天才と秀才
霊夢「これは、東方projectの二次創作小説です」
咲夜「登場する人物、団体、その他名称はいっさい関係ありません」
「やっぱり最後は咲夜と戦うのね。まあ、なんとなくわかってたけどね」
霊夢は咲夜を見て、薄く笑って見せた。
「あら、私はまったく想像してなかったですわ」
咲夜は、いつもと変わらぬ仕草と表情で、嘘をついた。
「魔理沙は私が倒した。あなたは妖夢と、ウドンゲかしら? その二人を倒した」
「それはどうかしら? まだ生きている可能性だってありますわ」
また嘘をつく咲夜。だが霊夢は、わかってたかどうかは定かではないが、はっきりと否定した。
「そんなはずないわよ。霊威感知能力が、はっきりとしている。ウドンゲがやられた証拠よ。それに、恐らくウドンゲは妖夢と共に行動をしていた。あの二人は仲が良かったから、最初に会った時から手を組んでいたはずよ」
どこをどう推理したら、そんなに確信を付けるのかしら?
実際まったくその通りだ。ウドンゲは最初に会った時から、妖夢を仲間に引き込むつもりだった。それを霊夢は、霊威感知能力がぶれていることから全てを推測したのだ。
本当にどんな頭してんのよ? 私でも、そこまでの推測はできないわよ。
「早苗はどうなったかは知らないけど、霊威がないことから、いないことがわかるわ」
「だから私が最後だと?」
「そうよ」
咲夜は溜め息を吐いた。その行動に、霊夢はムッとした。
「何よ?」
「なんでもありませんわ」
ただ単に、呆れているだけよ。
「なんか知らないけど、バカにされた気分ね」
そう言って、戦闘体制に入る霊夢。
「バカになんかしてないわよ」
咲夜は弁解したが、霊夢は聞き入れなかった。
「ふーん。でも、なんか作戦を練られる前に、倒したほうがいいわよね」
霊夢は、そこら辺の木から枝を折り、咲夜に向かって走った。
咲夜は瞬時に反応して、ナイフを二本出現させて投げる。
霊夢はそれを、枝で叩き落とす。
「!!」
そうか! 霊力!
思った時には、咲夜は行動を移してした。
ナイフを二本取り出して、走り込んで来る霊夢に向かって走った。
急に距離を縮められ、急停止する霊夢。そこにできた隙を逃さず、咲夜は攻めた。
咲夜は霊夢の首や脇腹といった、致命傷になりうる場所狙って攻撃する。霊夢は躱しながら、受けながら、攻撃を凌いでいる。
「くっ!」
怒涛の猛攻に押されぎみになる霊夢。このままでは不味いと思ったのか、ポケットから缶のような物を取り出し、自分と咲夜の間に放る。
「これは!」
強力な霊激が発生した。霊夢と咲夜に、大きな間がうまれた。
「霊激グレネード」
ぬかった。霊夢はグレネードを持っていないと踏んでいたけど、まさか持ち合わせていたなんて。
あれ? でも、最初は持っていなかったはず。
「魔理沙から奪っといて正解だったわね」
納得。そうゆうことだったのね。
魔理沙から奪ったとすれば、まだ何か隠し持ってる可能性があるわね。
咲夜は、霊夢との距離を保ちながら、横歩きで移動する。
霊夢も、鋭い視線を咲夜に向けつつ、咲夜とは逆の方向に横歩きする。
二人が同時に止まる。
互いににらみ合い。時間が止まったように、お互い動かずにいる。
刹那。本当に時間が止まった。
霊夢も気付かないほどの一瞬、この世界は静止した。その間、咲夜は行動を移した。霊力を最大限に利用して、自身の速度を四倍、投擲ナイフの速さを三倍にはね上げた。もはやその速度は、たとえ時が動いていても、見切れる速度ではないだろう。
案の定、その通りだった。驚異的反射神経を持つ霊夢でさえ、ナイフを見切りきれずに、十本中四本当たってしまった。
「ぐっ!」
当たった場所は、左腕と右足、右脇腹と左太股だ。
霊夢の体力が8減った。
ナイフは刺さりはしないが、痛覚はそのままなので、相当な痛みがある。故に、霊夢はその場に膝をついてしまった。
「企画外もいいところですわ、あの速度のナイフを半分も避けるなんて」
明らかに咲夜に焦りが見える。恐らく、今のが最終手段だったのだろう。咲夜は気付いていたのだ。霊夢に勝てる、恐らく唯一である攻撃を。それがこれだった。
初見最高速弾幕。だが、これは弾幕と呼べる程のものでもない。
しかし、以前の紅霧異変の時に、咲夜のスペルカードの中で、一つだけ霊夢を追い詰めた弾幕があった。
『奇術・エターナルミーク』
高速で疾駆し、乱雑に放たれる弾幕は、霊夢をかなり苦しめた。結果的には負けたが、霊夢にスペルカードを使わせることに成功している。
そこからヒントを得た作戦がこれだ。弾幕禁止のルールの中、これだけことができればたいしたものだ。恐らく妖夢でさえ、これを避けるのは容易ではないだろう。半分以上は当たっていたはずだ。
半分以下。これはどうゆうこと? 霊夢は何かしたのかしら?
