変わる者、変わろうとする者、変わった者
Bクラスヒーローに強装甲ダーツという者がいる。
優しくてまっすぐな好青年、赤羽牙が変身し戦う姿なのだが……悲しい事にダーツがマトモな戦闘で勝ったという記録は全く残されていない。
理由は単純で、恐ろしいほどに弱いからだ。
甲高い声を出す黒スーツ集団の、片手で数えるほどの人数と戦って引き分ける程度。
そんな正義の味方としては致命的な戦闘力しか持っていなかった。
だが、ダーツの勝率は零であっても赤羽自体の勝率は九割をキープしている。
それを証明するかのように彼の人気は高く、ファン層はかなり歪だがBクラスヒーローではありえないほどの注目を集めていた。
この理由もまた単純で、ダーツというヒーロースーツを身にまとった赤羽はとてつもなく弱いが、赤羽がスーツを失った時に変身する、真の姿は比べ物にならないほどに凶悪で、とにかく強いからだ。
凶津牙ゲイル。
赤羽の正体であるライカンスロープという種族は、世界で見ても片手で数えるほどしか存在していない非常に稀有な存在だった。
戦闘力だけならAプラスより上の領域で、破壊力という意味では確実にオーバークラスの領域に差し掛かっている。
ただし、その戦闘力の為か本人の問題か……ゲイルとなった赤羽は本能に忠実な完全なる暴走状態になってしまう。
ゲイルの本能はたった一つ。
『破壊』
ただそれだけだった。
効率など一切度外視した、ただ全身の肉体のみを使って暴れまわる獣のようなその姿。
それはまさに、破壊者と呼ぶに相応しかった。
気持ち良い位に街を壊すその攻撃力と、悪の組織員だけでなく正義の味方でさえも容赦なく区別なくぶちのめすその狂暴性。
そして単純であるからこそシンプルでわかりやすい、その強さ。
そんな大人向け特撮のようなキャラクター性によりゲイルは一躍男達の人気者となっていた。
とは言え、本能に忠実な為その行動は非常に分かりやすく、読みやすい。
そこいらの犬よりも計画性がなく、ワンパターンな行動しかしない。
ただ暴れまわる事しか出来ないゲイルではあるのだが……それでもゲイルを倒せたヒーローはほとんどいなかった。
ARバレットの地下深く、秘密作戦室にてテイルは息子、娘を見ながら高笑いをあげていた。
「ふはははははは! まさかあのゲイルをあっさりと倒すとは、うむ! 気分が良いな」
「流石はDr.テイルの作った怪人、そして我が妹。見事です。普段やる気を出さないから心配しておりましたが……ええ、ええ。素晴らしい!」
純粋に褒めているはずなのに、どこかねちっこい気持ち悪さを見せるボロボロのフードを羽織った怪人ファントム。
兄として妹を褒めているはずなのに……何故か不可解な暗い表情が見え隠れしていた。
「……うっわめんど。……ま、あいつを何とか出来たのは私も楽しかったし……悪くない感じかもね」
そう言って欠伸をかみ殺すクアン。
「ああ。良くやった。褒美をやろう。休暇以外でな」
「……めんど。じゃあ人を駄目にするベッドで良いよ」
「……買ってやっても良いのだが……貴様は二度と部屋から出てこなさそうだから却下だ」
「ちぇっ」
それっきり、クアンは話そうとせずだるそうにぼーっとしだした。
「……今回のクアンは確かに見事だった。結果だけ見れば圧勝だったが、一手ミスればお前が負けていた可能性も非常に高かった。確かにお前は良くやったが……今回はお前だけの手柄ではない」
「そね。めんどい作成とか全部考えてくれる人がいたからね。楽だったよ。また今度もよろしく」
その言葉に、テイルの横で椅子に座っていた女性が椅子をくるーっと動かしユキの方に体を向けた。
少々ばかり幼い印象と、知的で棘のある印象を併せ持ったアンバランスな女性。
彼女こそが兵器開発局長でありテイルの右腕でもあるユキだった。
