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クエスト de デート①

 やって来たのは、『ラブコンチェルト』のゲートだ。

 いつもにぎやかなのだろう、楽しそうな笑い声がロビーまで聞こえてくる。

 

 セーラー服にブレザーと、さまざまな種類の制服を纏った女子高生たち。

 共通した着こなしは、ぴったりしたブラウスにやたら短いスカートだ。

 

 美少女ゲームの攻略対象を、レンカは穴が開くほど観察した。

 ショートカットにロングヘア。活発な子、純粋そうな子、いろんなタイプがいる。

 確かにみんな愛らしく、アンバーが騒ぐのもわかる。

 

 そして顔は童顔でレンカより背は低くても、彼女たちは首から下はかなりメリハリがあった。

(むう……)

 ヒロインとしては若干おもしろくないが、そこはゲームのメインターゲット層が違うからしょうがない。


「何をしてるんだ、お前?」

 突然背後から声をかけられ、レンカは飛び上がった。


「アンバー、なんでここに!」

「フーフフ、わたしが彼女たちと会っているのにやきもちを焼いてたんだな?」

 今、彼の特殊な解釈にかまっているひまはない。

 花束をかかえ割り込んで来たアンバーの顔をおしのけ、レンカは口に人指し指を当てる。


「しっ、彼女たちの魅力を勉強しに来たのよ、静かにしててね」

「なるほど、魅力か」

 アンバーは『ラブコンチェルト』の少女に声をかけ、試写室へレンカを連れて来た。


「それならゲームをしてみればいい。ここは誰でも好きに美少女ゲームをプレイできる部屋だ」

 

 アンバーがメニュー画面を開き『START』ボタンをおす。

 すると、映画館のようにスクリーンに少女たちが映し出された。


 物語は、どこにでもいるふつうの少年が、この街へ引っ越して来たことから始まるラブコメである。

 しかし実はこの街はとあるゲームの中で、世界のコアを見つけ出し謎を解かなければ、永遠にループをくり返しハッピーエンドへ辿りつけないという、なかなか困難なストーリーだった。

 ルートによっては苛烈な展開が待っていたりと、予測不能の鬱ゲーでもある。


 このプラットホームのプレイヤーは女子なのに、なぜギャルゲーなのだろうとレンカは疑問に思っていたが、いつの間にか夢中で各ルートのシナリオを進めていた。

 せつなさの残る美しいラストはトゥルーエンドの一つなのだろう。悲恋エンドを好む上級者のためか、幅広く楽しめるエンドリストもすばらしく完成度が高い。

 

 ゲームを終えると、レンカはハンカチを手に号泣していた。

「つらい……つらいけど尊い!」

 かわいらしいキャラクターと壮絶なストーリーのギャップに引き込まれ、一時的に語彙力が低下している。


「それで、どうだったか?」

 アンバーに聞かれ、レンカは自分に欠けていたものも見えてきた。

「そうね……」


 いつも攻略する側だったから、攻略される側の気持ちがわからなかった。

 並いるライバルたちの中でいかに魅力的に見せられるか。それが攻略対象の役目だ。


「なんかつかんだかも! ありがとうアンバー!」

「やれやれ」

 パワフルに去って行くレンカをアンバーは苦笑しながら見送った。


『デザート無双2』へもどったレンカはシャルキヤのもとへ駆けつけたかったが、カイヤに交代を強要され、しぶしぶ受付に入った。これまでまかせっきりだったので、さすがに仕方がない。

 それでも、久しぶりにカウンターに立つと身が引きしまるのを感じた。

 異民族の言葉も覚え業務にも慣れてきたため、今では業務もひとりで円滑に回せる。

 

 来たる大型アップデートを控え、サハラは受付を不在にすることが多い。

 しかし彼が立ちあわないのは、信用されている証拠だ。

 こうして仕事をしていると、『憂国のシンデレラ』にいたころは、まわりがなんでもお膳立てしてくれていたことがよくわかる。


(わたし、キャラクターだけじゃなく仕事もプロになったんだ)

 そんな誇らしい気持ちで客を待っていると、ひとりのN P Cノンプレイヤーキャラクターがやって来た。

 道具屋の周辺に立っている、近づくと単発のクエストを依頼してくるキャラクターである。

 彼は武装もせずに、掲示板からクエスト用紙をはぎ取って来るとカウンターに出した。


(うっお酒くさい)

