第二話 運命の鎖と監禁宣言
数週間後。都の京へ戻った飛燕は、異例の速さで黎明皇子の守護将軍に任じられた。
黎明の寝宮での初めての謁見。黎明は、玉座ではなく、豪奢な寝台の上で、薄い絹の寝衣を纏い、飛燕を迎えた。
「飛燕将軍。ご苦労だった。面を上げよ」
飛燕が顔を上げると、黎明の銀色の瞳が、まるで飢えた獣のように、彼の全身を舐め回した。その熱烈な視線に、飛燕は思わず背筋に冷たいものを感じた。
「皇子殿下。この飛燕、殿下の守護将軍として、この命、尽きるまで忠誠を誓います」
黎明は、寝台からゆっくりと降り立ち、飛燕に近づいた。
「忠誠か。それは嬉しいな、飛燕。貴方のその清らかな忠誠は、私一人のものにしてしまいたいほどだ」
黎明は、飛燕の肩に手を置き、その指先で甲冑の隙間から覗く肌を優しく撫でた。
「貴方は、戦場で多くの血を流した。今夜は、ゆっくりと傷を癒すといい。そして、貴方のその美しい身体が、今後、誰にも穢されないように、私自身が貴方を守ろう。夜伽の準備を」
夜伽という言葉に、飛燕は動揺した。
「殿下、わたくしは……わたくしは、女性を愛する者でして。この身は、殿下の護衛として、剣と盾として使うのが本望です」
飛燕の言葉を聞いた黎明は、ぞっとするような笑みを浮かべた。
「ふふ。知っているさ、飛燕。貴方が、無垢な女性を好むことも。だが、貴方の本望が何であろうと、決めるのはこの私だ。貴方は、私の寵愛を受ける運命にある」
黎明は、飛燕の耳元で、甘く、しかし決定的な支配欲を込めて囁いた。
「貴方の心と身体に、私以外の影など、映させはしない。貴方の愛が誰に向かおうと、貴方を束縛し、私のものにする。これが、貴方の戦功に対する『褒美』だ」
黎明の言葉は、熱烈な求愛であると同時に、冷たい監禁宣言だった。飛燕は、この皇子から逃れられない、運命の鎖に繋がれたことを悟った。




