ディナーへのご招待
「や、やぁ。こんばんは? 」
「え、えぇ。今晩は……」
愛する妹から晩御飯のお誘いを受け、定時に退勤して意気揚々と待ち合わせ場所に向かい二百メートル手前からでも判別できる愛しい妹を見つけて駆け寄る。
キャッキャウフフという表現がこれ程似合う人がかつて居ただろうか。いや居ない(反語)。
それほどまでに人目を憚らずはしゃいでいる三十路のキャリアウーマンを冷めた目で見つめる視線を感じて我に返る。
目の前には愛しの妹 山吹と今や一躍時の人となった(本人は知らないが)真崎 快音その人だった。
思いもかけない組み合わせに流石の碧も状況が飲み込めないで目をパチクリさせている。
妹はというと快音のよれよれのシャツの端を掴んで顔を赤らめている。
「え?あれ?もしかしてこれってあれなのかしら? 初めてここここいこいこいびとぉぉぉぉを紹介する的なぁぁぁぁ!?
いやいやいや!まさかだって!昨日までは……えぇぇぇぇぇぇ!いやまて、私が許す分けねぇだろうがこのくそ童貞が!」
「おねぇちゃん落ち着いて!声でてるから!全部聞こえてるってば!」
山吹が顔を真っ赤にして「もうやめてー」と小さくなっている。あぁ……かわいいよ。山吹かわいい。
「だが童貞!てめーは駄目だ!」
緩んだ表情から一転。ビシッと指を突きつけて目の前の童貞を睨み付けて告げる。
「えぇぇぇぇ!? なんで? なんか俺最近美人に怒られてばっかりなんですけど……」
目の前の童貞が涙声で自分の不幸を呪っている。
泣きたいのはこっちだ! 可愛い妹に何してくれてんだこいつは!
「おねぇちゃん待って! 話を聞いてってば! いい加減にしないと怒るよ!? 」
山吹が必死に何かを訴えようとしている。
ああ、怒った顔も可愛いよ。
「よし。他ならぬ山吹のお願いだから聞いてやろう」
「もう! この人は私が変な人に絡まれているところを助けてくれたのよ! そのお礼を言っていたところにおねぇちゃんが来たの! それなのにいきなり童貞呼ばわりとか失礼にも程があるわ! 」
あ、これは本気で怒っているときの顔だ。
「そ、そういうことなら先に言ってくれれば……」
しどろもどろになりながら言い訳をするが
「説明する暇なんてどこにあったのかしら? 」
腕組みをしている山吹の後ろからはゴゴゴと聞こえて来そうな程の怒気が発せられている。
実際には碧の方が背は高いのだが早とちりの後悔で小さくなってしまっていた。
「ごめんなさい。は?」
「ごめんなさい……」
「わたしじゃないでしょ?」
そう山吹に言われて快音に向き直り再度謝罪の言葉を口にする。
「いえ、こちらこそ……」
快音と碧がお互いにお辞儀をする。
「じゃ!快音さんも一緒にごはん食べに行きましょう! 」
「「え?」」
快音と碧の声が重なる。
「なに? おねぇちゃん何か文句あるの? 」
再びギロリと睨まれてしまう。
そして快音に向き直ると上目使いで
「快音さん。先ほどのお礼とおねぇちゃんの非礼のお詫びにご馳走させて頂きたいんですけど……ダメですか? 」
山吹ちゃんあざとい!アザと可愛いよ!
そんな聞き方されてオーケーしない童貞がいるだろうか?いや居ない(断定)。
「えっと……ごめん。今日はちょっと予定があるのでまた今度でも良いかな? 」
いたー!ここにいたー!
「えー残念です……あ!じゃぁじゃぁ私から連絡するんで電話番号教えて下さい!」
はっ!このままではくそ童貞にも山吹の番号が分かってしまう!
ま、まさか本当は予定なんてないのに、このままではお礼として晩飯一回きりで終わってしまいそのままだろう。
だがしかし!ここで断りを入れることで自然とまた会う機会を設けつつちょっと間をおくことで気持ちが高ぶってきて次会うときには美味しくいただきますという、受け身と見せかけて超肉食の高等技術だと!?
「ちょ!ちょっと待って!快音さんなら天職之神殿来るからそのときで良いんじゃないのかな?私が間に入って調整するわよ?」
「なんでねぇさんが間に入るのよ……。私が快音さんと連絡とったらいけないの?」
じとっと睨まれる。まともな言い訳が思い付かない。
万策尽きたかと思ったそのとき。
「あの、俺携帯持ってないんで家の電話でも良いかな?」
斜め上の返答が帰ってきて二人は固まってしまったのだった。
碧さんがギャグキャラになってしまう…(゜ロ゜)