第61話 観戦
静寂 3 - 0 高橋
「まさか、こんな隠し球を持っているとはな」
空知先輩は感心か呆れかわからない声色で話している。
「やっぱ先輩もそう思いますよね!?」
やっぱりしおりは凄い、カットマンに転向していたのはちょっと驚いたけど、最後の数球、ギアが何段階も切り替わったような破壊力。
「あれは魔女だな……、カットマンとしての機能を見せつけながら終盤にドライブマンとしての技能を見せつけてる、あんなのに当たる対戦相手が可哀想だ」
空知先輩はたまに心が無いような言い回しをするが、そういうときは大抵驚愕している時だ。
「やっぱりしおりは凄い……」
どんな姿になっても、私には彼女が輝いて見える、確かに昔とは違う、雰囲気もプレイスタイルも冷たい。
けど、その中に昔のしおりの面影を僅かに感じた、そんな気がした。
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静寂 3 - 0 高橋
決着はあっけないものだった。
私はこの試合、観戦してるであろう未来の対戦相手の為に偽装のヴェールを纏いカットマンを演じていた。
本当ならカットマンとして決着をつけたかったが、相手は思いの外強く、本来の戦型に切り替えざるをえなかった。
戦型が切り替わった途端に、相手はカットマンを前提とした作戦で破綻し、決着がついた。
「……ありがとうごさまいました」
挨拶を終え、ベンチに戻る。あかねさんを回収して妙に注目されているここを離れたい。
「しおりさん、お疲れ様!」
ベンチに戻ると、荷物を片付けているあかねさんが労う言葉を話した。
「予定通り、とは行きませんでしたが、勝ちましたね。……部長の試合か田中先輩の試合の観戦にいきましょうか」
ここを素早く離れる為の方便だが、彼女も気になっているだろう。
「そうだね!早く荷物を片付けて、応援にいきましょう」
案の定あかねさんは気になっていたらしく、荷物を手早くまとめて、私を先導するように男子シングルスの試合が見える観客席へと案内してくれる。
そこで行われていた試合は、盛り上がりを見せており、勝負も終盤の佳境といったところだった。
セットカウント 部長 2 - 0 鬼塚
部長 12 - 11 鬼塚
バチンッ!バチンッ!
苛烈な打ち合いが続いている。
男子卓球特有の力強いラリー、どちらも引かずに打ち合っている。
……部長、こんな脳筋な戦いをしているのか。
私と練習試合をしたときは、攻撃的に進めながらもクレバーな選球があったが、今の部長はわざわざ相手の土俵に降りて戦っている。
……なんて非合理なやり方だ。
最後は、鬼塚選手のドライブが僅かにオーバーし部長の得点となった。
「しゃあッ!」
拳を突き上げる部長、隣で歓声を上げているあかねさんを尻目に田中先輩の台を私は目で探していた。
――――居た。
セットカウント 田中 1 - 2 後藤
田中 4 - 8 後藤
セットを先制されていて得点状況も悪い、その場面でサーブ権が後藤選手へと移る。
後藤選手のサーブは強烈な下回転を帯びてバックサイドに深く食い込んだ。
「っちぃ!」
田中選手は同じ手は食わないとばかりに、ツッツキで厳しくバックサイドへ流す。
「フンッ!」
後藤選手はそのボールをチキータ気味に捉え、三球目を見事に決める。
田中 4 - 9 後藤
これは三球目攻撃を確実に成功させる為のシステムだ、このままいけば次も得点されて後藤選手のマッチポイント。
田中先輩がサーブ権を活かして得点したとしても6 - 10 にしかならない。
この後藤という選手ならば、サーブ権が渡れば二球のうち一球は三球目攻撃で得点はできるだろう。
……勝負は付いている、これ以上は見る意味がない。
「……あかねさん、あそこが田中先輩の台です」
私は最低限、彼女に伝えると、目を瞑り休憩することにした。
――――が。
「静寂さん、ちょっといいかしら?」
私の休憩を阻害したのは、高橋選手のコーチと高橋選手本人だった。
「なんでしょうか?」
私は立ち上がり高橋選手のコーチの方へ向かい用件を聞く。
「お互いにフィードバックを送り合わない?上手くなるにはそれが一番でしょ?」
……フィードバック、つまりお互いにアドバイスを送り合うということだろうか?
私には必要ない、カットマンとしてのフィードバックなんていらないのだから。
「私から話せることは何もないです、……人にアドバイスができるほど上手くないので」
私は適当に切り上げ、あかねさんの隣に戻り今度こそ目を閉じ休憩をとった。
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R・D