「一応私は貴女の上司ですけどね。ま、良いでしょう。私のいう事を聞いてくれるだけ貴方はまだマシですわ」
そう言って、ユキはちらっとファントムの方を見つめる。
ファントムは、隠そうともせずユキの方を敵視する。
いつもはねちっこく、他者を見下しような視線を送る遠まわしで狡猾な性格なファントムにして珍しいほど直接的な怒りがそこに含まれていた。
「ああ怖い怖い。怖くて私、笑ってしまいそう」
そう言って妖艶に微笑むユキ。
怪人から怒りの目を向けられても平然とするその姿は、怪人以上なおぞましさが醸し出されていた。
「――はいカット! 良い感じだったんじゃないか。なあ越朗君はどう思う?」
テイルは撮影用の演技を終えた後手をパンと叩き、奥の方で一人ぽつんと座っている赤羽にそう尋ねた。
「えと、自分が負けた後のシーン撮影を見学しているこの状況がぶっちゃけ良くわかりません。まじで俺何でいるんです? 追い打ちです? 死体蹴りです?」
ゲイルが負ける事は自分にとって好ましい事ではあるが、それでも自分が負けた事に違いない赤羽は何となくもやっとした気持ちのままそう呟いた。
「うむ。そうかそうか。そうだろうな。だがな越朗君。それにはちゃんとした理由があるのだよ」
「なるほど。何かあるんですね。それで、どんな理由が?」
「うむ。この後祝勝会を開くからそれに越朗君も参加してもらおうかと」
「どこの世界に悪の組織の祝勝会に参加するヒーローがいるんですか!? つーか倒されたヒーローを招待するって虐めですか? 虐めなんですか?」
赤羽は机をバンバン叩きながら声を荒げた。
「いや、そんな気は一切ないぞ。まあ本当に嫌なら呼ばないけど……本当に嫌か?」
そう言われ、赤羽は何かを言おうとして、ある事に気づいた。
それは自分の方を期待する眼差しで見ているクアンの姿である。
クアンが赤羽に一体何に期待しているのかわからない。
わからないが、赤羽は自分が祝勝会に参加してほしいと思っているのは確かだろうと考えた。
「……わーい俺自分が負けた祝勝会に参加するの大好き―」
赤羽の言葉にクアンは嬉しそうな表情を浮かべ、テイルはニヤリとした笑いを見せた。
「ああ。越朗君は全く分かりやすい男だ」
もう一人、恐ろしい位に分かりやすい好意を持ち、そこそこにアピールしている人がいるのだが、そっちにテイルは全く気付かない癖にそう呟いた。
ユキは椅子に座ったまま、テイルの脛をそっと蹴飛ばした。
その後、テイルとユキ、ファントムと主役であるクアンと赤羽というメンツで車に乗って移動し、祝勝会が開かれた。
十人くらいで満杯となる小さなバイキング店を借り切って開かれた、たった五人の祝勝会……という名目で開かれたクアンの慰労会である。
クアンにはこれよりしばらく休暇を取ってもらおうと考えたいた為、そのキリとしてこのような祝賀会が開かれた
ちなみにテイルが赤羽を呼んだ理由は、ちょっとしたアシストのつもりだった。
「赤羽さん。こんばんは。食べてますか?」
そう言ってニコニコ顔のクアンが赤羽に話しかける。
いつも微笑んでいるが、今日はまたいつも以上に機嫌が良さそうだった。
それでいて、少々目がとろんでいていて頬が赤い。
何故かわからないが、少しだけ普段とは違う色気が出されていた。
「え、ええ。食べてますよ。せっかくの祝勝会ですからね。俺にとっては残念回ですけど」
そう言って微笑む赤羽。
「ふふ。そうですね。それで……少しは自分が許せそうですか?」
曖昧な表現ではあるが、それでもクアンが何を言っているのか赤羽は理解出来た。
「……微妙ですね。でも……少しだけ、自分だって受け入れる事が出来そうです」
自分の嫌な部分であると押し付け、自分ではないような気持ちになっていたゲイルという存在は、クアンに還付なきまでに敗北した。
そして、いつもは破壊衝動しか感じないゲイルからの感情に、珍しく恐怖と困惑の感情が含まれていた。
