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トゥイリーズと行く宝が山商店街観光ツアー2


『宝物を探せ』

 その企画を簡単に言えば、スタンプラリーにクイズを足して、水曜〇うでしょう風にしてみたというのが一番近いだろう。

 スタートである喫茶店『トレジャーハント』でスタンプを押した時を開始として時間を測定し、計八か所の道中でスタンプを押し最後にトレジャーハントに戻って終わりのスタンプを押し合計十個のスタンプを揃える。

 ただし、その道中八か所はダイスによりランダムに変化する。

 そしてカードが完成した時間が短ければ短いほど商品のグレードは上がり、トップ十に入れば最高報酬が一つ貰え、トップ三に入れば最高報酬が三つ全て貰えるという仕組みである。

 そしてもう一つの要素としてクイズが存在する。

 スタンプを押す場所八か所ではクイズが出題され、そのクイズに一問正解するごとに五分短縮出来るという仕組みになっている。

 

 最高報酬は『海賊風キャップ』『偽宝の地図』『宝箱が入っていたっぽい箱』の三つ、要するに、今回の企画の為に作った小道具の一部である。

 と言っても、ただのイベント記念品と違い、そのクオリティはなかなかに侮れないものとなっている。

 帽子はわざわざプロのデザイナーに依頼して作った最高級で、地図はわざわざ羊皮紙製にし耐久性も十分に確保した古代と現代の合わせ技術の結晶。

 箱に至ってはメッキ塗装ではなく実際の金も使ってのものだから結構な値段がかかっている。

 商店街のイベント関係なく全て売ればそれなりになるものである為、最高報酬と呼んでも差し支えない物と言っても何の問題もないだろう。


「という感じで説明終わりますが、参加するのは三人で良い?」

 マリーはテイル、クアン、ユキを見ながらそう尋ね、三人は頷いた。

「ああ。始まる前に質問だ。電話とかネットとかの利用はアリか?」

「ありですよー。ただしクイズが始まったら電話とかネットは止めて三人だけでがんばってね」

 テイルの質問にマリーがそう答え、テイルはニヤリと笑った。

「わかった。それじゃ、さっそく始めるのか?」

「いえいえ。その前にはいこれ」

 マリーはミントの協力の元で、大きな箱を二つとサイコロを一つ取り出した。


「……これは?」

 ユキの質問にマリーはにっこりと笑った。

「運任せのゲームですからね。リーダーも運任せですよ! 一と四でテイルさん。二と五でクアン。三と六でユキがリーダね。誰振る?」

 全員の視線がテイルに集中し、テイルはサイコロを受け取り、そのまま即座に転がした。

「運命のダイスロール!」

 謎の決め言葉と同時にころころ転がるサイコロは、赤い目を上に出していた。

「一ですね。ではこの三人のリーダーはテイルさんで」

 マリーの言葉にテイルは何故かガッツポーズを取っていた。


「それじゃあリーダーの、いえ、キャプテンのテイルさん。二つの箱から一枚ずつ紙を取り出してください」

 マリーはそう言って箱を抱え、横にミントも箱を抱えていた。

「うむ。何が出るかな。何が出るかなー」

 テイルは陽気に声を出しながら箱の中から紙を取り出した。

 ――それ、サイコロの奴じゃない?

 マリーはそう思ったが水を差すのも悪いと思い口には出さなかった。


「『愉快な』と『仲間達』って書かれている紙が出たが……これは?」

「はい。というわけでこの海賊団の名前は『テイルと愉快な仲間達』になりましたー! 拍手!」

 マリーとミントはパチパチと小さな拍手をしていると、海賊服やらセーラー服やらのスタッフらしき人達も一緒に拍手をしだした。


「ではテイルと愉快な仲間達よー。宝を探すのだー。というわけでこれがスタンプの台紙です。あっちのスタッフの元でスタンプを押した瞬間からスタートですよ! あ、私達はここで待ってますね」

