第一話 凍てつく戦場と熱狂の視線
雪と血にまみれた北方の荒野に、将軍・白銀飛燕の雄叫びが響いた。
「これより先、胡族の一歩たりとも通さぬ! 進め!」
飛燕は、その名の通り、白銀に輝く甲冑を纏い、騎馬隊の先頭で長槍を振るう。彼の穏やかでおっとりとした普段の面影は、戦場では一切消え失せ、彼は冷徹で容赦のない白き戦神と化す。胡族の猛攻を三日三晩に渡り耐え抜き、ついに敵の総大将の首を取った瞬間だった。
勝利の歓声が上がる中、飛燕は静かに長槍を下ろし、深い息をついた。
(これで、しばらくは北方の民も安泰だろう。故郷の春蘭殿に、無事に帰還できると文を書かねば)
飛燕の心は、都に残してきた、優しく控えめな婚約者の女性にあった。彼の愛は、揺るぎなく女性に向いていた。
その大勝利の報は、京の宮廷で、第四皇子・炎黎明の元にも届いていた。
「白銀飛燕……また大戦功か」
黎明は、玉座に座る皇帝の隣、影のように静かに控えていた。彼は、飛燕が送った戦況報告の文書ではなく、飛燕の勇姿を描いた画家の絵を、人差し指でなぞっていた。
黎明は、病的なほど端正な美貌を持っていたが、その瞳は、獲物を見つめる猛獣のように、底知れぬ独占欲に燃えていた。
「あのような清廉な将軍が、この腐敗した宮廷の外で、無防備に女性を愛し、平穏に生きているなど、耐えがたい」
彼の唇が、微かに歪んだ。
「宦官長。直ちに、飛燕の昇進と、私の守護将軍への抜擢を提案せよ。理由は、北方の英雄を皇室で手厚く遇するため、で良い。……そして、彼の婚約者の動向も調べておけ。私の愛が、誰にも邪魔されないようにな」




