番外編-なかよしカルテット結成編-
「お。来た来た。おーいこっちこっち!」
元気な様子で手を振りながら、天真爛漫という言葉が似あう女の子が大きな声を出していた。
その横ではお淑やかに手を振る女の子のがいて、二人は四人用のテーブルについていた。
それを見て、クアンは優しく手を振り返す。
「はーい。じゃ、行きましょうユキさん」
そう言って手を引っ張るクアンに、ユキは困惑した表情を見せていた。
何となくしてしまった約束の女子会にクアンから誘われ、断る事も出来ずについて行った結果明らかに若者向けである喫茶店に連れていかれ、ユキは居心地の悪さに小さくなっていた。
こういった店に縁のある生活ではなかった事も一つの要因だが、それ以上に問題なのが目の前にいる二人組が問題である。
彼女達が正義の味方だから? 仲が良さそうだから?
いいやそう言った理由ではない。
居心地の悪い一番の理由、それは……単純に年齢である。
学生服を身に纏う若々しい二人を見て、ユキは最高齢である事の気まずさから小さくなっていた。
「えと……本当に私参加して良いの? 私もう女子会という年齢では……」
二十歳を過ぎているユキは未成年の集いに混じっている事に困惑しながら、向かい席の二人にそう尋ねた。
「え。でもでも貴方私達よりもわかそ――」
そう言葉にするマリーの口を、ミントは押しとどめた。
「マリー。それは失礼よ。申し訳ありません」
そんなミントの謝罪にユキは苦笑いを浮かべる。
「良いのよ。事実なんだから。見た目は若いけど私貴方達より上よ。それに……そういった事関係なくたぶん話も合わないと思うわ。私つまらない人間だから。だから気を使って無理に私を参加させなくて良いからね」
そんなユキの言葉に、マリーは首を横にぶんぶん振った。
「話が合わないという事は私の知らない事を知っているという事! つまらない人間だと思っているならそれは楽しくなろうとしているって事! そして無理に参加? 逆ですよ。私が無理に参加させてるだけです! というわけで、さあ私仲良くしやがってください!」
そう一息で言った後、満面の笑みで手を伸ばすマリー。
その手をユキは……無言のままおずおずと受け取った。
――ああ。私こういった強引な相手に弱いなぁ。
嫌いになれない気配を感じたユキはそう感じた。
「……今どこかでライバルっぽい気配が」
突然ミントが意味のわからない事を言い出し、マリーは首を傾げた。
「えっと、とりあえず貴方達はトゥイリーズマリーゴールドとトゥイリーズミントで良いのよね?」
事前に調べた情報を頼りにユキはそう尋ねた。
「はい。当然本名は別にあるのですが……もう学校でもこっちの名前で呼ばれるようになってしまってます。なので私達の事は『マリー』と『ミント』と呼んでください」
そうミントが言葉にし。
「えへへー。よろしく! それで、貴方は何と呼べば良いのですか可愛い大人のお姉さん」
そうマリーが微笑みながら尋ねた。
「私は立花雪来。そうは見えないと思うけど二十歳よ。ARバレット兵器開発局長ユキとして活動してるわ。好きに呼んで頂戴」
来ている物はかなり良く、相当稼いでいるとわかりまた多少大人っぽい雰囲気にはなっているが、どうしても慎重と可愛い顔立ちが足を引っ張りユキの年齢はかなり若く見えてしまっていた。
「えっと……じゃあユキで! あ、呼び捨てじゃ嫌です? やっぱり年上として扱った方が?」
「いいえ好きに呼んでちょうだい。もちろん呼び捨てでも問題ないわよ。ただしこっちも呼び捨てにするけど良い?」
「もっちろん! よろしくユキ!」
そう言って満面の笑みを浮かべるマリーにユキは苦笑いを浮かべた。
ただ、その苦笑いはどことなく嬉しそうである。
「……やはりライバルの予感……」
「一体ミントはさっきから何を言っているの?」
マリーは何やら悩んでいる相方をジト目で見つめた。
「あのあの、一つ良いです?」
クアンは手を挙げてそう尋ね、全員がクアンに集中した。
「えと、ユキさんは二十歳である事を悩んでいました。そしてお二人は十七歳です。んで……私零歳なんですが、私の方が年齢差凄くないです? もしかして私もっと敬語とか使った方が良い感じですか?」
そんなクアンの言葉は、若干オロオロとして困惑しているようだった。
三人はクアンの方を見ながら暖かい笑みを向けた。
「……ユキ。貴方が変な事に気を使うとクアンが困るみたいよ」
そう言って微笑むミントに、ユキは溜息を吐いた。
「ええそうみたいね。年齢の事は気にしないようにするから、クアンも何時も通り振舞って良いわよ」
その言葉にクアンはほっと安堵の息を漏らした。
「ま、それはそれとして私、友達とかいた事ないから。つまらなかったらちゃんと言ってね。しょうがない事だし」
そんな風に、ユキはぶっきらぼうに言い放った。
一種の防衛反応である。
相手に嫌われる事が辛いという事を知ったユキの、嫌われる前に距離を取ろうという防衛反応。
だが、そんなものマリーの前では無意味だった。
「じゃ、私達が初めてのお友達ね!」
そう言ってマリーは嬉しそうに微笑み、ユキは目を丸くした。
「違います。初めての友達は私ですから」
そう言ってクアンは何故かドヤ顔をして、ミントに頭を撫でられていた。
そんな優しい光景、自分を拒絶しない世界をユキは感じ、しみじみと、自分の生きていた世界は狭かったのだと理解した。
