第50話 学園生活スタート7
それは全くの勘違いだ。
私はたまたまここに居合わせたに過ぎない。
「そ…そう、
そうなんです。」
少女達は魔法の禍々しさが、よほど恐ろしかったのか、ヒロインが何やら勘違いしていることに気がついてジルヴァンに自分達には責任が無い事を論じはじめた。
「私達は、ただの子爵や準貴族の令嬢で、
命ぜられて仕方なく…」
誰に命ぜられたのか言わないあたり、私に対しても弁解を入れられる隙を含ませた言い回しだ。
それもそうよね、例えばとても爵位の高い人から不興を買いたくはないでしょう。
パーティーに顔を出したことない私が何者であるのか分からないのかもしれないけれど、残念ながら貴方達から見たら爵位の高すぎる令嬢なのではないかしら。
でも…真実を知るのは今この少女達と私だけなのか…
面倒な事になりましたわね…
視線が私の返事を待つかのように集中している。
「…なんでしょうか?」
なんと言えば良いのかわからなかったサリエルの口からはそんな疑問符が口をついた。
「…私の教科書や、靴や鞄を切り刻むよう指示したのは、貴方ですよね」
ヒロインは確信している表情だったが、もちろん身に覚えはない。
「いいえ、
貴方と私は今初めてお会いしました。
私が貴方にそんな事するメリットも理由もありませんわ」
「…私は、貴方を知っています」
ヒロインが私の存在を知っている…?
ゲームでは意地悪令嬢として立ちはだかった時に、ヒロインと同じクラスのモブ女が、ラウルに婚約者がいると告げるはずだけれど……
確か、冷酷で性悪な公爵令嬢とか言う噂があるとかなんとかで。
立ちはだかった覚えもないのにそんな事ありえるのだろうか。
サリエルが黙っている事をなんと思ったのか尚も言い募った。
「ラウル様の婚約者、
ラドレス公爵ご令嬢、サリエル・ミューラ様ですよね?」
それを聞いた少女達は、まずい事を言ってしまったと、顔から血の気が引いていく。
「ラウルの?」
ジルヴァンはサリエルをまじまじと見る。
「ふん、
成る程な、あの噂は本当だったか。
性悪だとは聞いていたが、こんな事をしてあいつの心を手に出来るとでも思っているのか?」
誰も私の言葉を聞かないで、ストーリーが進んでいく。
噂?そんな噂がいつの間に流れていたのだろうか。
言葉が出てこず、小刻みに震えているサリエルにジルヴァンは追い討ちをかけるように言い放った。
「では聞くが何故おまえはここに居た?
まさか、偶然とは言わないだろう」
「…偶然ですわ」
「ははっ!
そんな偶然があるのか?
何百人といる生徒の中で、主犯格だと噂されている人間と、その虐めの対象者が虐めの現場に居合わせる。
よく出来た偶然だな、おい」
「よく出来た偶然があったのだから仕方ないですわ」
「ー…そうかよ」
ジルヴァンはヒロインの腕を掴んで屋上の出口へと向かうために、ツカツカとサリエルの方に向かって歩いてきた。
動けずにいるサリエルとすれ違う瞬間、ジルヴァンは耳元でボソリと囁きを残して、屋上からその姿を消した。
「ー…」
微かに震える手で、サリエルは囁かれた耳に触れる。
〝おまえみたいな奴、本当に愛する奴なんかいねーよ〟
全ての物語がゴングを鳴らすように、その言葉はサリエルの耳に焼きついた。




