目覚めた先で
亡き愛猫のリオちゃんとどんな形でもいいから繋がっていたいと思い、書き始めた作品です。
どうか、暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
尚、プロローグが短過ぎて書けなかったので、こちらに一緒に載せさせて頂きます。
プロローグ
苦しい、苦しい…もうよく見えない。
めぐの顔も声も、もう見えないし、聞こえなくなってきた…。
ずっと手を握っててくれてるはずなのに、もうよくわからなくなってきた。"めぐ、どこ?どこにいるの?めぐ…めぐ…。"
気が付くと、もうずっと苦しい日々が続いてたはずなのに、身体は軽くて、もう苦しいところはどこもなくなっていた。
「オレ、どうしたんだろう…。」
不思議に思いながらも辺りを見渡すと、見たこともないところにいた。
きれいな花畑…。昨日まで雪が降っていたはずなのに。めぐにも見せてあげたいな。
それにしても、ずっと手を繋いでいたはずのめぐもいないし…。
「ここはどこなんだろう。早くめぐのところに戻って、元気になったことを教えてあげなくちゃ。」
起き上がって辺りを確認しながら、歩き出そうとしたときだった。
「おや、目が覚めたのですね。」
いきなり声をかけられたオレは、びっくりして跳び上がってしまった。
「フフフ、これは失礼。驚かせてしまいましたね。
私は、天に使える案内人しております、シリルと申します。」
そう言って、男はオレに頭を下げた。
オレは知っている。人というのは、そうやって他のやつと話しをするときに、最初に頭を下げるのだ。
めぐもオレを抱っこして外を歩いたり、医者とかいうところなか行ったときに、よくやっていた。
だから、こいつも人なのかもしれない。
「おまえ、人なのか?オレのめぐもよくそれやってた。」
「おやおや、私はあなたの言う人とは違いますよ。ただの案内人です。」
こいつ、オレの言葉がわかるのか?
「ああ、びっくりしてますね。ここは今まであなたがいた世界の先なのですよ。ここでは、話したいと思えば、言葉は通じるのです。争いのない平和な世界です。」
「世界の先?そんなことより、オレのめぐを知らないか?さっきまでずっと手を繋いでいたはずなのに、目を覚ましたらどこにもいないんだ。」
「あいにく、"めぐ"という方は存じませんが…、あなたはすっとその方と暮らしていたのですね?」
そう言いながら、腰を屈めてオレの顔を覗き込んできた。
オレは少し警戒して、ゆっくり後退りしながら見返してやった。
「そうだ。めぐはオレの家族だ。ずっと一緒にいたんだ。めぐはオレが居なきゃダメなんだ。早くそばに行ってやらなきゃいけない。」
オレはそう言って、早くめぐを探しに行こうと走り出そうとした。
「お待ちください。あなたはまだそのめぐさんにお会いになることはできませんよ。」
男が慌てて叫んだ言葉を聞いた途端、オレは固まってしまった。いや、固まることしかできなかった…。怖くなったからだ。さっきから分からないことばかりで、見たこともないような場所でオレは独りだし。さっきまで、しっかり手を握っていたはずのめぐはとこにも居ない…。すごく怖かった…。だけど、今はこいつの言ったことが気になって仕方なかった。
「なぁ、めぐに会えないってどういうことだ?
オレはずっとめぐのそばに居たんだ。もちろん、これから先もずっとだ。約束したんだ。めぐと…。」
恐る恐る口に出しながらも、だんだん嫌な予感がして、最後の言葉を口にすることには、ほとんどかすれたような声になってしまった。
それを見た男は、ゆっくりとオレのそばに来て、隣りに腰を下ろした。
そして、オレの方を優しく見ながら話し始めた。
「すみませんね。もう少しあなたの気持ちを考えて話をしなくてはいけませんでしたね。」
さっきまでよるもさらに優しく温かみのある話し方で、ゆっくりと話してくれているように感じた。
とりあえず、こいつは敵じゃないのかもしれない。
「では、初めからお話しますね。
私は人ではなく、天界…つまり死んだ後の世界で案内人をしている者なんですよ。人間たちは、私たちのようなものを天使と呼んでいるようですが。
まあ、私はそのようなたいそうな者ではないんですけどね。だから、案内人でいいのです。」
と、照れながらオレを見た。
そして、"よく分からない"と思っていたオレの顔を見るなり、ハッとした様子で座り直して、また話し始めた。
「え〜と、つまり、私のことはシリルと憶えてください。」
「わかった、シリル。めぐに会えないのどうしてか話して。」
オレがすがるような声で言うと、シリルは少し真面目な顔に戻った。
「そうですね。分かりやすく言いますと、あなたは死んでしまったのです。
だから、まだ生きているあなたのめぐさんには会うことが出来ないのです。」
「え…、死んだ?オレ死んだの?
