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トゥイリーズと行く宝が山商店街観光ツアー1


 結局のところ、世間のしがらみを一番気にしているのはユキ自身である。

 クアンは当然として、トゥイリーズの二人はそんな事全く気にしていない。

 しかし、どうしても他の人達と比べて年齢が、才能が違う事を気にしてしまう。

 ……自分は持っている人間だから、その分何かをしなければならない。

 例えその才能と引き換えに家族に捨てられ、友人がいなく、楽しい事が全くない青春時代を過ごしたとしても、自分に才能があるのは間違っていないのだから。

 そんな驕りと取られても仕方がない考え方を、ユキは捨てられずにいた。

 ――だってしょうがないじゃない。四人の中で私一人だけ大人で、院卒で、そして年収は軽く億超え。皆と対等なわけないじゃない。

 それがただの強がりである事は、他の誰でもなく自分が良くわかっている。

 実際は、ただ良く思われたいだけで、そして捨てられたくないだけである。

 一番色々恵まれているのも自分で、一番惨めなのも自分。

 ユキはそれが良くわかっていた。


 そんなわけで休みの日、女子会にてトゥイリーズの二人とクアンに勉強を丁寧に教え、食事代を全て出し、タクシーを呼んだ辺りで、マリーが爆発した。

 他人に何をするのが大好きなマリーが、施しを受けっぱなしで我慢出来るわけがなかった。


『ユキは何かして欲しい事はないの!?』

 人付き合いが怖いという臆病なだけのユキと違い、マリーは心底お人よしで、心の底から誰かの笑顔を愛せる人間である。

 そんなマリーにぐいぐいと顔が触れ合いそうなほど押し切れられながらユキは必死に考えた。

『ま、魔法の力とかその辺りを知りたい』

 水の操作やテレポート、怪獣化などテイルの用意した怪人は多種多様な能力を持っているが、それは全て科学依存である。

 信じられないほど高度であはるが確かに科学であり、そしてそれはユキならある程度再現可能である。

 テイルが出来てユキが出来ない事は怪人を作る事と、薬を生み出す事くらいだ。


 だが、正義、悪の世界で使われている力は六割以上がテクノロジー依存ではなく、それどころか解明不能なものである。

 例えば赤羽、強装甲ダーツ……というよりは狼男(ライカンスロープ)として知られている彼だが、体組織は人と全く同じである。

 つまり、どうして狼男なのか、狼男とは何なのかは全くわかっていないのだ。

 そんな超常現象だが、これはまだある意味では序の口である。

 トゥイリーズに至っては魔法の力で変身し魔力を使って拳で殴るのだ。

 そこまでくれば科学分野とかそんなものと関係なく、ただのファンタジーである。


 今までユキは、善悪の戦いなど微塵も興味がなかった為疑問にも思わなかったが、実際に組織に入り、少し考えてみると確かに変であり、解明してみたくなるのが人情というものだ。

 その為ユキはマリーにそう尋ねると、マリーは快く快諾した。


 この時はまだ、ユキはマリーの事を知らなかった……。

 マリーのお人よし具合と友人思いは尋常ではないという事を……。


 ただ目の前で変身して力を見せれば良い話なのに、マリーはアレもしてあげたいコレもしてあげたいと色々と余計な事を、まるでテレビショッピングのように付け足していく。

 そのような場合それを窘める役であるはずのミントだが、マリーのおせっかいをミントは一度たりとも窘めた事がない。

 言っても無駄だと思っている事もミント自身ユキに何かしてあげたいという気持ちも理由ではあるのだが、一番の理由は誰かに何かをしてあげようとするマリーの姿と笑顔が、ミントは一番好きだからだ。




