それから
それからの記憶はない。
目を覚ましたらそこは病院だった。
(生きてる……。)
仙はガバッと体を起こして辺りを見回した。
周りにはベッドが並んでいて、横のベッドには病人らしき女性がじっと見つめていた。
「?……。」
「なんで…、病院…?」
前の壁を見つめ唖然とした顔で仙はつぶやいた。
状況がつかめないのも無理はない。
「助かる見込みがありそうな人は、みんな病院に運ばれたの。」
仙を見つめていた女がやっと口を開いた。
その言葉を聞いた途端に仙は白髪の頭を両手で掻き混乱する。
「助かる、見込み……?」
「急に光に包まれたでしょ?
あれを生き残った人達は大天災って呼んでるの。
世界規模だったから今も大混乱…。」
「あの光で、そんな被害が…?」
女はコクリと頷いた。
頭から手を離し
驚いた表情でしばし沈黙する。
「あ……。」
急に思い出したように刺された左胸に手をやるとそこには包帯が巻かれている。
「そうだ、みんなは。
俺の村のみんなはっ?」
「村? あなたもしかしてアルリシヤの?」
仙は無言で頷いた。
答えを聞いた女は険しい顔をして言葉をつまらせた。
「何か知ってるのか?」
意味深な表情を浮かべた女に仙が尋ねると、
首を横に振った。
「詳しくは知らない、けど。」
「けど……?」
「病院の受付に、聞いてみたら分かると思う。
同じ街のひとが自分以外生きているのか、
聞く人が沢山いるから混んでると思うけど。」
「そうなのか…、じゃあ行ってくる。」
「あっ待って。」
女が何か言おうとしたが
ベッドから立ち上がろうと床に足を着いた時
仙は足の力が抜けてその場に転びそうになった。
「えっ、な 足がっ……。」
足に力が入らない。
仙はベッドの端に無理な体勢でつかまったまま自分の体の異変に気づく。
それを見た女はベッドから立ち上がって松葉杖を持って仙に近づいた。
「はい、これ使って。」
「なんだってんだこれ。
俺の体おかしくなっちまったのかっ」
松葉杖をついて仙はやっと立ち上がり再びベッドに腰をかけた。
「私も最初は立ち上がったりできなかったけど、後遺症とかじゃないかな?」
「後遺症って…、ほんとに病人みたいじゃねえか。」
仙は下を向いて一度手をギュッと握った。
「一時的なものだと思うから、すぐに回復するはずだよ。
わたしもそうだったから。」
「わたしが行ってこようか?」
女の優しい言葉に仙は視線を外した。
「いいよ、とりあえず…行ってくる。」
「危ないよ…。」
「いい。」
そう言うと再び立ち上がろうとするが
ガクンと力が抜けてしまう。
重なった出来事に現実を見つめられないでいた。
何とも言えない悔しさでベッドの布団を殴ったあと、再び横になった。
「いてえ…。」
息を大きく吸うと時折刺された左胸が痛む。
天井を向いたまま
仙はいろいろと考えていた。
「なあ、借りていいのか?」
女の方に顔を向けるとそう尋ねた。
「なにを?」
「この杖。」
「使っていいから貸したのにっ。」
女は苦笑いをして鼻で笑った。
「…っじゃあ借りてくよ。」
つらそうに体を起こして松葉杖をついて立ち上がろうとすると、
何か思い出したように振り返って女のほうへ向いた。
「なあそういえばここって看護する人とかいないのか?」
「…? いるけど。」
「なんか皆ほったらかしにされてるみたいだからさ。」
周りの他のベッドや廊下をキョロキョロしながら言った。
「かなりの人数が減ったはずだから、人手不足なんだと思う。」
「……そうか。」
いたたまれない表情をしながらやっと立ち上がる。
「気をつけてね。」
「あ、うん。」
廊下に出ると、その光景は想像していた以上だった。
病室に入りきらなかった者達。
安らぎを求めてどうにかして病院に足を運ぶも、どうされるわけでもない者達が壁に寄り掛かって隙間がないほどに並んでいる。
急に暴れ出す者がいれば遠くから看護士か軍の関係者のような人達がそれを止めている。
その者達は病室から出てきた仙を恨めしそうな目で見つめる。
目を合わせているわけではないが、その視線が酷く痛い。
(俺だって、好きでこんなとこに来たわけじゃねえよ…。)
色々な感情を無理矢理抑えつけて、なんとか受付らしい場所に着いた。
「っかぁ、まいったな…。」
ため息混じりに仙は受付に並んだ者達を見て言った。
そこには想像以上の人数が並んでいた。
仕方なく最後列に並ぶも、これではしばらくの時間がかかりそうだ。
(これでも人、減ってるんだよな…。)
そんな不謹慎な思いを抱きながら周りを見渡していると
あることに気づいた。
仙の他に体や顔に模様のある人がチラホラ目についた。
だがそのほとんどが死んだように動いていなかったり
壁に寄り掛かって少しも動かず、ただ下を向いていたり遠くのほうを見つめている。
「……………。」
(みんな、訳も分からずこんな所に連れて来られて、
原因を…知りたいよな。)
仙はただただ彼等を見つめていた。