魔界のコーヒーは刺激的じゃぞ?
「おうおういらっしゃいサラ。それにカインも。久しいな」
「ど、どうも……」
口の悪い和装少女についてサラのじい様の家に入ると外見に反して中はとても広く、じい様の居る研究部屋らしき場所まで五分ほど歩いた。
その間サラは無言で前を歩く和装少女を観察していた。
先程起こったことは実際に見た俺にも信じられないことが多かった。
まず、サラは魔法に関しては魔界トップクラス(自称)らしい。
そのサラの怒りに任せて放った一撃を受けて無傷で居ることがあり得ない。
あいつらが聞いたら笑って「あり得ない」を連呼するだろう。
ん? あいつらってどいつらだ?
「コチラでございます。視姦痴女様とその下僕共。妊娠するのでジロジロ見ないで下さい」
そんなことを考えながら歩いていると和装少女に到着を告げられる。
しかし、この口の悪さなんとかならんもんかね……。
「だ れ が 痴女 だ っ てぇ!」
「サラ! いちいち気にするな! 本来の目的を忘れるなよ?」
慌てて止めに入る俺をキッと睨みフンッと鼻をならしてドアに手をかけるサラ。やれやれだ。
ふと脇をみると俺の顔をジーッとみている和装少女と目が合う。
「な、何か?」
そのまっすぐな瞳にどぎまぎしながら尋ねるが、ボソッと何か呟いて一礼して元来た道を帰っていった。
後頭部を掻きつつ振り返るとちょうどサラがガチャッとドアを開けるところだった。
ドアの先はこれぞ魔界の研究部屋! と言ったベタな部屋ではなく、一見すると大きな書斎と言った感じだった。
部屋の中央には大きな切り株をくりぬいた円卓と円環状の椅子があり、その椅子に一人の竜老人がちょこんと座って茶を啜っていた。
ここで漸く冒頭の挨拶に移るわけだ。
「おうおういらっしゃいサラ。それにカインも。久しいな」
「ど、どうも……」
「おじい様! あの口の悪いのはなんなんですか!? 説明してください!」
開口一番ずかずかと詰め寄るサラ。
「あ、あぁ……《紫子》の事か? アレはワシにもどうにもできんでなぁ。慣れれば気にならんよ」
そう言って老人らしからぬ豪快な笑い声を響かせた。
「っ! でもっ!」
言いかけたサラの肩に手をやり首をふる。
「わかったわよ!」
サラも本来の目的はそこではないことを思い出してくれたようで、渋々引き下がった。
「フム。サラから大体の話は聞いているが……カイン。お前の口から改めて聞かせてくれるかの?」
穏やかな表情でそう尋ねるサラのじい様。
「ええと、初めまして。まず、俺は真崎 快音と言います。人間です。この身体はあなた方が知っている龍族のカインの身体だそうですが、精神……というか意識は人間の快音……つまり俺のもののようです」
「ウーム……実に不思議じゃな……龍族の男は基本的に瞳の虹彩は青いんじゃ」
ホレと言って自分の瞳を指差す。確かに青い。
「お前さんは濃い茶色をしているな。しかし、魂というか精神はきちんと龍族のモノを感じる。じゃぁカインなのか? と問われると何とも言えない違和感がある……」
俺の話の後にじっとコチラを見つめたかと思うと、不思議そうにそう話すじい様。このなんでも見透かすような目が昔から苦手だったが、頭を捻っているじい様は新鮮だった。
アレ? 初対面だよな?
「まぁ立って話す内容でもないな。ささ、そこの椅子にかけなさい。今コーヒーを淹れてやろう。魔界のコーヒーはかなり刺激的じゃぞ?」
そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべて書斎の奥にスーっと滑るように消えていった。
「じゃぁ座ろっか?」
そう言ったサラは機嫌が戻ったのかいつもの可愛いサラだった。
暫くするとカップを乗せたお盆をもってじい様が現れた。
一見すると普通のコーヒーのようだが、刺激的というからには相当苦かったりするのだろうか?