 そして蛇足に蛇足を重ねた計画が生み出され、数日後――。

「ようこそ、いらっしゃいませARバレットの皆様! 本日の宝が山商店街ガイドを務めさせていただきますトゥイリーズのマリーとミントです! なんちって」

 そう言いながら微笑み、舌を出すマリー。

 服は変身した後のトゥイリーズとしての衣装で、そして二人の手には小さな片手旗が持たれていた。

 旗にはダルマが中央に描かれ、その背後に街の絵が描かれているソレこそが、この宝が山商店街のマークである。


「いや、私は魔法の力とかトゥイリーズの力とか知りたいって言っただけで、別に商店街の案内をしろと言ったわけでは……」

 今ここにいるのはテイルとクアンとユキに、ガイドとなったトゥイリーズの二人である。

 その目的は……何故か商店街観光となっていた。

 どうしてこうなったのか、ユキには全く理解出来なかった。


「トゥイリーズは宝が山商店街を守護するヒーローだからね! だからトゥイリーズの事を知りたければ宝が山商店街の事を知らないと!」

 そんな無茶苦茶な事を言うマリーにユキは何とも困ったような表情を浮かべる。

「……一応、嘘ではないんです。トゥイリーズの力の源はこの商店街を護る事と繋がっているので。その辺りも後に説明しますので」

 フォローするようにミントがそう言葉にした。

「わかったわ。美味しい食べ物とかあったら教えてよね?」

 そんなユキの言葉にマリーはユキに抱きつきながら頷いた。

 横を見るとミントが嬉しいような寂しいような興奮しているような、不思議な表情を浮かべていた。


「あーところで。俺も参加して良かったのか。希望者は誰でも来て良いとあったが。駄目なら俺は一人で移動するが」

 テイルは女子だらけの現状で不安そうにそう尋ね、マリーは満面の笑みで首を振った。

「いいえ! 商店街を知りたいって人なら誰でもウェルカムです! Dr.テイルは――」

「オフの時はテイルで良いぞ」

 マリーはテイルの言葉に頷いた。

「じゃ、テイルさんは何を知りたくて希望してくれました?」

「んー。ああ。ぶっちゃけ飲食店についてだな。店の分布割合とか、出来たら客層辺りも知りたいかな」

「ふむふむ。そう言えばARバレットは喫茶店もしていましたね」

「いや、喫茶店以外にも色々飲食店やってるぞ。ほれ」

 そう言いながらテイルはマリーに何かの紙の束を差し出した。

 その紙を受け取り、マリーは目を丸くする。


「うっわ。何これ全部クーポンじゃん。しかもやたら割引率高いですね」

「それ全部ウチの店」

「うそぉ!」

 二十から三十ほどのクーポン券が付けられたチラシが店舗分で四十店分。

 しかも少なくても三割引きで、酷い場合はディナー無料チケットすら付けられていた。


「はーなるほど。総合事業主ですから周辺地域の調査に来たのですね」

 ミントがそう言うとテイルは「え?」と小さく呟いた。

「違うぞ。理由は――いや、ちょっと待った。せっかくだからかっこよく決めよう」

 テイルは一度咳払いをした後、大きく高笑いを始めた。


「ふあははははは! トゥイリーズよ! 貴様らの力の源が宝が山商店街である事は我が調査により判明している! 故に、これより貴様達の力の源を侵略してくれようぞ!」

 そうテイルが大魔王の如く演説を行うと、マリーはきりっとした表情でテイルにファイティングポーズを取った。

「何故それを!? くっ。Dr.テイル……。なんて情報収集に長けた相手なんだ」

「ふははははは! 恐れおののくが良い。これより貴様の愛する商店街に、我が手が伸びていく様を指でも噛んでみているのだな!」

「くっ! だが、負けない! 私の愛する宝が山商店街は貴様など、悪になど屈しはしないぞ!」

 そんな一瞬触発の空気の後、テイルはすっと礼儀正しく名刺を差し出した。


「という事ですので、宝が山商店街の地域活性化に我がARバレットも貢献したい思いまして。手始めに喫茶店事業を商店街にて行いたいと考えておりますのでどうかご一考を」

 マリーはその名刺を背筋を伸ばし受けとった。

「ああご丁寧にどうも。すいません学生の身ですので名刺は持ってなくて。とりあえず商工会の方に話は通しておきます。ARバレットさんには色々とお世話になってますしほぼ間違いなくオッケーが出ると思いますのが日程調整の為少々お待ちください」

