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準男爵家の二男だが、合理で戦場を支配したら公爵令嬢と侯爵令嬢に選ばれた件  作者: 慈架太子


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7話:合理の勝利

辺境の村を包んでいた濃密な死の気配は、合理という名の冷徹な刃によって切り裂かれた。


第二ライン――そこは、アルト・フェルディスが設計した「死の袋小路」だった。

地形の起伏を計算に入れ、村人の歩幅と疲労度を考慮し、最も少ない運動エネルギーで最大の殺傷効率を生むように調整されたキルゾーン。


魔物たちは、自分たちがなぜ死ぬのかさえ理解していなかっただろう。

正面からぶつかれば脅威となるオークの怪力も、アルトが配置した泥濘と障害物によって分散され、横から突き出される村人たちの槍の「標的」へと成り下がっていた。


「右翼、三度閉じろ。圧力を逃がすな。中央、一歩引いて空間を作れ。誘い込め」


アルトの声は、怒号の響く戦場にあって驚くほど静かだった。その静寂が、パニックに陥りかけていた村人たちの脳に冷水を浴びせ、彼らを「兵器の一部」として機能させていた。


アルト自身は、最前線のわずかに後ろ、全体の魔力流を観測できる位置にいた。

彼の視界には、もはや魔物の肉体は見えていない。あるのは個体ごとの質量、速度、そして放出される魔力のベクトルだけだ。


(個体数、残り十二。殲滅率、八十七パーセント。……予測完了)


一体の大型個体が、無理やり木柵を破壊して突入してきた。村人たちが悲鳴を上げ、陣形がわずかに歪む。

だが、アルトの動きに迷いはなかった。


「指示通りに動けと言ったはずだ」


アルトの身体が、弾かれたように加速した。魔力による身体強化――それも、心肺機能と脚部の筋肉にのみピンポイントで負荷をかける、極めて効率的な術式行使。

すれ違いざま、アルトの剣が銀の閃光を描いた。

大型個体の膝裏を正確に断ち、重心を崩した瞬間に喉元を貫く。血飛沫が舞うが、アルトはそれを避ける動作すら最小限に留める。


その時だ。


(……回収ドレイン


絶命した個体から霧散しようとしていた魔力の残滓。本来なら大気中に溶けて消えるはずのエネルギーが、アルトの掌に向かって吸い寄せられた。

魔力循環のコピー、そして変質。

アルトは他者の魔力を、自身の回路に適合する形へと「再変換」しながら吸収する技術を、この実戦の最中に完成させていた。


(不純物、除去完了。変換効率、六割。……補給には十分だ)


身体の奥底に、新しい熱が宿る。

リュミエラに撃ち込んだ「強制起動」のバレットとは違う。これは、システムそのものを拡張するための燃料だ。


「アルトさん、前方の群れが、崩れます!」


後方から、復帰したリュミエラの声が響いた。

彼女の杖が放つ光の矢――コピーされ、彼女なりに咀嚼された「ホーリーバレット」が、逃げ腰になった魔物の背中を正確に射抜く。


「追うな。逃げ道を作ってやれ。追い詰めれば無駄な抵抗でこちらの損害が増える」


アルトは冷徹に勝利を確定させる。

全滅させる必要はない。この村を「捕食対象」として不適格であると認識させれば、それで防衛は成功なのだ。


やがて。

最後の一体が森の闇へと消え、後に残されたのは重なり合った魔物の骸と、荒い呼吸を繰り返す村人たちだけだった。


「……勝ったのか?」


一人の若者が、血に汚れた剣を落とし、呆然と呟いた。

沈黙が広場を支配する。

それは、昨日まで絶望に沈んでいた彼らには到底信じられない結末だった。


「勝ったのではない。生存しただけだ」


アルトは剣を鞘に納め、乱れた息を整えることもなく言い放った。


「勝利という言葉に価値を見出すな。それはリソースの浪費だ。今はまず、負傷者の再検分と、防壁の仮補強。そして死体の処理だ。疫病の発生確率は、戦闘中の負傷より恐ろしいぞ」


その言葉に、村人たちは顔を見合わせた。

本来なら、救世主としての言葉を期待したのかもしれない。感謝や、労いや、熱い抱擁を。

だが、目の前の青年が与えるのは、常に次なる「作業」と「生存のための手順」だけだった。


「……ふふ、本当に……最後まで可愛げがない人」


リュミエラが、杖を支えにしながら歩み寄ってきた。

その顔はまだ青白かったが、瞳には確かな生気と、そしてアルトへの複雑な信頼が宿っていた。


「でも、あなたのその『冷たさ』が、この村の全員を救ったんです。それは、認めざるを得ませんね」


「俺は救っていない。死ぬ確率を削っただけだ」


アルトはリュミエラを一瞥し、そのまま村の中央へと歩き出す。


「リュミエラ。お前もだ。強制起動の効果が切れる前に、重傷者の最終処置を終えろ。動けなくなるまで、あと四十分だ」


「はいはい、分かりましたよ。ミスター・ロジック」


リュミエラは小さく笑い、村人たちに指示を出し始めた。

アルトの冷徹な指揮と、リュミエラの献身的な癒やし。

相反する二つの力が噛み合い、崩壊寸前だった村は、奇跡的なまでの「平穏」を取り戻しつつあった。


アルトは歩きながら、自身の右手のひらを見つめた。

そこには、戦いの中で吸収した魔力の残滓が、静かな熱を持って渦巻いている。


(魔力保有量、上限の拡張を確認。……副産物にしては、悪くない収穫だ)


合理の男は、夜明け前の空を見上げる。

東の地平線が、わずかに白み始めていた。

彼にとって、この勝利は通過点に過ぎない。

世界という巨大なシステムを、より効率的に、より最適に書き換えるための。


「……さて。次は、この村の『復興』という名の演算を始めるとするか」


アルト・フェルディスの歩みは止まらない。

感情を切り捨て、結果だけを積み上げる彼の旅は、この夜明けと共に、また新たなフェーズへと移行していく。


第7話、合理の勝利。

朝の光が、静かに戦場を照らし出していた。

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