赤羽にとって破壊と殺人の象徴でしかなかったゲイルだが、今日この日を境に、少しだけ……本当に少しだけ自分であると認める事が出来たような気がした。
「……まあそうなると、やっぱり少し悔しいって気持ちが出てきますね」
そう言って赤羽は苦笑いを浮かべた。
「負けた事がですか?」
「ですね。コイツが自分ではないただの獣と思っていましたので負ける事を願ってはいましたが……いざあれも自分であると思うと……悔しいというか情けないというか……」
ぶっちゃけて言えば、惚れた女に一方的に負けた事が情けないのだが、それを口に出す勇気赤羽にはなかった。
「まあ勝てたと言ってもかなりギリギリですけどねー。ほら見てください」
そう言ってクアンは赤羽にそっと何か細長い物を手渡す。
それは体温計で『37.7℃』と表記されていた。
「えと……これは?」
「えへへー。今の私の体温です」
何故か自信満々にクアンはそう言葉にした。
「ちょ、結構高いじゃないですか。大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよー。ハカセも大丈夫だって言ってましたからー。というわけであっさり勝てましたけど実は余裕というわけではなかったんですよー。それでも私が勝ちましたけどねー」
何故かドヤ顔で胸を張るクアン。
「普段と違うのもまた可愛い……ってそうじゃなくって、いえクアンさん休まないと」
「大丈夫ですよー。ハカセが良いって言ってましたからー。というわけで約束通り悔しがってる赤羽さんを慰めてあげましょー」
そう言いながらクアンは赤羽の頭を子供のように撫で繰り回した。
「……クアンさん。お酒飲んでませんよね?」
赤面しつつ赤羽はそう尋ねた。
「ませんよー。今日は私の為の会なのでおしゃけはここに一切ありません」
そう言いながらも、クアンの手は赤羽の頭から離れていなかった。
赤羽は助けを求めるように周囲を見回した……が、誰も助けようとはしなかった。
ファントムは食事に集中しているフリをして知らんぷりをし、ユキはニヤニヤしているだけで何もしようとはしない。
唯一の頼みの綱であるテイルなら……父親だからこそ娘の不純異性交遊を嫌うテイルならきっと何とかしてくれる……。
そう思っていたが、テイルはニヤリとした笑みのまま、サムズアップをしているだけだった。
「……神は死んだ……」
今にも密着しそうな距離で嬉しそうにしているクアンを止める術を持たない赤羽は、そう呟く事しか出来なかった。
「良いの? あれ放置して」
ユキはしどろもどろになって困惑する赤羽と、蓄積した疲労と能力の使用過多により知恵熱を出したクアンを見ながらそう呟いた。
「構わんさ。と言っても、一応手は出すなとメールだけ送っておくつもりだがな」
「あらあ。そこはやっぱり娘を心配するお父さんなんだ」
そう言ってユキはテイルにからかうような笑みを浮かべた。
「越朗君が自分から手を出す事はないだろうし、クアンもまだそういうのは早いと思っている。だが、子供の特に怪人の成長は早いからな。どうなるかわからん。そして俺はむしろ越朗君を応援する立場だが……現在のクアンの体調は余り好ましくないからな。この状態で無茶をすればどうなるかわからん。だからうっとうしいかもしれんが釘くらいは差しておこうって思ってね」
「なるほど。ちゃんと考えてるのねぇ」
「娘の事だからな。ま、結婚は越朗君がゲイルを完全に制御出来るまで許さないけどな」
そう言ってテイルは笑った。
「ねね? クアンが彼に抱き着いているけどどう思う?」
まるでべったり甘えているかのように赤羽にしがみつくクアンを見て、ユキはそう尋ねた。
ちなみに赤羽は名前以上に赤くなっておろおろしているだけだった。
