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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 三回戦

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正統派

「――気を引き締めていけよ、しおり!相手が誰だろうと、お前の卓球をすればいい!」


「しおりちゃん、頑張って!私たち、ずっと応援してるからね!」


 部長とあかねさんの力強い声援を背中に受け、私は静かに頷き、指定された卓球台へと向かった。


 三回戦。ここを突破すれば、ベスト4、準決勝進出へと駒を進めることになる。


 コートの向こう側には、既に高坂まどか選手が待っていた。山吹中学のゼッケン。


 その佇まいは、部長が言っていた通り、どこか粘り強さを感じさせる落ち着きがある。


 派手さはないが、基本に忠実で、安定した実力を備えている選手の典型といった雰囲気だ。


 彼女の瞳からは、強い集中と、勝利への静かな闘志がバランス良く混じり合っている。


 鬼塚選手のような濁った悪意や、カットマンの鈴木選手のような特異な気配はない。


 むしろ、正統派の強者特有の、揺るぎない「芯」のようなものを感じさせた。


 …高坂まどか。


 データ上、ドライブの安定性とコース取りに優れる。


 特筆すべき弱点は見当たらない。


 しかし、それは逆に言えば、突出した武器も少ないということか。


 私の「異端」なスタイルに対し、彼女がどれだけ早く、そして正確に対応してくるか。


 それが、この試合の最初の分岐点となるだろう。


 審判のコールが響き渡り、体育館の喧騒が一瞬遠のく。私と高坂選手は、ネットを挟んで向き合い、一礼する。


「お願いします」

「…お願いします」


 静かで、しかし互いの闘志が交錯するような挨拶。


 第一ゲーム、サーブは私から。


 私は、まず相手の出方と、私の「異端」のボールへの初期反応を見るため、高橋選手のサーブを模倣した、質の高い横下回転サーブを、高坂選手のフォアサイドへ短く送った。


 高坂選手は、その鋭いサーブに対し、驚いたような表情は見せない。


 冷静にボールの軌道を見極め、コンパクトなスイングで、安定したツッツキを私のバックサイド深くに返してきた。


 回転はしっかりと残っており、コースも厳しい。


 私は、その深いツッツキに対し、ラケットをスーパーアンチの面に持ち替え、彼女のフォア前に、回転を殺したナックル性のストップを送り込んだ。


 鈴木選手との試合でも有効だった、緩急と球質の変化。


 しかし、高坂選手は、そのボールの変化にも素早く反応した。


 細かいステップで前に踏み込み、ラケット面を被せるようにしてそのナックルボールを、今度は私のバックサイドを切るような、鋭く低い弾道のプッシュで返してきた。


 ただ繋ぐのではなく、コースを突き、私の次の攻撃を限定しようという意図が見える。


 …対応が速い。


 そして、ナックル処理の精度も高い。彼女は、私のこれまでの試合を観察し、ある程度の対策を練ってきている可能性が高い。


 私の脳は、瞬時に相手の対応レベルを上方修正する。


 私は、その厳しいプッシュに対し、再びラケットを持ち替え、裏ソフトの面で、彼女のフォアサイドを狙い、回転量の多いループドライブを放った。


 高くそして深く、相手コートに沈み込むような軌道。


 だが、高坂選手は、そのループドライブに対しても、台から適切な距離を取り、美しいフォームから、力強いフォアハンドドライブでカウンターを合わせてきた!


 ギュン!という、重く鋭い打球音が響く。


 ボールは、私の予測よりも速く、そして厳しいコースで、私のミドルへと突き刺さるように飛んでくる。


 …カウンタードライブの威力、そしてコースの正確性。これは…!


 反応が、コンマ数秒遅れた。咄嗟にラケットを出すが、ボールの勢いに完全に押され、返球はネットを越えない。


 静寂 0 - 1 高坂


 試合開始早々、先手を取られた。そして、それは偶然ではない。


 高坂選手は、私の「異端」なスタイルに対し、明確な対策と、それを実行するだけの高い技術、そして精神的な強さを備えている。


 部長が言っていた「油断できねえ相手」という言葉の重みが、今、現実のものとして私の全身にのしかかる。


 私の「静寂な世界」が、この正統派の強者の前に、早くも揺らぎ始めていた。


 これは、これまでのどの試合よりも、厳しい戦いになる。


 私の思考は、瞬時に切り替わり、新たな分析と戦術構築を開始した。

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