「ああ。ありがとう」

 テイルは宝の地図みたいなロール状になった台紙を受け取り、それを広げてみた。

 その大きさは美術の授業で使う画用紙のような大きさをしていた。


 その後テイルは、くるっと振り向いて後ろの二人を見た。

「二人はスタンプを押したいか?」

 そうテイルが尋ねると、クアンは勢いよく手を挙げた。

「はい! 押してみたいです」

 ワクワクした表情ではっきりクアンはそう答えた。


「私は別にどっちでも」

 そうユキはつっけんどんな態度で答えた。

 この態度で『本当は押してみたいけどクアンに譲った方が良いと思うし押したいって言うの何か恥ずかしい』などとわかる人はいないだろう。


「そうか。ちなみに俺も押してみたい」

 そんなユキの葛藤などどうでも良さそうにテイルはそう答えた。

「じゃ、どうします?」

 クアンがそう尋ねると、テイルはユキの方を見つめた。

「二人で押すと何か仲間外れ感が出て嫌からだユキも押せ。リーダー……じゃくなくてキャプテン命令だ」

 きりっとした表情でそう答えるテイルに、ユキは溜息を吐いた。

「はぁ……良いわよ。命令なら仕方ないわ」

 そんなしょうがない感満載のユキだが、その口元はうっすらと笑みがこぼれていた。


「んじゃキャプテンの俺が最初と最後のスタンプを押す。道中の八つは二人で分けてくれ」

「はーい」

「はいはい」

 そんな二人を見てテイルは満足そうに頷き、スタンプを持っている人の元に移動した。

 

 テイルはスタンプ前に待機しているスタッフの言われるままに力強く、台紙に手の平大くらいの大きなスタンプを押し込んだ。

 その絵は宝箱の絵で、その絵のすぐ下に『PM02:01』と現在の時間が記されていた。


「はい。これで開始となります。では、行先をこれで決めてください」

 そう言われ出された道具にクアンは首を傾げた。

「なんですこの……これ?」

 何と表現したら良いかわからない丸っこい物体を見ながらクアンは不思議そうな顔をし興味深そうにそれを見ていた。

 ユキは一目で何なのかは理解し、テイルは趣味の関係でそれについて良く知っていた。

「これはなクアン。サイコロの一種だ。ただし百面あるがな」

 そう、それは百面ダイスと言われる道具だった。

 球体に近いその形状であるが列記としたダイスの一種である為。TRPGも趣味の一つであるテイルは良く知っていて、そして持っていた。

 とはいえ、実際に使った事はほとんどない。

 あまりに独特過ぎて使い道がないからだ。


「へー。あ、私転がして良いですか?」

 クアンの言葉にテイルは頷き、クアンは百面ダイスを興味深そうに持ち上げそれをコロコロと転がした。

「はい出た目は五十一! 中央地区南区域、所謂五丁目と言われる場所の和風スイーツの屋台にどうぞ!」

「よし行くぞ二人共!」

 店員の言葉を聞いたテイルは急いで台紙を受け取りその場を後にした。


 トレジャーハントの外に出た時、ユキがテイルに話しかけた。

「それで、どうやって行くとかどこに行くとかわかるの?」

 テイルは自信満々に答えた。

「知らん!」

「……ええー」

「知らないが、知ってる奴は知ってる」

 そう言いながらテイルはイヤフォンマイクを付け、どこかに連絡を始めた。

「……あーあー。もしもし。聞こえるか」

『はいはい。聞こえますよ。そろそろ来ると思ってましたー』

 テイルの耳にそんなのんきな声が響いた。

「ああ。事情の説明がいらないなら良い。ナビゲート頼む。五丁目の和風スイーツの屋台だ」

『了解でーす。ルート送りますからそっち見てください』

 その直後、テイルのタブレットにマップが表示されカーナビのようにルートが表示された。

「……歩いて十分ほどだ。よし行こう。あ、走るのはなしだ。車が多く危ないのと、俺の体力が保たないからな。お前ら二人に着いて走るほど俺はアウトドアな人間ではないからだ」