 鼻の頭がほんのり染まり上機嫌だ。どこかで飲んで来たのだろう。

 これは受理できない案件だった。


「申しわけありません、飲酒されているかたのクエストはお断りさせていただいています」

 レンカが頭を下げると、男はにこやかに熊手を持った腕を天板についた。

「ネーチャン、これ貝掘りクエストだから危険はないよ」

 

 クエストには狩猟と採取と二種類あって、採取は砂漠に生息するサボテンや貝を採るものである。

 エリアボスの出現はないが、だからといって生きものがまったくいないわけではなく、雑魚レベルのモンスターはうろついている。

 

 それはさておき、

「どのようなクエストでも出発は許可できません」

 決まりなのでレンカは用紙を返した。

 ネーチャンなどと軽口を叩かれたこともないので、つい口調も強くなる。


「前のネーチャンは通してくれたのにな~」

 サハラが彼女の受付は完璧だったと言っていたので、これは出まかせだろう。

 がんとして用紙を受け取らないレンカに苛立ちを覚えたのか、男は態度を変えてきた。


「あんた、乙女ゲームの主人公なんだってな。お高くとまりやがって、どうせいろんな男取っ替え引っ替え遊んでるんだろ?」

 酔っ払いは無視するに限る。

 男はおもしろくなさそうに舌打ちをすると、勝手にクエストの入り口へ向かった。

 

 どのみち受付を通さねば、入り口は入れない仕様になっているのだが、無理やり陽よけをめくって侵入を試みている。

 こんなときに限ってカイヤもサハラもいないのは困りものだが、マニュアルにはないトラブルに対処できてこそのプロだ。


「だめですってば!」

 レンカが力尽くで男を引っ張ると、ふたりとも床に転がり込んだ。

「何しやがる!」

 男は酔っているとは思えない機敏な動きで、あっという間にレンカを組み伏せた。


(こ、このひとがサハラさんの言う怪しい人物なんじゃ?)

 そんな疑惑も浮かんだが、いきなり熊手でブラウスの胸もとを引き裂かれ、レンカは頭がまっ白になった。

 自分のゲームでもこんな野蛮な仕打ちは受けたことがない。


「クエストに出せないんならおれの相手でもしろよ」

 下卑た笑いがぞっとする。モンスターと遭遇したときとは違う恐怖がレンカを襲い、涙が滲んだ。

(嘘、こんな経験がしたかったわけじゃ……!)

 冷たい金属の爪がスカートのファスナーにかかり──


 突然、ガツンと鈍い音がした。


 馬乗りになった男の顔がゆがむ。

 どこから飛んで来たのか、男の頭を直撃した二枚貝が床をすべった。受付嬢の少女にわたされたタイプのあの素材だ。

 

 そのまま後ろに仰け反って倒れた男と入れ替わるように、

「彼、貝掘りに行きたかったみたいだから」

 サシミは手持ちの二枚貝を見せながら悪戯っぽく笑った。 


 ふるえる肩にマントをかけてもらい、レンカはようやく声が出る。

「あ、ありがとう」

 助けてもらったのはもう何度目だろう。

 こんなことをされたら気持ちは盛り上がるばかりだ。

 

 モンスターに襲われるより貞操の危機のほうが、乙女ゲームでは親密度アップのイベントであるのだが、

「どうしたの? まだ痛い?」

 サシミに特に追加のアクションはない。

 こうもフラグを折られると、どこか選択肢を間違えたのではと不安になる。


「あのサシミさ……」

《レンカ!》

 ふり返ると、シャルキヤがドレスのまま走って来るのが見えた。慣れない装いのせいか、すそを踏んづけ派手に転ぶ。


「ああっシャルキヤさん、大丈夫?」

《レンカこそ大丈夫ですか!? 酔っぱらいに絡まれたって聞いて……!》

 服も髪もくしゃくしゃのまま起き上がると、シャルキヤはがばりとレンカを男前に抱擁した。ゆたかなバストに顔をうずめられ、レンカは涙があふれ出す。


「う……わあああん! 怖かったよー!」

 本当はサシミにこうして抱きしめてほしかった。

 泣きじゃくりながらも不服が(よぎ)ったが、シャルキヤの躰があたたかく、レンカは安心して鼻まですすった。


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