第21話 フランツの視点③
そんな彼女を見下ろして、僕は思った。
僕もこの屋敷に来た当初1人…いや、いまでもふと僕は独りなのだと感じている。それは寂しくなかったと言ったら嘘になる。
それをはっきり態度で示せる彼女は、とても素直なんだろう。
そうわかってしまうと、知りたくなかったと嫌な気持ちになってしまう。
わかっている。彼女が悪くない事を。
けれど彼女は、言葉を理解していくごとに、母親の言葉がわかるようになったなら、今の面影は微塵もなくなるのだろう。
彼女の存在は、このままいくと、いつかは僕の首を絞め、居場所を奪うだろう。
そして、彼女にとっての僕の存在もまたしかり。
だから、このソファーにくっついて丸くなっている小動物に深く関わってはいけない。
かといって、手荒な真似は今の立場では出来ない。
僕がラドレス公に選ばれるためには、品行方正でいなくてはいけないのだ。
此処で義妹が大声で泣き出したら、それこそ寝静まった使用人や義両親が起きてきて、リリアスの思うつぼになってしまう。
まさか、それが狙いって事は……
…ないか。こんな小動物がそんな事考えられないだろうし。しかし丸いな。ハムスターみたいだ。
…どうしたものか…
サリエルの持ってきた絵本を、パラリと開く。
ウサギの兄弟の話だった。弟ウサギが兄ウサギの病気を治すべく、奮闘している話。
…本当に素直なんだな。
これを見て、兄妹は仲良くするものとでも学習したんだろうか。
仕方ない。
ひとまず、僕は良い兄を演じるしかないか。
軽く息をついてから、フランツは言葉を発した。
「むかしむかしある所に、
2羽の仲が良いウサギの兄弟がおりました。」
フランツの声に、横で丸くなっていたサリエルは顔を上げて、そろりそろりと近づいてきたかと思うと、フランツの右膝に手を置いて、絵本を見ようともたれかかってきた。
その温かさに、フランツは少し動揺しつつも絵本を読み進めていく。
そうしてサリエルは毎日絵本を持って、フランツの部屋を訪れるようになった。
昼間もフランツを見かけると嬉しそうに走り寄ってくるし、お菓子を一緒に食べようと、メアリーと焼いたというクッキーを持ってきたりしていた。
フランツはいつも穏やかに笑っている。
これは演技だ。
機会が来るまで、君の良い兄でいよう。
僕が君を、此処から追い出すまでー…




