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準男爵家の二男だが、合理で戦場を支配したら公爵令嬢と侯爵令嬢に選ばれた件  作者: 慈架太子


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19話:ざまぁ

朝の光が村の広場を照らし、戦場の泥を白く乾かしていく。


一晩明けても、バルトロ・フォン・ゼーレの脳内は昨夜の絶望的な盤面から更新されていなかった。彼の足元には、磨き抜かれたはずの革靴が泥に汚れ、見る影もない姿で立ち尽くしている。


「……私の指示は正しかった。兵法書には、密集こそが火力を最大化すると記されている!」


バルトロの震える声が広場に響く。

しかし、その声に耳を貸す者は一人もいなかった。騎士たちは黙々と馬車を整え、村人たちはアルトが示した「復興のタイムスケジュール」に従って、瓦礫の撤去を始めている。


アルト・フェルディスは、その光景を視線の端に捉えながら、アイテムボックスから取り出した予備の建材を検品していた。


(認識の乖離。個体バルトロの理論は、静止状態の点と点を結ぶだけの二次元的な空論だ。動的な戦場の変数を無視した時点で、その指揮は不具合バグでしかない)


「なぜだ……! なぜあんな平民の、無秩序な散開陣が機能したのだ!」


バルトロが叫び、アルトの元へ詰め寄る。

騎士の一人がそれを遮るように一歩前に出た。その騎士の瞳には、もはや主君への敬意ではなく、致命的な失敗を犯した者への冷ややかな「評価」だけが宿っていた。


「閣下。王都への報告書には、地形無視の強引な配置変更が損害の原因であると記させていただきます。……これが我々騎士団の総意です」


「貴様ら……反逆するつもりか!」


「反逆ではありません。損害を最小限に抑えるための『事実』の報告です」


騎士の声は、アルトの声に似て無機質だった。

戦場において、無能な指揮官ほど兵の命を浪費するものはない。彼らは昨夜、死の淵でアルトの合理に救われた。その瞬間、バルトロという「権威」は、彼らの中で機能を停止していた。


「……アルトと言ったな!」


バルトロが血走った目でアルトを睨みつける。


「貴様が何を企んだかは知らんが、私の家系がこの屈辱を忘れると思うな! 私がいなければ、この村の復興予算も、王国の承認も――」


アルトは、手に持っていた図面から視線を上げ、初めてバルトロを正面から見た。


「予算の承認、権限の行使。……それらはすべて、対象が『生存』していることが前提だ。お前の指揮下で村が全滅していれば、お前の権威を証明する対象すら消滅していた」


アルトは一歩、バルトロに歩み寄る。


「お前は、自分の立場を守るためにシステムを壊した。……機能しないパーツは、現場から排除される。それがこの世界の、最も合理的な自浄作用だ」


「……な、何を……」


「失脚だ。宣言を待つまでもない。お前の言葉に従う者は、もうここにはいない」


バルトロは周囲を見渡した。

村人たちは目を合わせようともせず、騎士たちは荷物を積み終えて出発の準備を整えている。昨日まで彼を崇めていた「階級」という名の幻想は、アルトがもたらした「結果」という名の暴力の前に、一分子も残らず砕け散っていた。


エルディアが、大剣を肩に担ぎながら鼻で笑った。


「アルト。この男の顔、見てみろ。戦場で自分の内臓をぶちまけたオークと同じ目をしているぞ。……自分が死んだことさえ、まだ理解できていないらしい」


「死んではいない。社会的機能が停止しただけだ」


アルトは興味を失ったように背を向け、村人たちに指示を飛ばした。


「3番エリア、瓦礫の撤去を急げ。午後から降水確率が上がる。資材を濡らすな」


「はい、アルトさん!」


村人たちの明るい返事。

その活気が、一人取り残されたバルトロをさらに惨めに突き放す。

彼はただ、泥の上に膝をつき、震える手で自分の服を握りしめるしかなかった。


(……排除完了。ノイズの消失により、復興速度は一五パーセント向上する)


アルトの脳内では、すでにバルトロという存在は「処理済みのログ」としてアーカイブされていた。


リュミエラが、スープの入った鍋を持って広場に現れる。

「アルトさん、朝食の準備ができました! 皆さんにも配りますね」


「……ああ。補給は重要だ」


朝の澄んだ空気の中、芳醇なスープの香りが立ち込める。

その香りの輪の中に、バルトロの居場所はなかった。

彼は騎士たちに抱えられるようにして馬車へ押し込められ、敗残兵のような惨めさで村を去っていった。


「……終わったな。あの男の『大局』とやらは」


エルディアがスープを啜りながら呟く。


「終わってはいない。ここからが本番だ」


アルトは遠く、森の向こうを見据えた。


「村の要塞化、物資の自給、そして――さらなる効率の追求。……やることは山積している」


第19話、ざまぁ。

権威という名の虚飾が剥がれ落ち、辺境の村には「真実の合理」だけが残った。

アルト・フェルディス。

彼の冷徹な指先が、再び「明日」という名の演算を開始する。

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