行き場のない炎
やっと仙の番が来た。
待ってる間は散々だった。
「アルリシヤ村の人で俺以外生きてる人はいますか。」
自分で言った言葉なのにも関わらず、
答えも聞いてないのに何故かひどく悲しい気持ちになった。
仙の顔を見た受付の女性は珍しそうな目で見つめていたが
少しお待ちくださいという女性の言葉の後、仙はしらばくの間待たされた。
「…大変申し上げにくいのですが、今アルリシヤ村では大火災が起きており消化活動にあたっておりますが、今だ──
スラスラ言う女性の言葉。
その後の言葉が聞こえないくらいに仙は酷い脱力感に襲われた。
自ら思い出したくなかった記憶を
村が焼けている光景を断片的にだが掘り起こした。
「俺以外生きている人はいますか。」
女の言葉が終わった後で再び同じ質問を投げ掛けた。
「…救助班の報告によれば、アルリシヤ村の近くで無事が確認されたのは井山仙さんを合わせてお二人だけと。」
無表情で答える女性。
「名前はわかりますか?」
「…ペーペルト、という方だったかと。」
「…ありがとうございました。」
その言葉を聞いた途端に、
仙は後ろへ振り返り病室に戻るわけでもなく、外へ出た。
何故あの時あのまま死ねなかったのか
何故殺してくれなかったのかと、思わないと言えば嘘になる。
外は穏やかな風が流れていた。
本当に世界は大混乱なのかと思うほど。
どれだけ病室のベッドに寝ていたのかは分からないけど、久しぶりに外に出たような気がした。
外の人工芝で作られた庭のような所には何本かの木があり、少し離れた真ん中には大きな木が一つ。
街から離れれば荒野や砂漠地帯が続いており幼い頃から綺麗な緑を見たことがない仙にとっては、新鮮なものだった。
たとえそれが人が造ったものであっても。
仙は出入口から一番近い横長のベンチに腰を下ろした。
人影はチラホラ。
(みんな、死んだのか…? 嘘だろ。)
しばらく考え事をしていると、隣のベンチに若い夫婦のような男女が座ってきた。
目が見えないのか夫らしき人は杖のような物をついている。
そして、何処か見覚えがある。
黒髪、短髪で髪型は普通。
(服装も、どこかで…。)
「…お知り合い、ですか?」
仙の視線に気づいたのか女性の方が話しかけてきた。
それと同時に盲目の男も仙の方に顔を向けた。
「あっ、いや。
どこかで見覚えがあったかなと。」
「…聞き覚えのある声だ。」
仙の言葉を聞いた男はそう小声で言ったあと正面に視線を戻した。
正面からの風が男の前髪を上げた時に仙は気づいた。
(ペーペルト…!)
「お前っ、まさかアルリシヤで俺を殺そうとした…。」
「あぁ…やはりそうですか。」
「なんで。」
(なぜ…?)
「何であんたがここにいるんだ。」
仙は離れるように後ろ手に手をついた。
だがペーペルトの表情はアルリシヤ村で出会った時とは明らかに違う、どこか寂しげで
殺気や威圧感は全く無かった。
「恐れないでもいい、何も出来ないですし、する気もない。
あの後アルリシヤ村から離れようとした時、大天災が起きた。
あなた方の国『キャレブ』の救助隊は私をアルリシヤ村の人間だと勘違いしたのでしょう、それだけのことです。」
仙は危険ではないと判断したのか、体勢を元に戻す。
「…じゃぁ回復すれば、国に戻るのか?」
「いえ、すぐにでも戻るつもりです。」
ペーペルトの口元が緩み。
下を向いてクスッと笑った。
「な、何かおかしなこと言ったか?」
「なんでもないですよ。」
「目、は…?」
「私の目は大天災のせいで、光を失った。」
敵や味方など関係なく、皆つらい思いをしているんだと思うといたたまれない気持ちになった。
「…治療は? もとには戻らないのか?」
「一応処置はしましたが、変わらないでしょう…。」
「……………。」
フッと、眩しい日差しの方へと顔向ける。
「君の言葉に、敵意を消し去られたような気がするよ。
目に光は感じられないが、暖かいとは感じるんだ。」
ペーペルトの陽に照らされた穏やかな表情は
逆に仙にこれからの事を考えさせ
心が曇りそうになった。
「俺の村が、アルリシヤが全て焼けたらしい…。
何か知らないのか?」
ペーペルトの眉がピクリと動く。
「まさか…、私はアルリシヤ村から離れてはいたが、その光景は見なかった。」
「ほんとに何も知らないのかっ?」
ペーペルトは嘘をついているような表情ではなかった。
「信じてもらえないのなら、これ以上何も言えまい。ただ…。」
「ただ…?」
「我々ガウラ帝国の『サダム』にはアルリシヤ村を壊滅させても何等利にはならないはずだ。」
「君の村を何者かが一瞬にして壊滅させたのだとすれば、それは不通の人間でない可能性が高い。
それにかなりの力の持ち主であるだろう。」
仙はその言葉を聞いたあと深い溜息を吐いて俯く。
「…知ってること、
全部教えてほしい。
この、大天災の原因とか。
何でもいいから教えてくれっ。」
「それに、俺の顔の模様のことも…俺だけじゃないようだし。」
ペーペルトは少し黙った後、話し始めた。
「詳しくは知らないが、まず大天災の後から顔や体に模様が出来た人々が現れたようだ。
そしてその人達のことを"ユーベルメンシュ"と呼んでいること。」
「ユーベルメンシュ…?」
「じゃあ俺がその、ユーベルメンシュだってことか?」
ペーペルトは無言で頷いた。
だが仙はここで疑問に思った、大天災後に現れたユーベルメンシュ。
顔や体に模様が現れた者を全てユーベルメンシュと呼ぶのであれば、仙の顔に模様が出来たのは大天災より前になるからだ。
その疑問を投げ掛けてもペーペルトは分からないようだった。
「ユーベルメンシュって病気とか症状ってことか…?」
「それは分からないが、何処かで超能力を身につけた者がいるらしい。」
超能力。
ペーペルトの説明によればユーベルメンシュは全て超能力が使える素質があるんではないかということと
大天災から生き残った人々はユーベルメンシュになっていない者もいるのではないかということだった。
あまりにも非現実的な"超能力"という響きに仙は戸惑いを隠せなかったが大天災のことや顔に模様が出来た時の事を思うとそれも充分有り得そうなことだろうと仙自身も思っていた。




