表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/187

心の修行

 ジャンはさらに続けた。彼が、鼻持ちならないヤツではないとは分かっている。でも、なんだか、したり顔で饒舌に捲し立てられている気分になってしまう。まぁ、そういうところ、私も根性が捻くれているのかもだけど。


「ギルドマスターからのミッションを受け、私なりに考えてみたのです。弟との競技会の件を聞いて、ハタと思い当たりました。動揺して加速技を無意識に使うのだから、その逆はないかと」


「なるほど、ありがとう、心しておくわ」


 あっさり答えて、私は部屋に戻ろうとした。昼が近づき暑さが増すにつれて、私は、不機嫌マックスになっていた。


「待ってください。体はトレーニングで鍛えることができます。ですが、心を鍛えるのは不可能とお考えでは? 効果の程は何とも言えませんが、ひとつ、トライだけでもしてみませんか? いえ。してください。お願いします。貴女に、万々が一にも、何かがあっては困るのです。困るのは私やギルドマスターばかりではありません。『全人類が』です。口幅ったいことを言いますが、ご自身の置かれている立場を、ご自覚ください!」


 私は不機嫌な顔を隠すこともなく黙っている。委細構わず、彼は続けた。


「昨日の事故も見ました。貴女のその年齢に合わない物言い。既にとんでもないご無理をされていることも承知しております。私も貴女のお姿を前に、このようなこと、心が痛みます。ですが。ですが」


「分かった。分かったわ。貴方がチャライのはポーズであることも知っていた。そこまで、卑屈になることはないと思う。どうか頭を上げて」


 彼は本気だ。普段は照れて隠しているのだろう。だけど、秘密にしておきたい真摯な自分をさらけ出してでも、私を説得したいと考えている。負けた、負けたわ。多分、私の表情は急速に緩んだと思う。


「恥ずかしいのですよ。クソ真面目な自分を人前に晒すのが。免じてお聞き届けいただけるのですね?」


「何をすればいいのかしら?」


「夏休みの期間だけで十分です。ゼンの修行を」


「ああ、明鏡止水ってヤツかな。でも、一対一の決闘になら有効かもしれないけれど、混戦の中、これを維持するのは難しい気もするけど」


「仰るように、心を鍛えるなど本来無理なことかもしれません。どこまで効果があるかは未知数だと思います。ですが、僅かでもリスクは低減すべきです。同時に、殺気を知るという、私がニンジャの修行をして知った技もお教えします。こちらは、かなり有効ではないかと」


 ふぅ。これで夏休みが潰れた。


「で、その修行はどこで?」


「私の家に、是非、皆さんでお越しください。勘当の身で首都は居心地が悪いので、ナプリのギルド支部を拠点にしておりまして、ここから船で一日ほどの距離です」


「分かったわ。ギルド支部へご挨拶も必要でしょうし」


「ああ、それは不要ですよ。私が支部長ですから」


 いったい、コイツ? 何者?


 せっかくの冬休みにあんなことがあって、夏休みがこれだ。帰省してマリアとゆっくりお話もしたいのに。いやんになっちゃう。だが、このジャンという男。思慮深くちゃんとした人格者であることは良く分かる。礼を尽くすべきところは外さない。ここは素直に従っておくべきだろう。


 残りのパーティメンバーは、ジャンの家に興味津々。行かない手はないだろう、くらいのノリですんなりと、全員でナプリへ行くことが決まった。


 さすがに疲れていたので、出発はその翌日。ジャンは、クルーザーと呼んだ方がいいだろう、魔法の小型船を準備してくれていた。彼の持ち船らしい。どんだけ金持ちなんや!! ああ、リベカになっちゃった。


 馬車を降りて船まで行く道すがら、レモンの花が咲いていた。二つ手折って一つは押し花用、もう一つはピンで髪に留めてみた。前に言ったわよね。ちょっと、お花が可愛そうだけど、たまにはね。


 風属性の魔導石を使った魔道具でスクリューを回すタイプのようだが、かなりの速度が出るらしい。どうやら、駆動系、燃機関の代替は風属性魔法になるようだ。相当お高い高性能エンジンを積んでいるであろうクルーザーは、普通の船の半分程度の時間、すなわち約丸一日でナプリの港に入港した。


 島を出たのが昼過ぎだったので、到着も昼過ぎとなっていた。夜間の航行については、座礁しそうになったり、何らかの障害物を発見したら、停船し、知らせてくれるという程度のものだが、自動運転装置まで完備している。


 ナプリはユーロ連邦でも屈指の古都だ。人族に有能な魔道士が輩出するのは六百年前ごろのこと。それ以前、千年以上前、この地域は人族の文明の中心地だった。古代の建造物が栄華の跡を残す。


 こちらにも大きな火山があり、住居はこの地方独特の煉瓦色の屋根に白壁の石造り。とても美しい街並みだ。バタバタしていて入り損ねた温泉だから、今夜はゆっくり入らせてもらおう。

 悔しいけど、彼の言うことには一理ある。だけど。禅の修行が有効だとしても、夏休みの短期間で習得できるとも思えない。結局、観光旅行になってしまう可能性も高いのだけど、パーティのみんなは喜んでるようだから、いいかぁ〜。


 それは、悪魔の陰謀かもしれないけれど、ジャンも導かれし人。彼自身もルナも言っていますが、修行は「ダメ元」なのかもしれません。だけど、仲間と友誼を深めることは、長い目で見てルナにはプラスかもしれないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 74/74 ・うわあめっちゃ不機嫌だ。気持ちは分かる。 [気になる点] >ああ、リベカになっちゃった。 なぜかビビッときました。 [一言] ふと思い立って、句読点に着目しました。太宰治…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