第四話 依存と献身の境界線
黎明の執着は、日を追うごとに強まっていった。飛燕は、黎明の命で、夜の散歩から入浴まで、常に彼に付き従うことを強いられた。
「飛燕。貴方だけは、私を裏切らないだろう? 誰もがこの玉座と権力を狙い、私に近づく。だが、貴方は違う。貴方は、純粋な忠誠心を持っている」
黎明は、飛燕の腕に凭れかかり、寂しげに囁いた。その言葉には、皇子としての孤独が滲んでいた。
飛燕は、黎明の弱さを垣間見て、彼の冷酷な表面の下に隠された、子供のような依存心に気づいた。
「殿下。わたくしは、裏切りません。この命、尽きるまで、殿下の剣となり盾となります」
飛燕の誠実な言葉に、黎明は満足したように微笑んだ。
「ああ、そうだろう。貴方は、私にとって最も美しい宝物だ。だからこそ、誰にも触れさせたくない」
黎明は、その夜、飛燕を抱き寄せ、彼の首筋に顔を埋めた。
「飛燕……貴方の匂いが、私の不安を消してくれる。貴方は、私のものだ」
飛燕は、黎明の体温と、彼が放つ甘い香りに包まれ、身体が強張るのを感じた。
(いけない。この皇子は、私に忠誠心ではなく、愛情を求めている。私は、彼を突き放さなければ)
しかし、戦場で幾度となく死線を潜り抜けた飛燕も、黎明の孤独な依存心と、彼の体から伝わる熱烈な情熱には、抗うことができなかった。
飛燕の女性を愛する心は、黎明の甘い鎖によって、少しずつ蝕まれ始めていた。




