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- 事の始まりは

「さて、事の始まりから聞かせて頂こうか」

弟子の淹れた茶を啜り、出された茶菓子にも手を付ける。普段の鴇を知る相手だからかいつもの舐められない為の工夫はしない。

「えっと、始まりは一週間前です。私たちの家の前に綺麗な黒髪の女性が佇んでいました」


学校から帰宅した木綿子は、何やら自宅の周辺の妖たちが異様にざわついていることに気が付いた。普段なら物静かな自宅前、聴こえてきたとしても虫の音か祖母に懐いて棲みついた害のない妖たちの声。けれどその日はいつも聴こえる音が聴こえない代わりに空気が震えているような感覚がしたのだ。黄昏屋で購入した妖阻害の丸眼鏡を懐に仕舞い、恐る恐る自宅の外壁の角から玄関前を覗き込む。そこには艶やかな黒髪を後ろで団子にまとめた、一人の女性が佇んでいた。特に変わったところなど見受けられない、遠目に見ただけでは普通の女性である。ただし、木綿子にはその足元が蜃気楼のように揺らいでいるように見えた。自宅に棲みついた妖たちはその女性に向かって台所から持ってきた端やら鍋蓋やらを掲げ威嚇のポーズ。近くの林に棲む普段はあまり見かけない妖たちまで林から出てその女性の動向を観察しているようだった。

この時、木綿子の頭の中には今すぐ引き返して鴇の元―つまり黄昏屋の戸を叩く選択肢があったが、脳が警笛を鳴らしている。このまま引き返せばなにかもっと取り返しのつかないことに巻き込まれると、そんな予感があったのだ。木綿子はまだ己の中に潜む力を図り切れていないし、扱い方も分からなかったが予感・感覚といったものだけは祖母にも鴇にも褒められるほど研ぎ澄まされてきていた。その感覚がいま、引き返すべきではないと言っている。木綿子はごぐりと唾を飲み込んだ。鞄を持つ手が汗で滑る。口の中は乾燥して砂漠みたいだ。


「…あ、の。我が家になにか御用ですか」

掠れる声で木綿子は家の前で佇み続ける女性に話しかけた。女性は木綿子の声に振り向き…にっこりと笑った。白い肌とは対照的な真っ黒の瞳が酷く不気味だった。

「お孫さん?」

「わ、たしは…この家の娘です」

「ここに、耳のいい占い師がいると聞いたのだけれど。貴女のおばあさまがそうかしら」

ピンと張った糸の上を渡るような緊張が木綿子の体を支配する。女性は首を機械的に傾げて木綿子の返答を待っている。

「人違いかと…祖母は占い師でもありませんし、最近耳が遠くなって」

「いいえ、確かにこの家には占い師がいる。それに聴力の話じゃないわ」

「祖母が占いを生業にしていたことはなかったと思います」

聴力の話じゃないわ、分かるでしょと口が動いた気がした。確かにこの近辺なら祖母が妖たちに好かれやすい体質でそういった類のモノの声を聴ける耳を持っていることも知られている。けれど、この女性は近隣では“見たことがない”こんな【人間と妖を混ぜたようなひと】は。

「なーにしてんの、こんな玄関先で」

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