 恥ずかしい事を自慢するように言いながら歩き出すテイルの後ろを、二人はついて歩いた。


「ねぇテイル。誰と通話してるの?」

 そんなユキの質問に、テイルは歩きながら答える。

「ああ。戦闘員七号。ナナだ。クアンのお世話係だな。何故か知らないが宝が山商店街にやたら詳しい」

 そうテイルに言われ、ユキは何となく面白くない気持ちを覚えた。


 むかむかして、不愉快で、そして何故か若干テイルを怒りたくなる。

 そんな不思議な感情をユキは知らないフリをして制御しつつ、クアンの方を向いた。

「ねえクアン。ナナってどんな人?」

「え? ナナさんですか。優しくて、ちょっと面白くて……こう言うとちょっとハカセに似てるとこありますね。あとハカセにすっごく感謝してるみたいです」

 クアンが笑顔でそう答えると、ユキの不愉快な気持ちはまた少し強くなった。

「そう。似てるの。それで感謝してるのか」

 感謝してる理由はもう言わなくても想像がつく。

 推測だが、概ね間違っていないだろう。

『戦闘員と呼ばれる者は全員身体欠損者で、テイルは怪人の技術を流用して彼らの肉体を用意した』

 そう考えると、それこそ皆がテイルの事を神のように感謝されても当然の結果であると言えよう。

 ただ、それはそれとしてやはりユキは面白くなかった。


「他にはどんな感じ? こう、何が嫌いとか何が苦手とか。あとどういう料理が得意かとか」

 そんな不思議な質問にクアンは首を傾げつつ真面目に考えてみた。

「えーと……そうですね。その辺りの事はわかりませんねー」

 そう呟いた後、クアンはユキの耳元に近づいてきた。

「ただ、婚約者がいてその人とそろそろゴールインするんじゃないって噂が流れています。良くわかりませんが」

「――そか。だったらその時は私もお祝いしないとね」

 ユキはナナに感じていた不快な感情は消え去り、晴れ晴れとした笑顔でそう言葉にした。




『というわけでトレジャーハントから近くてそれなり以上に美味しいタイヤキ屋の屋台さん『目出鯛さん』です』

 ナナのナビゲート通りに移動した先には、客が全く寄り付いていない小さな屋台がぽつんと建っていて中では店主の男が暇そうに新聞を読んでいた。

 客が全く見当たらないのは場所が悪いのも理由の一つではあるだろう。

 だが、それ以上に店主の顔が怖かった。

 ヤのつく人のようなパンチパーマの人相は、数人ほど処理したムショ帰りのような、または古き仁侠映画のアニキ役のようなそんな顔をしていた。


「おい。本当にココでいいのか?」

 そんな不安そうなテイルの声に、ナナは微笑んだ。

『ふふ。大丈夫ですよ。ちゃんとカタギの人ですので。あ、注文の時にこう言ってみてください』

「あ。タイヤキ買う流れなのか。ま、何もなしにスタンプだけ頼むのも悪いしそのつもりではあったが。ところで、クリーム入り頼んでも大丈夫か? 殺されないかな?」

『大丈夫ですよ。ただ、ごにょごにょ……と、頼む時にこう頼んでくださいな――』

 ナナの言葉に頷き、テイルは二人に何が欲しいか聞いて店の前に立った。


「……いらっしゃい」

 えらくドスの聞いた声にテイルは怯えつつも、ナナの言葉をそのまま口にした。

「う、薄くカリッと少し冷めたの三つ。あんこ二にクリーム一で」

 そうテイルが言った瞬間、店主の瞳は鋭くとがった。

 それはまるで、獲物を見つめた鷹のようだった。

「ほぅ……。なるほど……ちょっと待ってな」

 そう言って男はその屋台から離れどこかに行った。


「……俺はこの後『片栗粉のような何か』が持ってこられても驚かない自信がある」

 そんなテイルの言葉にクアンは不思議そうに首を傾げた。

 ユキはどうでも良さそうに、屋台に置いてあるタイヤキをじっと見つめていた。

 昔は何を食べても美味しいと感じなかったのに、最近は食べ物が何でも美味しく感じられて仕方がなかった。