「霊道ノ七十・霊威回避」
霊夢から漏れたその言葉を、咲夜は聞き逃さなかった。
霊道か。言葉から推測されるものは、放出される霊力をナイフに当てて、軌道を変えるといったところかしら。
「……」
霊夢はなんとか立ち上がるが、足元がふらついている。
観察を続ける咲夜。
どうやら、全てのナイフを思い通り動かすことはできないみたいね。霊威の方向も一定だし、強さも一定みたい。
「……それはそこまで強力な霊道ではないみないね。なら、もう一度やらせて貰いますわ」
そう言って、ナイフを一本取り出す。
勿論これははったりだ。咲夜自身が、もう一度あの攻撃できるだけの霊力が残っていないのだ。
騙されてくれればいい、けれど相手は霊夢、そんな調子のいいことはないだろう。
案の定その通りだった。
「嘘言わないでよ。もうたいして霊力残ってないでしょあんた。てっ、私が言えることじゃないか」
「……そうね」
霊夢も度重なるコルグレイスの発砲で、霊力がかなり失われているのにも関わらず、九十番台の霊道も発動させている。消費は半端ではないだろう。
ガス欠寸前で、手足に痛覚が残っている今なら、倒せるかもしれない。たが、懸念が残る。
「…………」
咲夜は霊夢の右のホルスターに入っている銃に目をやる。
あの銃は危険過ぎる。私のナイフを二本とも砕いたのもそうだが、私自身を吹き飛ばす程のあの力、あれが厄介だ。
「……」
「……」
霊夢とにらみ合う。次の一瞬を皮切りに、戦いは終演えと向かうだろう。そのことを理解しているのかは知らないが、互いに一歩たりとも動かなかった。
「……」
火蓋を切ったのは咲夜だった。
時間操作によりナイフの速度を四倍に引き上げる。その速度は、音速に匹敵する。
だが、霊夢の霊威回避もだてではなかった。咲夜のナイフは軌道をずらされ、後ろの木々を貫通しながら飛んでいった。
通り過ぎたことを確認した霊夢は、痛みで痺れた手足をなんてか動かし、咲夜に特攻を仕掛けた。
右手に持った枝に、籠められるだけ霊力を籠める。それを勢いに乗せながら、思い切り横なぎする。その瞬間、霊道を発動。
「霊道ノ六十六・神風刃!」
強力でかなりの大きさの鎌鼬が、横一線に咲夜に迫る。
しかし、咲夜はとても冷静だった。霊夢が放った場所から距離もあったから、たったコンマ2秒程度だったが、観察し作戦たてる時間があった。
「時よ」
瞬間、世界が凍りついた。
次に動いた時には、咲夜は鎌鼬を飛び越え、空中でライフルを構えていた。
霊夢も瞬間的に枝を捨て、コルグレイスを引き抜き、咲夜に向けて構える。
同時に発砲。しかし、撃った弾は、互いの弾により相殺してしまった。
咲夜は地面に着地すると同時に、また時間を操作した。それにより、霊夢の目の前まで接近する。そこから首に一太刀入れようとしたが。
コルグレイスの反動が手に残る中、霊夢は驚異的反射神経を駆使して、咲夜の一太刀を体を後ろに反らすことで躱す。
さらに追撃を加えようとした咲夜に、霊夢の反撃が始まる。
「霊道ノ七十二・赤火の衣」
霊夢は紅色の気を纏った。赤火の衣は、単なる筋力強化の霊道。だが、それを霊夢が使うと、とんでもない力を発揮する。
だが、赤火の衣には、更に上が存在する。それについては、またいずれ話すとしよう。
圧倒的戦力差、こうなってしまっては、もう霊夢に勝てる人間はいない。
今の今まで有意な状況にいた咲夜だったが、劣勢に追い込まれてしまった。
霊夢の正拳突きが当たってしまったからだ。
卓越したボディーバランスを持つ霊夢は、筋肉の質も人一倍だ。流石に妖夢には劣るが、少なくとも咲夜よりはある方だ。
しかも、気の使い方が上手い霊夢は、美鈴相手でも、武術で対等に渡り合えるだろう。
それほどの人間の拳打だ、痛いなんてレベルじゃない。魔理沙も、一発貰ったら致命的と言っているくらいだ。
拳打の衝撃で後方の木に背中を打ち付けた咲夜は、そのままずるずると腰を落とす。
「私の勝ちね」
コルグレイスを咲夜の頭に押し付ける霊夢。ホッとした表情をする。
「そうのようね」
悔しいでもなく、残念でもなく、やれやれといった表情をする咲夜。やはり心のどこかでは、霊夢に負けると思っていたようだ。
「やっぱり強いわね、咲夜は」
「勝っといて言う台詞ではないわね」
霊夢は笑みを浮かべ、咲夜は呆れる。
「それじゃあ、また後で」
「ええ、また後で……」
刹那。咲夜はいつの間にか立ち上がり、ライフルを腰だめして、親指をトリガーにかけていた。銃口は霊夢の心臓。
「……会いましょうか、霊夢」
―――東方サバイバルゲーム 終了―――
霊夢「次回、最終回」
咲夜「見てくださ〜い」