…でも、今オレ元気だよ。元気になったんだよ。」
「それは、死んで魂だけになったので、肉体の苦しみから解放されたからなのです。」
「じゃあ、めぐは生きてるから会えないってどういうこと?」
「それは、ここが死んだ者のみ来ることができる死後の世界だからです。
めぐさんはまだ生きておられるので、こちらに来ることは出来ません。」
「それなら、オレがめぐのところに帰るよ。」
「残念ながら、それも出来ないのです。」
「えっ、そんなの知らない。オレは帰る。めぐにはオレがついてなきゃダメなんだ。ずっと一緒って約束したんだ。帰るんだ。」
オレは、そう訴えながら泣き叫ぶことしか出来なくなってしまった。
「そうですよね。悲しいですよね。」
シリルは、さっきよりも一層優しくなだめるような声で続けた。
「…でもね、今すぐには会えませんけど、あなたが会いたいと願うのであれば、いつかは会えます。」
その言葉を聞いた瞬間、オレの涙はピタリと止まった。''いつかは会える"…か。
「そのいつかはいつ?いつのこと?」
オレは涙を拭って、ぱっと顔を上げてシリルの顔を覗き込みながら言った。
それを見たシリルは、少しホッとしたような笑みを浮かべていた。
「そうですねぇ、いつになるかは私にも分からないのですよ。あなたのおっしゃるめぐさんが天寿を全うされたら、その時はお会いになることができますよ。」
「てんじゅをまとう…?え、何?わかんない。」
またオレには分からない話になってきてしまった。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「じゃあ、オレはどうしたらまた、めぐに会えるようになるの?教えて、シリル。お願い。」
オレは、必死にシリルに縋り付いた。
そうすると、シリルはオレの頭を優しく撫でてくれた。
「ちゃんとしっかりお話聞けて、私に教えを願うことまで出来ちゃうなんて、君はとっても偉い子ですね。」
急に褒められたので、少し面食らったけど、でもそれより何より、頭の撫で方はめぐに比べたら全然なってないけど…、撫でられたときの温かさは少し似ていなくもないと思った。
「ちゃんとお願い出来る良い子は嫌いじゃないので、私シリルが君を導いてあげましょう。
まあ、そのためにはまず、君にいくつかの質問に答えて貰う必要があります。いいですね?」
「うん、シリルー。何でも聞いて、オレ頑張る。」
オレが張り切って答えると、シリルも同じように張り切り始めた。
「では、まず君の名前からですね。種類はアメリカンショートヘアですかね。自分のお名前はわかりますか?」
「うん、オレはリオだよ。リーちゃんって呼ばれたりもするよ。」
「なるほど、リオくんですね。ご家族の名前は分かりますか?」
「家族?オレの家族は、めぐとかーちゃんと、とーちゃんだよ。オレとめぐはずっと一緒なんだ。」
「そうですか、そうですかぁ。分かりましたよ。リオくんはそのめぐさんと一番仲良しだったんですね。」
そう言ってから、シリルは黙って少しの間考え込んでいるように見えた。そうしてから、また口を開き始めた。
「そうすると、今のリオくんには二つの道を選ぶ事が出来るのですが…。
まあ、一つ目の『このまま次の転生の道日行く』っていうのは、リオくんの希望には合わないと思いますので無しですね。
ですから、自動的に二つ目の『家族がこっちの世界に来るまで、ここの虹の街で待つ』ということになりますね。ただ…、リオくんが一番会いたいめぐさんはまだお若いようなので、かなりの時間をここで待つことにはなってしまいます。」
シリルはそう言い終えると、またオレの顔を覗き込んできた。
「かなりの時間ってどのくらい?」
「そうですねぇ、リオくんは13歳まで生きましたが、早くてもリオくんの猫生の2回分くらいは待っていただかないと、めぐさんには会えないかと…。」