 自分がこんな食い意地が張っていたなんて知らなかったユキだが、それでもタイヤキから目が離せなかった。


 それから一分ほど待つと、店主はどこかから戻って来た。

「ほれ。餡子二とクリーム一だ。この場で食うだろ?」

 パックに入れられた三つのタイヤキをテイルは受け取り、一つ取って後ろに回した。


「じゃ、じゃあいただきます」

 テイルはそう呟き、じっと見つめる男の前でタイヤキに頭から被り付いた。

「……ほぅ。……ほぅほぅ! これは……なるほど! 確かに美味い」

 テイルは素直に感心して頬を綻ばせ、それを見て店主はにやっと笑った。

 後ろの二人に至っては既に無言となり、一心不乱にタイヤキに夢中になっていた。


「兄ちゃん。誰に聞いたか知らんが良い食い方を知ってるな。ウチのタイヤキはそれが一番美味いんだ」

「ああ。最高だ。他の屋台でタイヤキが買えなくなってしまいそうだ」

「そんならウチをごひいきにってしてくれ」

 そういってにかっと笑う店主だが、やはりその顔は恐ろしかった。

「ところで、俺は餡子よりクリーム派なんだが、店主としてこういうのってどうなんだ?」

「ああ。ま、邪道ではあるだろうな。タイヤキってのは拘りぬいた餡子と小麦の生地のバランスを調整して作るもんだ。それは味は当然、食べやすさ、崩れにくさも配慮している。現にクリームで皮薄めにすると少し食べにくいだろ?」

 言われてみれば、クリームがはみ出やすく崩れそうで確かに食べにくくはあった。

「だよなぁ。それでも、俺はクリームの方が好きだな」

 そうテイルが言うと、店主はじっとテイルの方を見つめた。

「そうか。ちなみにだが……実は俺もクリーム派だ」

 そう店主が答えると、二人は小さな声で笑いあった。


「そのでかい紙持ってるって事はラリー参加者だろ? ほれ。食い終わったら押してけ」

 店主は屋台の裏から大きなスタンプをとんと前に出した。

「ああ。ありがとう。ところで、クイズと……後次の行先はどうしたら良い?」

「次の行先は、ほれ。あっちのガシャポン回せ。クイズは……そうだな。『ウチのタイヤキで一番美味い頼み方は何だ?』にしておこう」

 店主はにやりとした表情で指を立て、そう出題した。

「薄くカリッと少し冷めたの!」

 三人は声を揃えてそう答えた。


 その後、クアンがスタンプをポンと押すとその下に店主が正解のスタンプを押した。

 ちなみにここのスタンプの絵は金貨のマークで、しかも良く見るとその硬貨の中に描かれている模様の魚がタイヤキになっているという非常に芸の細かい仕様になっていた。


 その後、クアンが硬貨を入れる隙間がない不思議なガチャガチャを回し、『宝が山第二美術館』と書かれた紙を二人に見せた。

「ご馳走様。本当に美味かった。また来る」

 そう言ってテイルはその場を後にして、ナナに次の目的地までのルート案内を頼んだ。




 学業地区にある美術館の為非常に遠く、バスに乗って移動した後絵画に関するクイズをユキがあっさりと答え、更に次の目的地に移動していく。

 そのまま目的地ごとに食い歩き色々と気になる物を買いつつスタンプを押していく三人は、後半になってこのイベントの真の恐ろしさに気が付いた。


 それは……ついつい買いすぎてしまう事である。


 それが必要な物ならまだ良いのだが、そうでなくてもつい気と財布が緩み買ってしまっていた。

 クアンが買ったバッグや服はまだ良い。

 だが、テイルの買ったダルマ模様のうちわや、ユキが買ったひよこの着ぐるみなどどこに使うというのだろうか。

 スタンプのついでという名目でついつい無駄遣いをしているという現状に三人は恐れながら、それでも止められずスタンプを集めて回っていた。


ありがとうございました。

ちなみに私は頭から食べて、最後にかりっとした尻尾を食べるのが好きです。

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