「んー。あんまり人に甘えないクアンが珍しいな。半分夢見心地の状態だから……動物の夢でも見てるのかもしれん」
「彼がこっちに助けを求めて捨てられた子犬のような顔をしてるわね」
「ははは。好きな人に構ってもらえるのだから嬉しいはずだ。だから気の所為だろう」
平然と言い放つその言葉とは違い、テイルの表情はニヤリとした陰湿な物だった。
「貴方彼相手にだけは何かいじわるね」
「別にそのつもりはないが……それならきっと越朗君がそういう星の下に生まれたのだろう」
「なにそれ。ま、親である貴方が良いのなら私は何も言わないけどね」
「良いさ。娘が幸せなら何でもな。……そろそろ会もお開きか」
「まだ一時間ちょっとだけど、早くない?」
「ほれ。あそこ」
そう言ってテイルが赤羽とクアンの方を指差した。
そこには赤羽に抱き着いたまま寝息を立てるクアンの姿があった。
クアンの体調は決して良いものではないが、最悪というものでもない。
やろうと思えば培養カプセルで治せる程度だ。
だが、それはあまり好ましい事とは言えなかった。
今回の原因は能力使用の疲労だけでなく、長期で蓄積された疲労もその原因の一つだからだ。
この状態で急速治療を行っても、またすぐ同じ状況になるか更に酷いになる事は予想に難しくない。
ただでさえクアンはデビュー時のゲイル戦やダム決壊の阻止等短いスパンで過酷な状況を味わっている。
しかも生まれてすぐという状況でだ。
精神が急激に変化、成長を繰り返す生まれたての状態で負担の多い業務を重ねたクアン。
それに加え周囲の手伝いを好んで行うとする気性も合わさり、ゆっくりするという事が出来ず、本人すら気づかぬうちに疲労が蓄積していっていた。
だからこそ、テイルにとって今回は長期休暇を出す絶好の機会だった。
テイルは強敵を倒したという区切りに祝い、それに加えてクアンに疲労が抜けきり精神がリフレッシュするほどの休みを――具体的には一月から二月ほどの休みを出すつもりだった。
「ま、越朗君にとって良いチャンスではあるだろう。……ヘタレだからこの程度では進展しないだろうがな。ついでに言えば、クアンもまだ恋愛感情が目覚めていないしな」
そう言って二人の様子をニヤニヤみるテイルに対し、ユキは盛大に溜息を吐いた。
「どうしてこの人はそこまでわかるのに……はぁ」
「……よく分からないが何かすまん」
自分の配慮が足りない所為で女性に溜息を吐かれる頻度の多いテイルはわからないなりにとりあえず謝っておいた。
祝賀会という名のクアンの慰労会は終わり、嬉しいのやら困ったやら恥ずかしいやらで百面相をしている赤羽にクアンは明日からしばらく休みだからどこかに連れて行って休ませてあげて欲しいとニヤニヤしながらテイルは伝えた。
その間クアンは赤羽の背中で気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「……俺がクアンさんに何かしたらどうするんですか」
とそんな勇気のない赤羽が言うのがやけに面白く、テイルとユキは小さく微笑んだ。
「どうぞどうぞ。君が高熱で苦しんでいる愛しい人に危害を加えるような人物なら好きにするがいい」
テイルは普段のようにからかい口調で、ユキはテイルの物真似をしながら声を揃えそう言葉にした。
それに対し赤羽は、溜息とジト目で抗議をするくらいしか出来なった
そうこうして赤羽をいじって時間を潰していると、車に乗ったファントムが迎えに現れた。
その車に赤羽はクアンを乗せ、その横に赤羽も乗り込んだ。
「じゃファントム、二人を頼むな。赤羽君もうちに泊まって行っても良いぞ。クアンとは別の部屋だがな」
「……一言余計ですがお言葉に甘えます」
「うむ。俺達は少し用事があるから今日は帰らないかもしれないが、まあ心配しないでくれ」
その言葉に赤羽は仕返しとばかりにニヤリと笑った。
「朝帰りですか?」
