本戦 何と戦ってるかはともかく便所戦
「レヴィン正気か!? 開けながらすんの!? そういう趣味今開陳する!?」
「趣味じゃねーーーわ個室で万一あったらやべぇだろうが、ここは戦場だぞ!」
「だからって個室の扉開けながらすんの!?!??」
この辺のティーネイジャーとの攻防は割愛する。正論(つまり俺)が勝って正しきがなされた結果、プライバシーの崩壊ていう悪徳が栄え、正義こそ正義を持たない裸の王様だと証明されただけだから。そしてそれをどう語っても美しい描写にはならないからだ。
「絶対こっち見んなよ! 音も聞くな!」
「いいから早く用足せ! こっちは深刻にクソが漏れそうだ!」
「下痢止め飲んだろう」
「下痢にはなぁ、薬が効いて止まる下痢と薬がきく前に臨海突破してて出すしかない地点にいるクソがあんだよ! 大腸は長い!」
女子トイレ(初めて入った)には同僚がリビングデッドと化す状況で自決したんだろう遺体と、手洗い場にブラックプディングでも作るつもりだったのかバケツいっぱいに張られた血、バケツからのぞく手首から先がひとつ、一番奥に明かり取り用の窓があった。当然ながら男性用小便器はない。俺は悪いことをしている気がして落ち着かない。
無理やり蹴り開けた三つ並んだ個室、手前の二つには自決遺体が座っており、片方には服薬したと見られる薬が散乱していた。どんだけ怖かったろう。震える手で悪夢であればいいと願いながら、出鱈目に薬をあおって死ななきゃないようなことを、ここの職員はしたろうか? リビングデッドがうろついてるのはわかったが、この大量殺人現場がいかにしてできたのか、俺たちはまだ正確なところを知らない。
一番奥の個室では自決遺体がぶら下がっていて、リアンは全員に向けて言霊で祈り、俺たち二人は素早く奥の遺体をおろした。奥の個室だけトイレの上蓋が割れ外れていて、死後遺体から漏れたであろう排泄物が全部便器インしていたからだ。他の二つは便器の上蓋に座って事切れており、死後二日もあれば体外に出るしかない排泄物のたぐいで便器は汚れきっていた。奥の便器も決してキレイとは言えない状態だったが、こういう状況で一番安心できるのは建物の壁に二面を囲われた奥の個室で、トイレに入ったことで排泄器官が覚醒した俺たちは「もれるモレル漏れる」どちらともなく鳴きながら作業した。
「はいレヴィン交代!」
「ハイタッチとかしねぇから!」
おろしたご遺体は、額にネクロマンシー陣こそなかったものの、服の下のどこに何があってもおかしくはなく、それを調べる時間もなかったので、足を縛って床に転がしてある。
このご遺体の静動を見守り、個室外からの攻撃に備えるのは今や手を洗いたくてソワソワしているリアンの役目となった。
「くさい臭いクサイくさい(Fワード)健康的だな!」
「うるせーな文句言うな!」
「ごめん状況にテンションが狂わされてる」
「それなあ……」
わかる、と俺はいつもの癖でトイレを流してから、ひと死にの現場を荒らしたことに気づく。
ざぁーガボガボ。
故人の排泄物でも、こうひどい事件のトイレは流してはいけない。
それ以前に。
「しんっじらんね! You idiot!」
「……悪かった。状況に動揺してた」
リアンがバールを構える。背中に今までにない警戒の色が浮かぶ。俺は頭を抱えたくなる衝動を抑えた。一瞬でも、状況から目を離すな。
どのゾンビ映画でも、ゾンビは音のする方に向かうもの、というお約束がある。耳は構造で音を聞くので、神経が焼き切れたゾンビでも知覚可能だからだ。ネクロマンシーのご遺体方だって、そこは共通だろう。
女子トイレに扉はついてるが、今のフラッシュ音がどこなり届くだろう程度には、この建物は死の静寂の中にある。
控えめな足音が、こちらに向かってくる。俺はとにかく銃を取り出す。この状況で発砲したら、ケツが裂けるかも知れないが。
キィ、とゆっくり女子トイレの扉を開く音がする。
俺のケツから何がとは言えない特大の一発、本格的な波の第一波、その音に驚いたのか女子トイレの開扉音が一度止まり、それから恐る恐る再開される。
リアンはその場を動かないまま。
「あんた。リアン! なんでココにいんのよ!」
聞き覚えのある声がした。
俺のケツはまだ全てを出し切っていない。