そんなことを考えながら脇におかれたシナモンスティックを香り付けの為にコーヒーに入れた。
『GYAAAAAA! ! !』
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
シナモンスティックをカップに入れた瞬間、この世の終わりのような断末魔の叫び声がスティックから聞こえ、魂が持っていかれそうになった。
「ぶわっはっはっはっは! 記憶がないというのは本当のようじゃの?」
「おじい様! 悪戯が過ぎるわ! マンドラスティックなんて物騒なものなんで持ってるのよ!?」
「いやーすまんすまん。昔、おんなじことをカインにやってトラウマになったらしいからの。本当に記憶がないかちょっと試してみただけじゃよ」
一時落ち着いたサラが再びプリプリと怒り、それを大して気にした様子も見せずに笑い飛ばすじい様の声を聞きながら椅子からひっくり返った俺の意識は徐々に薄れていった。
「ちょっとカイン? ねぇ! 大丈夫? おじい様! カイン息してないんだけど……」
「んーどれどれ? ありゃ本当じゃ。情けない奴じゃのう……」
「お じ い さ ま? 漸くこっちに戻ってきたと思ったのに何してくれちゃってるのよ!」
呆れるロンドギルにまたもや詰め寄るサラ。
「もうアレじゃ。お前も【if】いくか? 今までの《観戦垢》じゃなくて《管理者垢》として。【if】に管理者で行っておる奴に話はつけておくから。どうじゃ?」
突然の申し出に心の準備が出来ていないサラは怯んだ。
「え……それってどういう……?」
「どうもこうもそのままの意味じゃよ?《造物垢》じゃとお前の能力じゃ外見はともかく相当難易度高いからの。《管理者垢》でも魔法は使えんが身体能力だけでも今の人間界なら問題ないじゃろう」
少し思案する風を装ってからロンドギルは研究者の目をしてサラに説明する。
今までのサラはロンドギルが指摘した通り《観戦垢》を使って【if】に一時だけ存在できた。
実際に人間界に干渉するためには対象が設定した『秘密の言葉』を対象者から引き出す必要がある。
初めて快音に会った時に尋ねたのはその『秘密の言葉』だ。
金の腕輪と銀の指輪はそれ以外にも二人にとって大事なものだったのだが、それすら忘れてしまったカインに怒りの矛先が向かうのは仕方ないことだろう。
「あー考えたらなんか腹立ってきたわ! 良いわおじい様。実の孫娘を使って何か企んでいそうなのが気にくわないけど。【if】で私は何をすればいいの? 」
覚悟を決めたサラがロンドギルの真意を訝しみながら尋ねる。
「まずは快音の《転職》じゃな。見たところ儀式の準備はしているようじゃから、後は儀式を終わらせること。その後は一度コチラに戻ってきなさい。ホレ」
そう説明するとキンッとコインを弾いて寄越した。
「これは?」
裏表を観察すると両面に同じ龍を象った紋様が彫られただけの、なんの編鉄もないコインだった。
「《管理者硬貨》じゃ。無くさんようにな?因みに『硬貨』には「高価」と「硬化」と「効果」と「降下」が含まれているんじゃよ」
ふふんとどや顔で説明するロンドギル。そのどや顔はサラがするものとそっくりなことをサラは知らずに呆れた顔で応える。
「はいはい。コインて言ってる段階で硬貨に限定しちゃってる気がしないでもないけど、すさまじい魔力が凝縮されているのを感じたわ。ありがとうおじい様」
何だかんだで孫娘のことは心配してくれているのだろう。ロンドギルの温かい魔力を感じる。
「気を付けてな。何かあったらすぐにそれを弾いて「表を出しなさい」コチラに戻ってこれる。では、したの部屋で用意をするよ」
そして、サラは快音を担いでロンドギルと二人、更なる地下へと進んでいった。
という訳で漸くさらさん本格参戦の予感です!
乞うご期待!




