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長田神社古式追儺式、節分の日に毎年行われる行事だ。
この行事では鬼が主役だ。そして、この行事を撮影するきっかけになったのは、PTA会長を引き受けた事と中学生の担任からのメモが大きく影響していた。
長田神社古式追儺式には神社関係者はもちろんのこと、その他、地域の方々が主催している。
長田神社古式追儺式とは、県指定重要無形民俗文化財で現在の豆まき行事のことである。
長田神社古式追儺式では、神々のお使いとしての鬼であり、神々に代わって災いを払い清め祈り踊る。この追儺式では、『鬼』が主役だ。
そして、中学生の時の担任からのメモに書いていた土門拳は日本の有名な写真家である。
私は、土門拳について調べてみた。
メモに書いてあった『筑豊の子どもたち』は、土門拳が筑豊の鉱山に暮らす子どもたちの生活を撮ったリアリズム写真である。
山形県酒田市にある土門拳記念館のホームページにも書かれている、「いい写真というものは、写したのではなくて、写ったのである。計算を踏みはずした時にだけ、そういう写真ができる。ぼくはそれを、『鬼』が手伝った写真と言っている」と言う土門拳のことばが残っている。
私が共感したことばである。
土門拳について書いてある書籍や写真集を見て、1つの被写体にへばりつき、根気よくシャッターチャンスを狙う姿が目に浮かんだ。
そして、先生のメモから私の出した答えが、『密着撮影』だ。
究極のリアリズム写真を撮るには、密着して撮影する事だと私は考えた。
そして、土門拳記念館主催の土門拳フォトコンテストで『土門拳文化賞』を取る目標ができた。
『鬼』繋がりで、長田神社古式追儺式の鬼に密着撮影し、鬼のリアリズム写真をこのコンテストに応募する。
コンテストに応募するためには、撮影の許可も必要不可欠だ。そこでPTA会長が役に立った。
地域のかたとの交流があるので、主催者と調整する事ができ、神社からも正式に撮影許可を取ることが出来た。当日が楽しみだ。
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密着撮影の訓練に家族を密着撮影させてもらった。
可愛い姉妹のいる家族だ。
お姉ちゃんは年長さん、妹は、年中さんだ。
広い芝生がある公園でピクニックをすることになった。
リアリズムを追及するためには、私とカメラを意識しないようにすることが大事だ。
しかし、相手は子ども。
まずは仲良くなることだ。PTA会長をしている私は、子どもの扱いは慣れてるほうだ。
しばらく撮影はおいといて、話を聞いてあげる。
そして、子どもが興味を持ちそうなモノを見つけて、「あっ ドングリ落ちてる!」と教えてあげる。
そこからがスタートだ。
私は子どもたちから少し離れ低い姿勢でターゲットに照準を合わせる。
しゃがんでる後ろ姿。
ドングリを探している真剣な眼差し。
カメラ目線でない自然な仕草を狙い撃つ。
と、その時、次女がキョロキョロと辺りを見渡した。
私は次女に照準を合わせたまま立ち上がった。
その瞬間、次女と目が合った。
やはり私を探していた。
子どもの行動パターンはだいたいどの子も同じだ。
広い集めたドングリを私に見せにくる。
自慢げに見せる顔。
「すごいね」
と言ってあげたあとの笑顔。
ごく普通な日常写真が1番素敵だ。
写真は撮るときに被写体が笑顔になり、後で写真を見たときには、被写体本人と被写体の親なども笑顔になる。カメラは笑顔の量産機だ。
この密着撮影を完成させて、たくさんのリアリズムを残してあげたい。
そのために、必ず『土門拳文化賞』を取る。
無名の私がいくら撮影してあげたくても、この素晴らしさは言葉だけでは伝わらない。
まず、名前を売って、写真を見てもらい、密着撮影の素晴らしさを知ってもらいたい。
【写真10】