第48話 学園生活スタート5
屋上の扉を開けるとそこは、前世通っていた学校とあまり変わらず、目立つようなものは何も置かれていない所だった。
違うところといえば、煉瓦色をした地面に、お洒落な形をしたフェンスで人が落ちないよう囲われており、大きな学園の建物なのに広い屋上とは言えなかった。
開けてまっすぐ進んだサリエルは、校庭や併設されているガーデンスペースを見下ろして
ヒロインと攻略対象者のイベントがどの辺りで起きるのか予想を立てようかとふと思ったが
そんな事は不可能かと少しため息をついた。
ラウルとフランツを思い浮かべながらも
風に髪を揺られながら、ただ静かに目を閉じたときだった。
後方から人の声が聞こえてきたのは
振り返ってみれば
塔屋の横隅に、数人の女子が誰かを囲って何やら揉めているようだ。
誰かって、何となく見当がついてしまうのだけれど……
「流石恥知らずの血筋だけに随分と図々しいのね!」
「モルスト様が勝手に貴方によりかかったですって?
なんて言いよう…しかも貴方、ベジスミン様や…恐れ多くも王太子殿下まで、仲がよろしすぎると聞いたわよ」
「まぁ!何てあさましいの!?」
口々に女生徒達が不平不満をぶつけている視線の先には桃色の眉を困ったようにハの字にさせているヒロインがいた。
恥知らずの血筋と言われていたが、彼女は元隣国の王女を先祖に持っている。
だがそう言われる所以がある。
ラドレス公が我が国を勝利に導いた戦争で、隣国は敗戦国となった。元は隣国から仕掛けた戦争というのもあり、終戦協定は次の要求がされた。
・隣国の王の首を差し出すこと。
・戦争の原因にして国の象徴である王女を我が国に嫁がせる。
・ロンバード・ミューラが殲滅した隣国領土は、
我が国の領土とし、ラドレス公爵領と名を改める事に異論を認めない。
等々、数多くの要求がされた。
しかし、隣国の王は己の首を差し出すことを拒み、何の奇跡か見張りの厳しい中逃亡を成功させてしまった。
これでは示しがつかないとなり、
代わりに嫁に来るはずだった隣国の王女は人質として我が国に送還される事となったのだ。
そう。一生涯、人質として己の子孫を残す事を赦されない立場になった。
当時、隣国の象徴を処刑してしまってはまた戦争を起こしかねない状況を鑑みた結果、処刑はしないが子孫は残させないという方針になったようだ。
しかし隣国の王女はその美貌で、見張りの者を誘惑し、その腹に子を宿したという。
様々な物議を醸し出した事柄だったが、どういうわけかその子は産まれても殺されることなく
その子孫が今現在もなお生きている。
それが、この世界のヒロインである
メリル・フィンリアその人である。
「わ…私、そんなつもりないわ」
立場上、様々な辛い思いをしたであろうその人、
必死に、健気にそう訴える少女の表情は、まさしくヒロインだった。