「わかりました。是非息の長い付き合いが出来る事を祈っております」

 そう言ってにこやかになる二人を見て、ユキはぽつりと呟いた。


「ねぇ。さっきの高笑いとか戦うっぽい雰囲気、する必要あるの?」

「ある」

 マリーとテイルは真顔で、真剣にそう言葉を返した。


「さて切り替えまして……それじゃまずは美味しい喫茶店のお店に行って、そこで地区分けについて説明しましょう!」

 マリーは胸を張りながらそう言って、先頭に立ち皆を誘導していった。




 商店街入り口付近にある喫茶店『トレジャーハント』を見てテイルはほぅと歓心の声が漏れた。

 外の喫茶店が三つくらいは軽く入りそうな一階と、更にそれと同等の二階。

 そしに加えてテラス席まであるという超巨大な喫茶店。

 しかし、テイルが感心したのは大きな事ではなく、それだけ大きいのに店の清掃は完璧に行き届き、店内は客の楽しそうな歓談の声に溢れている事である。

 ほどほどに賑やかだが店のBGMが聞こえる。

 迷惑ではないくらいの歓談の声になるよう調整された店内配置は見事の一言しか出なかった。


「注文は二階でも出来ますからまずは二階に行きますよー」

 そう言われ、一同はマリーの後ろを付いて二階に上がった。


 一階は広いだけで、まだ喫茶店の形を成していた。

 だが、二階はもう完全に喫茶店とは呼べない空間となっていた。

 店内に流れる音楽はやたら勇ましく、客達はやたらと騒がしい。

 周囲の飾りとして何故か南国チックな植物や空になった宝箱が置かれ、店員は男女問わず海賊っぽい衣装。

 カリブ海……というよりはパイレーツオブなんたらという感じである。


「……ここは?」

 ユキが困惑したように尋ねるとマリーは満面の笑みで、海賊帽を被った。

「がははは。良く来たなお前らー! とまあ冗談は置いておきましてー」

 マリーは従業員に帽子を返し、テーブルに案内する。


「この喫茶店は実は宝が山商店街の顔的なポジションでもあったりするんですよ。そして店主を筆頭に我ら宝が山商店街の皆はお祭り好きでもあります! なので良く商店街合同イベントが開かれるんですよー。ちなみに今は『宝物を探せ』というイベントをやっています。ま、早い話がスタンプラリーですね」

「ああ。だから店内がこのような内装なのですね」

 クアンの言葉にマリーは頷いた。

「その通り! という事ですが、せっかくですしイベント参加していきます?」


「……私はどっちでも良いけど」

 そんなユキの横では、クアンとテイルは同じような満面の笑みで既にスタンプラリーのカードを受け取っていた。

「ほれユキの分。ちなみに俺はこういったイベントが大好きで、必ずコンプするタイプだ」

 ユキはしょうがないという態度のまま頬をにやけさせ、テイルから手渡たされたラリーのカードを受け取った。

 少しだけ、ユキもスタンプラリーがしてみたかった。


「はーいイベント説明は後にしてー、今は大切な事を話していきまーす。ここでの議題は三つ。一つ目は地区について。二つ目はテイルさん要望喫茶店について。三つ目は皆さんお待ちかねイベントについてでーす」

 マリーがそう言葉にするとテイルとクアンはパチパチと拍手をした。


「これ、メニューです。皆さん欲しい飲み物を好きに頼んでくださいね」

 ミントは三人が見やすいようテーブルにメニューを置いた。




 それぞれが適当に甘い飲み物を注文した後、マリーの解説が始まった。

「えーまずは地区についてですが。宝が山商店街は大きくわけて三つの地区になります。はいこれがマップ」

 そう言って広げられたマップは、巨大な商店街がまるで遊園地案内のようにやたらカラフルに描かれていた。


「まずは目玉の中央地区! 商店街正面入り口からバスや駅のターミナルなど交通が多い場所は大体中央地区だね。特徴は他の商店街と同じ普通の場所って事くらいかな」

 そうは言うが、やたらと広いし巡回のバスがある時点でただの商店街とは違うだろう。


「んで次に学業地区。近くに小中高だけじゃなくて大学まであるから作られた場所だね。それぞれの学校から直通のバスサービスのある学生達の為の区域で、文房具や専門的な本屋など学業関係以外にも、玩具屋とかゲーセンもこの辺りが多いかな」