「嫌だよ!そんなの待てない。じゃあ、今すぐ転生の旅っていうのに行って、めぐがいるところに生まれ変わる!」
オレは覚悟を決めて、シリルの顔を見上げた。
でも、そんなオレを見て、シリルは困っ多様な表情を浮かべていた。
「…残念ですが、それは無理なのです。
普通に転生の旅に行っても、その旅路を乗り越えて転生の門に入れるようになる頃には、長い長い年月がかかります。
ですから…、もし今からリオくんが転生の旅に出たとしても、その旅が終わる前に、あなたのめぐさんの寿命は尽きてしまうでしょうね。」
「そんな…。そんなの嫌だよ!嫌だよ…。フニャ〜〜〜。」
オレは泣き叫ぶことしか出来なかった…。
めぐにはオレが居なきゃダメなのに。オレがそばで守ってやらなきゃダメなのに。ずっと一緒にいるって約束したのに…。
他の動物たちが次々と案内されて行くのを背に、オレは独りずっと泣き続けた。
シリルは、オレのことをチラチラと気にしながらも、続々とやって来る動物たちを案内して行くしかなった…。
その列も終わり、辺りにオレとシリルしかいなくなった頃、またシリルはオレのそばまで来て、そっと隣りに座った。
「はぁ、少しは落ち着いたかい?君のように頑固で家族との絆が強い子は初めて見ましたよ。これは、私の負けですね。」
そう言ったシリルは、困った顔をしているはずなのに笑っていて、どこかスッキリしたような表情にも見えた。
「リオくん、少しついて来て下さい。君に見せたいものがあります。」
そう言って、シリルに連れて行かれた先には、大きな虹色の柱が立っていた。
その柱はすごく大きくて、上を見上げても、どこまで続いているのかも分からないほどだった。
「リオくん、上ばかり見ていないで、下を見て下さい。私たちに今必要なものは下にあります。」
言われて下を見てみると、柱の根本近くに小さな水たまりがいくつもあるのが見えた。
「この水たまりのこと?オレ、水はあんまり好きじゃないんだけど。」
「フフ、まあ猫ですからね。ただ、これはただの水たまりではないんですよ。あそこに見える大きな虹色の柱みたいなものですが、あれ実は柱じゃなくて橋なんですよ。いわゆる"虹の橋"ってやつなんです。
あの橋は、生きてる者の世界とこちらの世界を繋いでいるものなんです。
ただ、見ての通りこちら側はほぼ直角に近いので、絶対にこちら側から登ることは出来ません。ほぼ直角なうえすごい距離ですからね、絶叫の滑り台のようなものですかね。ですから、橋って言っても一方通行なんですよ。
まあでも、その虹の橋のお陰で、ここにある水たまりを通して、現世…つまり今生きている人たちを覗き見ることが出来るのですよ。」
そう言って、シリルはオレの手を引き、虹の根本から一番近い他のより大きめの水たまりまで連れてきた。
「その水たまりの前で座っていて下さい。リオくんが今一番見たい人が見れるはずですから。」
シリルに言われるまま、水たまりの前に座り、恐る恐る水たまりの中を覗き込んで見た。
すると、そこにはめぐが映っていた。
めぐが布団の中で何かを抱きしめながら、ボロボロと泣いている姿だった。
「めぐ…、めぐが泣いてる。そばに行ってあげなくちゃ。やっぱりオレが守ってあげなくちゃ。めぐ!めぐ!!めぐ!!!」
気が付くと、オレ自身も涙が出ていた。
そばに居てやりたい。オレだって、めぐが居ないのなんで嫌だ。
「リオくん、ここでめぐさんがこちらの世界に来るまで待つという方を選べば、この水たまりでいつでも、大好きな メグさんの様子を見守ることができますよ。」
「そんなの、 見てるだけじゃオレには何もできない。今だって めぐがあんなにボロボロに泣いているのに、そばに寄り添ってやることもできないじゃないか。俺はめぐと約束したんだまる ずっと一緒にいて、そばで守る って。 約束したんだよ。」
オレの最後の言葉を聞いたシリルは、すーっと目を閉じて静かに微笑んだように見えた。
