会議のメインは無駄話である
とある会議室。
昨今の健康ブームで会議中に会議室で煙草を吸う等と言う行為は久しく見られていなかった。
しかしこの会議室に限っては分煙などとは縁遠く、室内には紫煙が漂い机に置かれた灰皿にはこんもりと山のように吸殻が溜まっている。
「それで、現在コチラで確認できているのはどのくらいの数なんだね? 」
ため息と共に勢いよく煙を吐き出した後に中年男性の野太い声が響く。
「では、先程お配りしたお手元の資料の三枚目をご覧下さい」
質問に答える形で女性が発言するとそこかしこで紙を捲る音が聞こえてくる。
「龍族100万 鬼族70万 魔族120万 神族130万 巨人族50万 聖霊族30万……合計で500万ユーザーを突破しております。なお、この数字は正規ユーザー数のみのカウントとなります」
場がざわめく。500万と言う数字は一つの目標とされていた数字であるため肯定的な囁きが多く聞こえる。
尤も予定していた期間を大幅に越えてしまっているのでその辺りの事情を知るものは漸くといった心境だろう。
「よろしいですか? 」
ゴホンと咳払いして別の若い男性の声がざわめきの中で挙手して発言する。場が静まり自分に視線が集中したのを確認してから声の主は続けた。
「魔法使い候補者が現れたという噂を小耳に挟んだんですがご存知ですか?深緑所長」
その男性の発言内容を聞きまた場がざわめく。
質問をした若い男性はしたり顔で深緑所長を見るとニヤリといやらしい笑みを浮かべる。
「あら。【if】の時間ではまだ百五十年ほどの稼働ですから流石にそこに辿り着いた造物は居ないと思います。そう言う話が皆さんのお耳に入るということは、こちらの流している【都市伝説】の情報がきちんと浸透していることの証左と捉えてよろしいかと思います」
予め用意していたかの様にすらすらと回答する深緑所長。
実際この質問は十分に予測出来た質問だった。
この会議室に集まっているのは魔界の各種族を代表する運営者達とその管理者達だ。
【if】は魔界では幻想遊戯として一般に浸透している。人間界で言うところのMMORPGの物凄い版と言う認識でよい。
ただし実際は魔界の魔術技術の粋を集めて作られた【強制転成装置】であることは伏せられている。
『転生』ではなく『転成』であるところがこの魔術技術の肝だ。新たな生と言う意味で言えば『転生』に該当するのかもしれないが、本人の転成前の性能が優れていれば優れているほど【if】の能力は反比例した性能に『転成』される。
当然ゲームとして成り立つ最低性能と最高性能は設けているが、大抵は平均以上の性能になる。
最低性能で転成されるなんて魔界でも数えるほどしかいないだろうし、そんな方々はこういう類いのものに手を出したりしない。
唯一の例外があるとすれば……
「……と言うことでどうでしょうか? 」
質問をした男性がまた何か発言をしたようだが、考え事をしていて内容を聞き逃してしまった。
「ごめんなさい。もう一度お願いします。」
「おやおや。何か考え事でもされてましたか? 魔法使い誕生ともなればイベントの一つや二つ用意した方が良いのではないですか? という提案なのですがいかがでしょうか? 」
なるほど。ここで了解すればこちらで魔法使い候補を把握していると言ったも同然ということで、企画会議やなんだと理由をつけて候補者の情報を手に入れて接触を図ろうとの魂胆だろう。
「そうですね。それは確かに良いアイデアだと思いますが、候補者もいない現状では他に優先対応すべき課題がありますので……即答は出来かねますので今回はその様なご意見もあると言うことで伺っておきます」
ここでは明確に否定しておくのが得策だ。
ただ、イベントという案は頭の隅に置いておこう。
「候補者は居ないと?」
しつこい。
「そうですね。もし居るのであれば私も知りたいので、あなたにその『噂』とやらをお話になった方のお名前を教えていただけますか?私が直接確認しますので」
「あぁ、いやそれには及びませんよ。そういえばどこかで聞いたという程度の噂なので明確に誰がと言うことではないのですよ」
オーバーリアクションを取ってそう言う。
たまたま自分が手に入れた重要そうな情報を見せびらかす事で自分が偉くなったと勘違いしているだけの小者か。
魔法使いの重要性を知っているならこんなところで発言しない。
おおかた自分の地位を少しでも上げたいだけだろう。
ぼろが出ると思ったのか少し追求しただけですぐ引き下がった。
「では、続きまして資料の四枚目を……」
その後の会議は恙無く終了し、魔法使いの話題に触れるものは居なかった。
***
パタンとドアを閉めるや否や大きな声が部屋に響く
「あーもう!ほんっとうに面倒くさいですねこの会議は! 」
所長室のソファにドカッと座って愚痴る。
「所長さんも大変ね」
若い女性の声が答える。
「いつでも変わってあげるわよ~? というか変わって~ 」
ソファの背凭れにぐでーっと身体を預けて後ろにいる人物を視界に入れて言う。
「おねぇちゃんがやりたいって言ってやったんだからしょうがないじゃない。頑張って!」
と妹の深緑 山吹が逆さまの姿で元気な声で答える。
よっと言って身体を起こし山吹に向き直る。
今日の彼女は清楚系で身を固めている。
「やまちゃんのいぢわる~」
口をとんがらせて拗ねて見せる。
「えーおねぇちゃんがそれ言うかな……」
じとーっとした目で見ながらボソッと呟く。
「はいはい。で、今日は何の用なの? 」
「あ、えっとね。この後何もなければ晩ごはん一緒にどうかなって」
にこりと爽やかな笑顔でディナーのお誘いを受ける。
我が妹ながらなんて可愛いんだ。その辺の男には絶対にやらん!と妹愛を再確認して親指を立ててこう言った。
「喜んでー!」
会議って無駄だと思う話が多いじゃないですか。
でもその無駄話のなかには『はっきりと言えないけど汲み取って欲しい情報』とか『そう言う話したんだからそっちもなんか情報ないの?』的なのも含んでるんですよね。
まぁ中には本当に無駄話だけで終わる人もいますが……。
何が言いたいかと言うと本気の雑談は休憩時間にやってくださいと言うことです。(;・ω・)




