第20話 フランツの視点②
戸を叩く音が聞こえてきた。
しかし、誰も名乗らず沈黙が漂ったので、不思議に思った僕は少し戸を開いて外を見た。
そこには、ウサギの人形と絵本を抱きかかえて僕を見上げる、義妹がいた。
驚いて、言葉を出せずにいる僕に、義妹は大きな紅色の瞳を上目遣いにしてこう切り出した。
「おにぃしゃま、えほんをよんで!」
「え…と…」
遠巻きにこの小さな少女を見ている時は
少女の母親と同じ栗色の髪と紅色の瞳が、僕を嫌悪する少女の母親を彷彿とさせ、5才の僕には拒絶される事しか浮かばなくて怖かった。
だけど、どうしてだか今、目の前にいるその少女は怖くない。
微かに震えながらも、よく分からないお願いをしてきて、僕を見上げているその瞳は心なしか潤んでいるように見えた。
震えているのは寒いからなのか、それとも僕が怖いからなのか。
兎に角このまま放っておくわけにもいかず、
少女を一旦部屋に入れることにした。
まだ彼女が敵意をぶつけるには言葉も理解しきれない子供だというのがわかっているからだ。
「廊下は寒かっただろう」
そう言って、膝掛けを肩にかけてやり、ソファーに座らせた。
ふと、僕がこの屋敷にきて覚えている記憶を思い出す。ラドレス公爵邸の夜の廊下は、この季節寒いのは勿論だが、蝋燭が所々ともってるとはいえ暗くて怖かった。
この目の前の少女は、もしかしたら廊下が怖かったのかもしれない。というのも、ソファーに座っている彼女の横に腰掛けた僕にしがみついてフルフルと震えているからだ。
「そんなに怖い廊下を歩いて、なぜ来たんだ…」
「…にぃしゃま、ほん…よんで…」
フルフルと差し出された本を受け取って、
彼女に自分の部屋への帰宅を促す。
「今日はもう夜遅い。部屋まで連れていってあげるから、これはまた今度にしよう」
「……」
彼女の部屋へ連れて行こうと
そっと持ち上げようとしたが、
ソファーに掛けられた布をぎゅーっと引っ張ってテコでも動かない。この小動物。




