隣に、トゥラは自身の魔道具を置く。
円形の羅針盤のような見た目。
よく見れば、魔道具には地図のようなものが見えている。森だと思われる場所には、なにかを示すように赤い点が複数あった。
「これは・・・・・・」
自身の知識にあてはめながら、魔道具について尋ねようとするエドガー。
映っている画面をよくよく確かめる。コンパスのような役割をしているのか、追跡できるようなものなのか。
(ん?)
そこで、エドガーは気付く。
その地図が自分のよく知っているものである事を。
「これは周辺の魔物を探知する魔道具だ」
魔導探知機。
過去の大戦時、魔族が他種族より優位にたてた要因の一つ。
その技術は秘匿され、数世紀経った現在も、魔族以外の種族は魔族が保有する探知機の精度に追随するものを製作できていない。
物品的価値は、おそらく国宝級の値が付く。
「取り敢えず三つ」
それが、三段と重ねられたのを見て、エドガーは取り敢えず気を失った。
トゥラの分を入れたら文字数が大分マシマシになりそうだったので、二分割にします。




