ゼロハンの懐(ふところ)
びぃぃ・・
ばりんばりん
カラカラ
びぃぃ・・
「・・・・」
きぃ!
「おっちゃん、やっぱ変だよこれ」
「・・・んあ?」
かっちゃかっちゃ
きんきん
「ちょっと待ってな坊主」
「俺は坊主じゃないよ」
「海野だ、いい加減子供扱いすんなよな」
「・・・うーん」
「どこら辺でおかしくなる?」
げしっげしっ
「うん、3足に入れて加速始めると成る」
「ガリガリくるんだ」
「上のギヤも同じなんだ」
「いつもそうなんだよ」
「・・・あー」
「わりいな坊主」
「このマシンの前のオーナーだよ、原因は」
「何だよそれ」
「オーバーホールして慣らし運転の時だ」
「ちゃんと回転数を守らないとな」
「原付きなんてデリケートなオモチャだから」
「絶えず全開だからシャーねんだよ」
「げええ・・・このマシンどんくらいおフルなの?」
「・・・うーん。お前の知らない時代だな」
「本でも買って勉強しろ」
「・・・・・」
俺は海野だ。
海に住んでるからじゃないぞ?
家の裏に野原もあるし前に海もあるけど、関係ないじゃん。
毎日原チャリで海岸線シーサイドを走る。
まだ原付き免許しか無いから、ギヤ付きって種類は貴重なのだ。
なんかこのマシン速度計が100キロまで刻んである。
バイク屋のおっさんは「ノーマルだ、問題はない」
でも捕まっても責任は俺が取るんだよな。
親父が言うには。
「未成年は親同伴で家裁処置だから、気にすんな」
「思いっきり逮捕されろ」
「・・・おやじ頭イカれたな」
で、今日も走るのだ。一日中走る。あちこち市内中。
「俺は学校辞めたから無職なんだ」
「前の職場は、クビ」
「デキが悪いとクビにするんだ、この社会は」
今は走ってるだけでいいのだ。
何かも忘れるんだ、嫌なこと全部すべてあらゆる事、色々。
「こんな面白い乗り物」
学校の先生は、乗るなと言った。
不良の乗り物だから乗ってはいけない。車に乗れ社会人、と。
このよく知らないバイクが俺を変えるんだ。
他の大きなライダーには相手にされない。
簡単にぶちぬいてくけど、俺にはこれしか無いから良いんだ。
びぃぃぃー・・・
「・・・・」
海岸線の直線シーサイド道路は波が激しくて、よく海をかぶる。
ばしゃあっ!
「・・・・」
またシールドがびっしょりだ。
あの海岸コーナーを曲がるのが、ひとつのテーマと化してる。
びぃぃ
・・・・
びぃぃーん
「あきない、何で飽きない?」
「坊主。お前が若いんだよ」
「バイクのせいじゃねえ」
「年寄りやカーキチには理解出来ねえんだ」
「孤独なんだよ、厳しいんだ。それが良いんだよ」
「おっちゃんが哲学語ってるよ」
「はははは、好きなんだからそれでいーんだよ!」
「・・・・・」
海岸商店街の、いつものお好み焼き屋で食べる。
表に止めた、くたびれたマシンが雨に打たれてる。
そこら中錆びてて、よく見るとボロボロだ。
赤いノーマルカラーは、長年の年季でイロハゲ。
「良く働くおじさんだな・・・」
「なんだい、けんちゃん」
「海を見てたそがれるには100年早いよ?」
「はいよ、肉玉」
どん
「違うよおばちゃん、愛車を眺めてたんだよ」
「はっははは」「けんちゃんも大人だねえ?」
・・・このオバサン商売上手だな。
この臨海タウンは、昼間から雨模様。
汚いハウスでお好み焼きを食べる。
ありふれている光景と日常。
いつも海が居る。
「海には神様が住んでるって話、ホントかな?」
「あら、けんちゃんが海神様を知ってるなんて」
「あたしも長生きしてて良かったよ」
「冥土の土産だよ」
「は、ははは・・・」
「今日はドコ行くんだい」
「うん、女の子に会いに行くんだ・・・」
「まー!ませたガキに成っちまったよこの子は!」
「関係ありませんから!」
ばいィィィ・・・
ばりんばりん
「・・・・」
町の同年の娘に合うのだ。
まだなんにも無いんだけどね。
彼女は働いてる。同じ様なゲンチャリに乗る。
「海野くん、私のライディングを見て下さいよ」
「きっとあなたは未来の女性GPレーサーに惚れるわ!」
「・・・運転は俺のほうが先輩だぞ?」
「いいえ、テクニックよ!!」
「天性のライディングスピリッツは何でも可能なのよ!」
「・・・判ったから今度遊びに行こうよ」
「うん、じゃあ・・・高台のレストランで待ってるわ」
「げえ、もっと安いとこにして」
「・・・これだから子供は使えないのよ」
「すみません」
「いいです、あそこの展望台で待ちます」
「来なかったら焼き殺しますよ?」
「・・・すごい冗談」
ばいぃぃ・・・
「あの娘に会えるのか・・・」
雨の中を、小さなバイクは待つヒトのところへ向う。
今日もいつもの光景。




