第65話 見えない狙い
静寂 3 - 0 鈴木
開始早々相手のタイムアウト、ペースは乱れているがアドバンテージはこちらにある。
この後、どんな展開になろうとも私だけにタイムアウトを使う権利が残るからだ。
無論相手も何かのサインを決めたりしている可能性はあるが、伝達できるものは限られる。
……それにしても。
「わざわざサーブを譲って、ここでタイムアウトまで取る意味が読み取れない……」
相手のどこにメリットがある?
「……あのコーチ、しおりちゃんの速攻の攻撃に唖然とした表情になってた」
思っていたことが口に出ていたようだ、あかねさんはその私の呟きを拾うように、口で手を抑えながら相手コーチの様子を教えてくれる。
「きっとしおりちゃんがカットマンっていう前提でプランを組んでたんじゃないかな?」
……お互いにカットマンだから、長期のカット戦を前提とした作戦をあらかじめ立てていて、その修正のタイムアウトか?それなら筋は通る。
「……相手の失策を利用しない手はないですね、スタイルに変化を加えてより難しい選択を迫れれば」
……私の勝ちは確定だ。
この試合はもう消化試合のようなものだろう。
タイムアウトを終える合図がなる。
私は卓球台へと歩き出した。
静寂 3 - 0 鈴木
鈴木選手のサーブから再開される。
短いサーブ、鈴木選手は相変わらず、カットマンのお手本のようなサーブを打ち出してくる。
私は予定通り、ロングに返してカット戦へ移行していく。
……なにが変わる?
まだ第一セットの序盤だ。
ここは、タイムアウトを使ってまで作戦を立て直してきた相手の出方をみたい。
この試合の方向性をどう修正してきたのか、興味がある。
カットに付き合いつつ、カウンターの警戒で強打はしない。
ドライブを軽く掛けながらラリーを続ける。
――パチンッ!――カッ!――パチンッ!――カッ!
対カットマン特有の長いラリー。
本当に何か変わったのか?……しばらくカット戦に付き合ってみた。
攻撃に転ずる意欲があるのか探るために、表ソフトでのバックハンドスマッシュを誘い甘い球をバックに送ったりもしているが変化がなく、カット出繋いでくる。
不気味なほど慎重だ、相手の仕掛けが見えない。
鈴木選手のカットはカットマンの基礎が詰まった模範だ、だがそれだけだ。
彼女には点数を取る攻撃が見えない。
わざわざ防御型の粒高ラバーから攻撃型の表ソフトに転向しているのに、だ。
……もう見るべきものがないのなら、沈んでもらう。
決めてしまおう。
私はフォアをアンチラバーに持ち替えて、思い切り弾く。
その弾道は、低くバウンドしない無回転の鋭い攻撃。
鈴木選手は、その無回転のドライブに見えるスマッシュを待ってましたとばかりに裏ソフトでカウンターを仕掛けてきた。
裏ソフトで無回転のボールに、ドライブでトップスピンをかけられたその白球は、私の予想より鋭い回転がかかっており、レシーブに失敗した。
静寂 3 - 1 鈴木
……やられた。……狙いはこれか、鈴木選手の狙いはアンチラバーで弾いた無回転のボールのみ。
無回転ボールと看破されている攻撃は、裏ソフトにとってはただのチャンスボールだ。
ずっと裏ソフトで返していたから狙いが見えなかったのか。
……ずいぶん遠回りな方法で攻めてくる、だがそれを引き出すまで我慢する忍耐力は評価できる。
さてどうするか、アンチはバックに固定して裏ソフトでのカウンターを封じるか?
どちらにせよカット戦に付き合うのは危険だ。
中一の私と中三の鈴木選手では、体力勝負になったら負けしてしまう。今日はもう一試合残っているから、過度な消耗は避けたい。
私のサーブ、こっちは一気に決める。
狙いはカットに移行するためのレシーブを思い切り叩く三球目攻撃、理想はサーブでのエースだ。
大きく白球をトスしてハイトスサーブを仕掛ける。
その低い弾道に鈴木選手は、レシーブに苦労して打ち上げてしまう、私は思い切り叩き得点をえる。
静寂 4 - 1 鈴木
……よし、この調子でいけばいい。3ポイントのリードがある今、サーブで得点していくだけで確実に勝てる。
ここからの展開は単調だった、サーブで確実に点を重ねる私と、私の強引なスマッシュにカウンターで得点する鈴木選手。
静寂 5 - 3 鈴木 静寂 7 - 5 鈴木 静寂 9 - 7 鈴木
静寂 11 - 7 鈴木
このセット、最後は私のサーブでのエースで幕を閉じた。
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R・D