 小さいと言っても他の商店街と同規模くらいはある大きさが地図には書かれていた。


「最後に高級地区。質い良い服や高級なお酒など少々値段が張る物はこちらにお求め下さい。私は買った事ないけどね」

 そう言ってマリーは小さく笑った。

 テイルはその地区にキャバクラ的な店やホテルが多い事も見て、そういう事も含めてであるのだと理解した。

 だから区域分けをしてわざわざ学業地区から距離を取ったのだろう。


「続いてテイルさん希望の喫茶店の分布についてですが、まあマップを見てもらえたら大体わかると思います。あ、こっちが飲食店マップです」

 そう言ってマリーはテイルに別の地図を手渡した。

「ありがとう。……やはり学業地区の方には喫茶店はないか。高級地区は少ないが……その分コーヒーや紅茶、または音楽等雰囲気に拘りがある店が多い風に見えるな」

「高級地区のお店は入った事ないので何も言えませんが学業地区に一般的な喫茶店がない理由はよくわかります。私ですら好きですがあまり行かないですからねぇ」

 ミントの言葉にテイルは頷いた。


 学業地区にある店はハンバーガーや牛丼などのファストフード店や値段の安いレストランばかりである。

 その理由は考えるまでもなく、学生達の懐事情にあった。

 多趣味で付き合いの多い上収入の少ない学生達が、わざわざ喫茶店にお金を落とさないし、行った場合でもコーヒー一杯で勉強用に場所だけを借りるパターンがほとんどである。


 また、男子学生の場合は放課後の部活後などで空腹状態の場合は多く、そんな状態で喫茶店に向かい、腹が満ちるまで食べたらいくらかかるかもわからない。

 故に、学業地区には本来あるべき形の喫茶店は一軒もない。

 そして、テイルはそこがねらい目であると考えていた。


 高級地区には残念ながら太刀打ち出来るほどのノウハウがない。

 テイルの持っているノウハウは普通の喫茶店で、拘りのある店に勝てるようなものではなかった。

 中央地区はこの場所を含めかなりの数の喫茶店があり切磋琢磨している。

 勝てない、とは言わないが利益の食い合いになるだろう。

 それはテイルの望んだ事態ではなかった。

 それらを考慮した結果、二つの地区よりは学業地区に狙いを定めた方が利益が出る可能性が高い、とテイルは考えていた。


「まあ、真面目な話は今度考えるとして今は楽しもう。さあマリーよ! イベントの詳細を我に語るのだ!」

 テイルの言葉に「いえーい」と返しながらマリーはすっと立ち上がった。


「さあ宝に目のくらんだ者達よ。我らの用意した謎を解き明かすが良い! という事でテーマは『探検』と『運』です! あ、でもでもこれ報酬は割と記念品に近いからあんまり期待しないで欲しいかな」

「報酬ってどんなの?」

 マリーの言葉にユキがそう尋ねた。

「えっとね。記念品はサーベル風のボールペンで、後はクーポンとかお米とか。そして最高報酬は店員さんの付けてる海賊帽と壁にかけてあるなんちゃって宝の地図、後その辺りに転がっている宝物が入っていたような雰囲気のする空箱だね」

 ――驚くほどに興味が注がれない。お米が一番マシかな。

 そんな事を考え気だるそうにテイルの方を見ると……テイルは目を輝かせていた。


「……テイル。何が気に入ったの?」

「全部! 特に地図とか最高じゃないか! 俺の部屋に飾りたいね」

「あ、私箱欲しい! キラキラして綺麗だし!」

 ユキの質問にテイルだけでなく、クアンも答えた。

 二人の瞳は少年のように、そして宝石のようにキラキラしていた。


「うん。こういうイベントはちゃんとがんばって最高報酬取らないとね」

 ユキの言葉に二人は満面の笑みのまま頷いた。

 これは急にユキがその気になっただけで、決して二人の喜ぶ姿が見たいからではない。

 ……たぶん。


ありがとうございました。

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