- セキへの不思議な依頼
どうやって祖母から意識を離そうかと考えている内に話題の中心の祖母が玄関の扉をガラッと開けて会話に入ってきた。
「おやまあ、何かしゃべり声がすると思ったら木綿ちゃん酷い顔色!唇まで真っ青よ!」
祖母が慌てた様子で木綿子の肩を掴んで座らせようとする。
「待っておばあちゃん、今は家の中に居て!危ないよ!」
「危ないって木綿ちゃんの方が倒れて怪我でもしそうなくらい危険な顔色よ?ほらこっち「招いちゃ駄目!このひとも入っちゃう!」…どのひと?」
祖母の声を遮って叫んだ声はこだまになって広がっていった。祖母はきょとんとした顔をして木綿子を見つめる。
「…何か、いたのね?」
「おばあちゃんに御用があるひとだった」
祖母は木綿子の腕をさすった後、玄関先から一歩外に出てあたりを見渡したがそこには人っ子一人いなかった。
「少なくとも、人間はいないわね…」
「ひとか妖か分かんなかった。混ぜ物みたいな雰囲気の女性で…」
ぷつりと緊張の糸が切れた木綿子はその場にしゃがみ込み大きく息を吐いた。安全ではなかったかもしれないが少なくとも祖母を誘拐されるといった事にはならなかった。ため込んだ緊張が一気に解除されて木綿子は冷や汗でびっしょりの体をぎゅっと抱き締めた。
「木綿ちゃん、その足元に落ちているのはなあに」
祖母の声に足元を見れば白い封筒が落ちている。拾い上げれば…
「久寿軒セキ様…差出人は、…読めない」
「後でお話聞かせてくれる?」
祖母に促され木綿子は大人しく家の中に入った。もしかしたら憑かれているのでは、とも考えたが払う力も思考力ももう残ってなかった。
「その手紙には祖母宛てにこのようなことが書かれていました」
木綿子は鞄の中から萌黄色の風呂敷に包まれた封筒を取り出した。
「魔除けの香を染み込ませた風呂敷か」
「念のためです」
「いい着眼点だ。流石だね木綿子ちゃん」
木綿子は鴇に褒められてうっすら頬に紅を差した。
「久寿軒 セキ様
拝啓
夏の日盛りに木陰が恋しい季節となりました。貴女様はいかがお過ごしでしょうか。…あー長ったらしいな、これを書いた方は古風な人柄なのか?ふむ…本題はここからか。妖たちの声を聴き、その悩みを解決してくださるという噂の緋褪堂のご店主であるセキ様にお願いしたい依頼があるのです。私の愛しい方を見付けて欲しいのです。見つけてくだされば御礼は弾みます。どうかどうか、夏にしか生きられぬ私の願いを叶えてください。近いうち、詳しいお話をしに伺います。
敬具」
木綿子は読み終えた鴇の顔をじっと見つめ、反応を待っている。
「この最後の、近いうちに詳しいお話をしにっていうのが?」
「祖母の遠出の理由です。我が家には入れないから少し離れた場所で話を伺う事になったのですが…」
「相手の都合で一日に少ししか情報を開示してもらえず、セキさんはそこに通う羽目になった?」
「はい…それで今日で三日目」
「そうか…多分だが、セキさんは今日の日没頃帰宅するだろう。但し、ある品を持って」
鴇は手紙を封筒にしまい電灯の明かりに透かして中を見ながら言う。帰っては来る、ちゃんと木綿子の元に帰宅する。
「品?それはおばあちゃんに害を為すものですか」
「いや、為さない。恐らく道案内の道具だろう」
「道案内?」
「ごめんくださいましー。鴇はいるかしら?」
コンコンと店の戸を叩く音がする。今日は来客が多いなと鴇は腰を上げた。




