初恋は失恋でした
「話がある」
おっさんから呼び出され事務所にいく。
あれから三ヶ月。ボディーガードもつけてもらい、だいぶ平穏が戻ってきた。
俊と哉は追放された。
哉が彼らになにをされたのかは聞いていない。
しかし復帰は無理らしい。
鈴とはあれから会ってない。
事務所に行ってもおっさんと、カゲさん以外とは話さないし会わない。
「どうしたの?おっさん」
おっさんだけが、変わらずいてくれる。
それだけが私の心の支えだった。
カゲさんもよくしてくれるが、同情をよせすげる。
私は可哀想ヒロインではない。
前と同じように接してくれるおっさんの方が心が安らぐ。
「大事な話なんだ。ここではできない。夜、レストランで話さないか?」
「だ、大事な、話?」
なんだろう?でも、なにか、心が浮つく。
「わかった。夜ね。」
「ああ」
おっさんが真剣な顔だ。なんだろうか
「赤城さんと会うのか」
「へ。はい。ご存知なんですか?」
「…ああ。知っている」
カゲさんも知っているのか。なんの用なんだろう
「…色々、想いはあるのだが、君が幸せになってくれることが、私の願いだよ」
微笑むとカゲさんはいなくなった。
「…幸せ?」
なんとなく、なんとなくなのだが
「お似合いですよ」
「そ、そうですか」
おめかししてしまう。
なんだろう。おっさんと事務所以外で会うのは何気に初めてだ。
なんの話?カゲさんの話的にも、いつもの仕事の話ではないのは明らかだ。
「こ、告白…では、ないよね」
そんなそぶりはないし。でも
「守って、くれる、とかかな」
おっさんだけは私のことを知ってくれている。この芸能界で唯一の人。
ちゃんとどもらずに話せる人。
そして、レストランにつく。
「お、おしゃれ、だね」
「ちゃんとしたレストラン、だから」
おっさんも正装だ。
「そ、そうか」
顔が赤い。まさか、本当に告白?年の差何歳あっけ?でもおっさんなら…
そんな浮ついた心は、すぐ砕け散った
「…独立?」
「ああ。俊や哉の取り扱いでもめてね」
おっさんからの話は
「慕ってくれる人たちと立ち上げようかと。ジェネシスからは引き抜きはしない約束なんだが、唯一一人だけお願いをしていて」
移籍の話だった
「SINO、君が来てくれると、嬉しい」
ほほえむおっさん。
「…いつ?」
「実は、もう離職届けは出している」
絶望。わかっていなかった。おっさんは、わたしのことが、わかっていなかった。
「…いつ、こいって?」
「君さえ、よければすぐにでも。相手には話を通している」
最初の約束を大事にしていた、
わたしのことを。
あれだけ嫌なことがあっても、曲を作り続けたのも、事務所にいきつづけたのも。
それが理解されていなかった。
移籍する。それには。わたしは、あなたと約束を。
「…おっさん」
ぷつん。完全にキレた。
自覚している。
今完全にキレた。
竣のレイプ未遂、哉の強姦未遂、あれだけ恩義があって、お姉さま、お姉さまなついたあげくの、鈴の陰口。
それを守ってくれたのがおっさんだった。
この人だけは、この人だけは私の味方。
私をわかってもらえる。
そう思いこんでいた。しかし
「…し、SINO…?」
おっさんが怯えてる
「…おっさん、わたしが、初めて、おっさんと約束したこと、おぼえて、いるのか…?」
声がつまる、泣いているのか、自分のことがわからない
「し、しの。おまえ、ないて…」
「せ、せんきょ…せんきょく。全部つくるって。せんぞくじゃない、でも先に、1000きょく。1000きょくつくる、からって」
ぽろぽろ泣いている。涙が止まらない。
おっさんが絶句している。
「わ、わたし、との、やくそ、く、やぶって、でて、こいって」
涙が枯れた。そして
「ふざけるな!!!!!!!!!」
怒鳴る
まだ約束は果たせてない。
裏切り者になれと言うのか。
あなたとの約束を守ろうとがんばっている私を。
裏切り者は嫌いだ。大嫌い。
おっさんは守ってくれた。わたしにそうなれと?
思考がぐるぐる回る。
「わたしは!あなたのために!全力で!」
つながらない、思考がつながらない
「守ってくれた、あなたを、わたしは…」
だめだ。思考が
「ふざけるな…」
また涙
「…ふざけるなよぉ…」泣きじゃくる。
おっさんは呆然としたままだ。そして
「SINO…本当にすまない」
頭を下げ、出て行こうとする。
おっさんは私のことが理解できる。
いないほうがいいと判断したのだろう。でも
「…ふざけるなよぉ…」
だったら、こんな話をそもそもするな。
悲しい。涙が、涙が止まらない。
枯れてもなお、止まらない。
ああ、そうだ。わたしは、やっとわかった。
「おっさん、ふざけるなよぉ…」
わたし、おっさん好きだったんだ。
その人に理解されなかったから悲しいんだ。そして
「もう、わたしに、かかわるな…」
今日、失恋した。




