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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 二回戦

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電撃戦

 第二ゲームが終わり、部長が汗を拭いながらベンチに戻ってくる。


 その顔には疲労の色も見えるが、それ以上に、強敵である後藤選手から2ゲームを連取したことによる自信と、試合への高揚感が満ち溢れていた。


「部長先輩!すごいです!今のサイドスピンのドライブ、しおりちゃんの技みたいでした!かっこよかったです!」


 あかねさんが、興奮冷めやらぬ様子で駆け寄り、タオルとドリンクを手渡す。


 彼女は私の少し横に立ち、期待に満ちた目で私と部長を交互に見ている。


 私は、静かに部長に向き直り、いつもよりほんの少しだけ、声のトーンを意識して(おそらくそれは、あかねさんの言う「励ます」という行為に近いのだろうと分析し)口を開いた。


「…やりますね、部長。後藤選手のドライブに対し、あのタイミングでのカウンターは、非常に効果的でした。あなたの反応速度と判断力は、私の予測を上回っています。」


 私の言葉に、部長は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにニカッと歯を見せて笑った。


「おう、しおり!お前に褒められるなんざ、悪くねえな!」


 そして、私は分析結果を付け加える。


「ですが部長。次の第三セット、後藤選手は戦術を大幅に変更してくる可能性が高いです。特に、あなたの予測不能な変化球や、今のサイドスピンのような意表を突く攻撃に対して、よりリスクを排した堅実なラリーに持ち込もうとするか、あるいは逆に、序盤から捨て身の攻撃を仕掛けてくるかもしれません。」


 私の視線は、隣のコートでコーチと話し込んでいる後藤選手の、僅かに険しくなった表情を捉えていた。


「彼のこれまでのデータと、今の精神状態から推測するに、後者の短期決戦を挑んでくる確率が高いです。あなたの得意なパワープレイで序盤から主導権を握り、相手に考える時間を与えないことが、現時点での最適解だと思います」


 私の具体的な分析と提案に、部長は真剣な表情で頷いた。


 彼は、ただの熱血漢ではない。


 勝利のために、他者の意見、たとえそれが一年生の、しかも「異端」な後輩の言葉であっても、真摯に耳を傾ける度量を持っている。


「…よし、しおり!お前の分析、信じるぜ!序盤からフルスロットルで、あいつを叩き潰してやる!」


 部長は力強く拳を握りしめ、再びコートへと向かった。


 その背中には、迷いのない、純粋な闘志が燃え盛っている。


 あかねさんが、私の隣で小さく息を呑んだ。


「しおりちゃん…部長先輩に、あんなに具体的なアドバイスするなんて…。なんだか、本当にすごいね、二人とも。」


 彼女の言葉には驚きと、そして私と部長の間に生まれた新しい関係性への、温かい眼差しが込められていた。


 第三セットが始まる。


 私の分析通り、後藤選手は序盤から猛然と攻撃を仕掛けてきた。


 サーブから三球目、五球目と、早い段階で勝負を決めようという意図が明確に見える。


 しかし、部長は完全にそれを読み切っていた。


 アドバイス通り、彼もまたスタートからエンジン全開。


 後藤選手の速攻に対し、一歩も引けを取らない、いや、それ以上のパワーとスピードで応戦する。


 台から下がることを許さず、前陣での激しい打ち合いに持ち込む。


「うおおおおっ!」


 部長の咆哮が、体育館に響き渡る。


 彼のフォアハンドドライブが、火を噴くように後藤選手のコートを襲う。


 後藤選手も必死に食らいつくが、部長の圧倒的なパワーと、そして何よりも「読まれている」という精神的なプレッシャーが、彼の精密なコントロールを徐々に狂わせていく。


 部長は私の分析を信じ、そして自身の力を信じ、後藤選手に一切の隙を与えなかった。


 得意のパワープレイを軸に、時折見せるネット際の柔らかいタッチや、私との練習で磨かれた変化への対応力も光る。


 後藤選手が戦術を変えようとする前に、部長の猛攻がそれを許さない。


 スコアは、5-1、8-2、そして10-3。


 あっという間に部長のマッチポイント。


 最後は、後藤選手の苦し紛れのドライブが大きく台を逸れ、試合終了。


 部長 11 - 3 後藤


 セットカウント 部長 3 - 0 後藤


「しゃあああああ!!!」


 勝利の瞬間、部長は両手を突き上げ、喜びを爆発させた。その顔には、強敵を打ち破った達成感と、そして自らの力を出し切った満足感が浮かんでいる。


 ベンチに戻ってきた部長は、汗だくのまま、しかし満面の笑みで私とあかねさんを見た。


「見たか、しおり!お前の分析通り、速攻でカタをつけたぜ!サンキューな!」


 彼は、私の肩を力強く、そして親しみを込めて叩いた。


「…合理的判断に基づく、当然の結果です」


 私は、表情を変えずに答える。


 しかし、その言葉の裏には、彼の勝利への貢献と、そして彼との間に生まれた確かな「連携」への、静かな、しかし否定できない満足感が存在していた。


 私の「静寂な世界」に差し込む「熱」は、確実に、私という存在を、そして私の卓球を、新たな方向へと導き始めているようだった。

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