表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4話

 ――……美鈴を拾ってから、間もないある日。

 スカーレット卿――『お館様』のもとに呼び出された私――『パチュリー・ノーレッジ』は、何を言われるのだろうかと、内心、気が気ではなかった……の、だが。

 開口一番、彼は言ったのだ。


「よく考えたものだな」


 ……、

 …………はあ?


 よく考えたものだな――……とは、いったい、何のことなのか。

 まったく思い当るところがなかった。

 その為、むしろ、貴方は何を考えた、いや、何を妄想したのか、と。

 そう、返しそうになったのだが。

 私が何事かを口にする前に、彼は不敵に笑いながら言葉を続けた。


「君が拾ってきたあの『雑種』、育てればそれなりの物に仕上がりそうだ。今食って僅かな糧とするよりも、手懐けて使ってやり、役立てた方が得だろう。いらなくなれば、食ってやれば良いのだし」


 ――うわあ。


「は、ははっ」


 自然と、私の口からは、乾いた笑いが零れ落ちた。

 それをどう勘違いしたのか、お館様も笑みを深めた。


 ――……やはり。

 お館様と、レミィとでは、似ても似つかない。

 お館様は、非常に冷徹で、残酷な――『怪物』だ。


 そう考えながら。

 しかし、同時に、私は思ってしまったのだ。


(人の話をろくに聞かずに、全てわかっているって雰囲気を醸し出しながら、自信満々な顔して笑う――……しかも、見た目だけなら文句なしに『夜の王』って感じ)


 ――……やはり。

 お館様と、レミィは。

『親子』なのだなあ、と。

 そう思ってしまい――……小さく、溜息を吐き出したのだった。





 しかしながら。

 傍目から見れば、確かに、お館様の予想していた通りに、事態は推移したかも知れない。


 成長した美鈴は、役に立つ、なんて物ではないほど、凄まじい働きぶりだった。

 朗らかに笑いながら、『親孝行がしたいんですよ』なんて言って、現場仕事を代行してくれるようになったのだ。

 おかげで、私の仕事は館内での事務仕事がメインになったのだった。


(なお、現在のスカーレット家の行っている主な仕事はふたつだ。ひとつめは、一部の人間の権力者に単純な武力等を提供してやり、金品および『不要と判断された人間』を貢がせている。ふたつめが現在の私が担当している仕事だが――貢物の金品や、その伝手で得た貴重品等を適切に捌いて、何倍もの収入に膨れ上がらせるという仕事だ。『元の世界』でも、私の仕事は似たような物だった)


 自分の能力には、自信がある。

 その辺の木端共に対して敗北を喫する程、情けなくはないつもりだ。

 だけれども――……肉体労働は、向いていないのだ。


 自作の魔法薬で己の体を誤魔化しながら、戦闘任務をこなしていたが――ぶっちゃけ、すっっっごい! しんどかった!!


 ホント、美鈴様様である。

 ――……と、まあ、そんな感じで。

 それなりに安定した日々を過ごしていたのだが。



 ある満月の夜のこと。

 お館様が、一人の女性を連れて帰ってきた。



「――……おお、ノーレッジ。紹介しよう」


 彼は。

 出会って以来、初めて見るような、『やわらかな笑み』を浮かべて。

 傍らの女性の細い肩に、そっと手を置きながら、言ったのだ。



「彼女は、私の妻になる女だ」



 ――……ああ。

 やっと、か。





『奥方様』は。

 とても、美しい女性だった。

 金糸の髪に、オレンジがかった赤い瞳。

 宝石のように光り輝く『翼』。


 つまりは。

『妹様』に、瓜二つであった。


 少なくとも、外見は、レミィが父親似で、妹様が母親似のようだと私は思った。

 しかし、奥方様が館で暮らすようになってから、しばらく経ち――私は、認識を改めた。


 奥方様は、物静かで、思慮深く。

 あまり、感情を表に出さない人物で。

 それは、精神状態が安定している時の妹様を思い起こさせた。


 どうやら。

 内面も、妹様は、母親似であったらしい。





 季節が一巡した頃。

 奥方様が『懐妊』された。


 日に日に膨らんでくる腹を、多少距離を置いて眺めながら。

 静かに、胸に熱が広がるのを感じた。





 お館様から、出産に立ち会ってほしいと言われた。

 治癒は専門ではないが、簡単な回復魔法ならば行使出来る私を、『万が一』の時の為に、傍に置いておきたいらしい。

 お館様は、奥方様にだけは、優しかった。

 私は、一も二もなく、頷いた。





 そして。

 産声が響いた。


「――……貴女の名前は、レミリア。レミリア・スカーレットよ」


 奥方様は、息を乱しながらも、腕の中に納まった『産まれたての赤子』に、そう囁いた。


 薄く生えた髪の色は、蒼銀。

 ピコピコと揺れ動く、小さな、黒い翼。

 ふと。

 赤子が、こちらに視線を向けた。


 その瞳の色は、とても見慣れた『紅』だった。


 ――……胸が、熱い。

 恋情ではない。

 私がその感情を捧げる相手は、たった一人だ。


 だけど、この感情は。

 それにも匹敵するものだろう。


 微笑んで。

 声には出さず、呟いた。



 ――……はじめまして、親友。





 後日。

 お館様に、重要な話があると言われ、呼び出された。

 何事か、と。

 身構えていたのだが。



「レミリアの、教育係を任せたい」



 配下の中では、君がいちばん教養を持っているのだよ、と。

 お館様が、微笑んだ。


「……えー」


 いや。

 だから。


 ――……どうして、こうなるのだ。


 今回は、繋ぎのお話なので、短めです。

 次回はレミリアお嬢様回!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