「分かりましたまる 最後にリオくんの思いの大きさ 強さを見たかったのですよ。2人の絆は本物なのでしょう 。そんな君には 第三の選択の道を教えてあげましょう。 ただ、この旅路はとても大変なものとなるでしょう。それでも、君は頑張れますか?」
「うん 、オレ頑張る。早く めぐに会いたい。」
「それでは、まず 君は虹の花を探してください。」
「虹の花?オレ花は好きだけど 、そんなの 今まで見たことないよ。」
「そうです 。 まだ誰も見たことがないと言われている、 幻の花です。どこにあるかも分かりません。本当に存在するかも分かりません 。ですが、その花を見つけて、神に献上すれば、きっと 君の願いを叶えてくださいます。」
「けん…じょう?」
「すみません、 少し難しい言い方でしたね。 つまり どこにあるかわからない虹の花を見つけて持ち帰り、 神にあげればいいのです。」
「そしたら、また めぐに会える?」
「はい、きっと会えます。」
その言葉を聞いた途端、 俺は嬉しくて嬉しくてたまらなくなった 。
気がつくと、その辺を走り回っていた。
「フフフ、そんなに喜んでもらえるのは嬉しいですが、先ほども言いましたが、 この旅路はとても大変ですよ。」
シリルの言葉に 我に帰った。
「大変ってどのくらい?」
「そうですね…。まず誰にも見たことがない花なので、どこにあるかも 、どのような花なのかも 全くわからないのです。
『どのような花かもわからない』ということは、その花が寒いところで咲くものなのか 、暑いところで咲くのものなのかもわからないということです。そして、お日様がたくさんあるところが好きなのか、あまり 日の当たらない日陰の方が好きなのかというので、探して 行くところが 全然変わってくるんでするよ。ここまで分かりますか?」
シリルが長々と話した後、急にオレを見てきた 。もちろん 、最初のうちは頑張って聞いていた 。でも途中から 長すぎてよくわからなくなった。
「えーと 、すみません。 もう少し簡潔に話しますね。」
そう言ってシリルは目を閉じて、 ゆっくり3回呼吸をした。
「ふぅ、お待たせしました 。つまり、どんな姿形をしている花かわからないものを、何の手がかりもなしで探し 回らなくてはいけないということなんです。
そして、それが本当にあるのかも、わからないのです。」
「そっかぁ。オレね、 外に出る時はいつも、めぐかかーちゃんに抱っこされてしか、散歩したことがなかったんだぁ。だから 、正直怖いけど…、めぐのためにも頑張りたい 。それに、こっちの世界にはどんな花があるのか すごく楽しみだよ 。めぐも 花が大好きだったから、オレが見た花を会った時に教えてあげたい。」
オレは、シリルに話しながら、ワクワクする気持ちが抑えられなくなってきているのに気づいた。だって、今まではいろんなことをめぐから教わってきて ただけだったのに、今度はオレが見つけたことを、 めぐに教えてあげることができる。 そんなの考えただけで最高だ!だから、どんなにシリルに大変って言われても、そっちの気持ちの方が上回っちゃうよ。
そんなオレの様子を見ていたシリルは、少し 呆れたように笑った。
「分かりました。君が もう覚悟を決めているなら、 もう私からは何も言いません。
ただ、出発するには少し 準備してからではないと 、さすがに私も送り出せません。ですので、 今日は一晩 ここで休んでください。その間に、 必要最低限の準備は、 私がしておきますので。」
そう言って、シリルはどこからか大きな三角のものを取り出した。
「君のめぐさんが映る 水たまりの横にテントを建てましたので、今日はその中で寝てください。」
「え、この水たまりのそばで寝てもいいの?」
「はい、 これから大変な旅に出るのですから、 それをたった1匹で頑張る君へのご褒美ですよ 。では、良い夜を。」
そう言い残して 、シリルは足早に去って行った。