「いや。俺達はお前らと違いそういう関係ではないから。なあユキ」
ユキは自信満々にそう答えるテイルの脛を小さく、何度も蹴った。
「痛、痛い。地味に痛い。何故、何故にホワイ?」
ユキの表情は痛そうにしているテイルよりも悲しそうだった。
「……ユキさん。頑張って下さい」
「……うん。下手すりゃ貴方達より私の方が大変だわ」
そう素直に答えるユキ。
今まではなんだかんだと言い訳を重ねて誤魔化していただけにその変化は顕著で、赤羽とファントムは僅かながらの驚きを覚えた。
「……では僕達が邪魔にならないよう行きましょうか。ハカセ。ユキさんの事お願いしますね」
「ああ。そっちも頼んだ」
そうとだけ言い残し、車は発進していった。
「んじゃ、俺達も行くか」
その言葉にユキは頷き、二人はうす暗い明りに照らされた夜をゆっくりと歩きだした。
「悪いわね。送らせちゃって」
ユキがそう呟くと、テイルは優しく微笑み首を横に振った。
「いやいや。それくらいは構わないさ。俺の方でも積もる話もあるしな」
これから行く場所、符李蛇鵡について考えながらテイルはそう呟いた。
食事会の場所から符李蛇鵡の拠点まで徒歩で十五分位な為、二人は車に乗らず別行動で歩いて向かう事にした。
別にファントムが二人を車で送っても良いのだが、そうしなかった理由を話すのは野暮でしかないだろう。
「ん。ありがとね。私がユキヒに会いたいってのもあるけど……あの子目を離すと微妙に心配なのよね……。こう……勉強的な意味で」
そう言って苦笑いを浮かべるユキ。
その顔は決して嫌そうではなく、むしろ嬉しそうだった。
「良いお姉ちゃんやれてるみたいで安心した」
「ええ。おかげ様で外見以外はね。……私があの子位背が高くて出るとこ出てたら少しは変わったかしらね……」
「何がだ?」
「さあ? 何でしょうね」
そう言って微笑むユキにテイルは首を傾げた。
その後は無言のまま二人は横に並び歩を進めた。
肩が触れ合うほど近くはなく、されども他人というほど遠くはなく。
お互いの体温が感じないけれど、そこにいる事を感じられるほどの距離感。
その位の距離で二人は歩く。
少しだけ、今までよりも半歩ほどだけユキが今までよりも距離を縮めているのだが、テイルはそれに気が付く事はない。
そして、そんなじれったい距離感すらユキは楽しんでいた。
その直後に――パシュッと小さな、乾いた空気のような音がユキの耳に入る。
それと同時に、ユキは火薬のような香りに気づいた。
それが硝煙の香りであるとをユキが理解した時、どさっと音を立ててテイルは地面に突っ伏した。
「テイル!?」
何が起こったか推測するのは難しくないはずなのに、ユキは答えが導き出せずにいた。
正確には、その可能性を考えたくなかった。
無意識ながらもすぐさま救急車を呼ぼうとバッグからスマホを取り出そうとするユキ。
その瞬間に、チャキとプラスチックがぶつかったような音が聞こえた。
即座に行動を中止してその方角に向き、横に飛ぶユキ。
カシュッ。
マズルフラッシュの直後に消音された弾丸の発射音が響き、銃弾はさきほどユキのいた位置を通って突き抜けていった。
ユキはスマホを操作しながらその相手に近づいていく。
ジグザクな高速移動を繰り返し、狙いを絞らせないようにして接近していくユキ。
銃を撃ったであろう相手は、その場から全く動こうとしない。
後二歩ほどで相手に接近できそうな距離で……ユキは背後から何者かに掴まれ口元に柔らかい何かを当てられた。
それが湿った布であると気づいたユキは即座に振りほどくのだが、既に呼吸した後で手遅れとなっており……何かの薬物の影響でユキの意識は朦朧となっていた。
そんな今にも倒れそうなユキが……意識を失う最後に見た光景は――倒れているテイルに再度の凶弾を放つ何者かの姿だった。
ありがとうございました。