「……貴方達みたいな人が私の同級生にいたら……。いえ、いてもきっと気づかなかったでしょうねぇ」
そんなユキの呟きを聞き、マリーは満面の笑みで微笑んだ。
「じゃ、ウチの高校来る?」
混じりっけなしの善意でとんでもない事を言い放つマリーにミントは苦笑し、ユキは目を丸くした。
「……流石に遠慮しておくわ。確かに見た目的には問題なくてもね」
そう言うユキに対し、マリーは若干残念そうだった。
――いや見た目は中学生に見えますけど。
とミントは思ったが、流石に失礼である事を理解している為ミントは黙って微笑んでいた。
「ちぇー残念。同級生だったらなーってあー、これ失礼かな?」
そうマリーが呟くとユキは首を傾げた。
「何? 私への質問なら気にしなくても良いわよ。……身長を尋ねてきたら少しだけ怒るけど」
「えっと……、学歴の方ってどんな感じですー? あ、言いたくなければ言わなくても良いですよ」
「……ああ。二十歳って言ったから気になったのね」
「あと、会話の流れで学校言ってないっぽかったので……」
そう言いながらマリーはもじもじと人差し指同士をくっつけ合っていた。
「安心してちょうだい。私これでも大学卒業してるから。飛び級って奴よ」
「……って事はユキすっごく頭良いの?」
「ええまあ。自慢して良いくらいは良いんじゃない?」
――その所為でつまんない毎日だったけどね。
ユキは自嘲するように微笑んだ。
「じゃ……こんな感じの問題とかわかったりします?」
そう言いながらマリーが数学の問題集を見せるとユキはそれを手に取りパラパラとめくった。
「はい返すわ。マリー貴方問題は解けてるのにうっかりミスが多いのね。少しもったいないわ」
「……え、ええ? え、今パラパラめくっただけですよね!?」
「ちゃんと全部見て全部覚えたわよ。貴方、三十ページから五十ページまでのまだ教師から回答が返っていない部分。そこでうっかりミスが五問もあったわよ」
「え、え、ええ?」
「ほら、ココとココとココとか。あ、ここは単純に使う数式違うわ」
ページを開きながら答えるユキに、マリーは驚愕の表情を浮かべた。
これに乗っている問題は一問たりとも暗算が通用する問題ではない。
それなのに、あの短期間で全ての問題の解答を確認した。
それはマリーの常識では考えられない事だった。
「これが……これが本物の天才という奴ですか」
少しだけ、マリーが純粋に尊敬してくれている事がわかって本当に少しだけ……ユキは嬉しかった。
そしてマリーの横にいるミントは、すっとテーブルの上に指を揃え、深々と頭を下げた。
「……どうか私をお助け下さい」
綺麗な黒髪でお淑やかで、礼儀正しい清楚な見た目のミント。
ただし、残念な事に学力は見た目に伴っていなかった。
「ああ……ミントはマジでやばいもんね」
「うぅ……夏休み補修は嫌なんです……」
しょんぼりした様子のミントを見て、ユキは苦笑いを浮かべた。
「教えるのは構わないわよ」
「ああ。神様が見えるよマリー」
キラキラした目をしているミントを見て、マリーは「現金だなぁ」と小さく呟いた。
「あ。でもでも、あんまり頼むのは良くないか」
マリーがそう言うと、ユキ、ミントは同時に首を傾げた。
「え? どうして? 教えるのは構わないわよ」
「いやだって。頭が良いのはわかったけど、それで相当嫌な思いしたんじゃない?」
その言葉にユキは固まった。
確かに……学校では色々な事があった。
なかったのは楽しい思い出くらいだ。
小学校の頃、どうしても困っているから教えて欲しいと言われ、教えたら図に乗られ教えるのが当然のような扱いをされた。
だが、それもまだマシだった。
中学の頃、ユキのノートは盗まれコピーを取られ売られていた事もあった。
販売者は担任だった。
高校の頃、クラス全員に『出来る者は皆に教えるのが当たり前である』とクラス委員に説教された事もあった。
大学の頃には、自分の周りには金に飢え媚びた目で見て来る者以外はいなかった。
そう……マリーの言う通りただ勉強が出来るというだけで、相当と言えるほど嫌な思いをしてきていた。
「うん。その態度を見るとやっぱそうだったんだね。うん。じゃ、私は教わるの止めとくわ。友達傷つけてまで勉強したくないもん」
「……そう言われると私も止めないとね。マリー。今度勉強教えてね」
そう話す二人を見て、ユキは驚いた。
今日あったばかりの自分が傷付く事を察し、そして得をする行為を止めるというなんて人、いままで見た事がなかったからだ。
「えとえと……私はまだ感情の機微がわからないので会話の流れくらいしか読めてないのですが、マリーもミントも友達である私が何も知らなくても、お二人の好きな話題に混じれなくても、友達として接してくれてますよ?」
あたふたとしながらクアンはユキにそう言った。
「……それくらい見てわかるわよ」
ユキは微笑みながらそう言葉にした。
「あーえー……天才である私の……その……と、友達が赤点なんていう事態は私としても嬉しくないわ。だから教えてあげるわ! ……友達に教えるのは私も嫌じゃないし」
恥ずかしそうに目を反らしながらそう言葉にするユキに、マリーは目を丸くした。
「なんだこれ。ツンデレ天使か」
ミントは横で蹲っていた。
「思ったよりも……破壊力高い……。私にはマリー私にはマリー」
不気味な呪詛を唱えるミントにマリーは首を傾げていた。
「誰がツンデレよ。ああ、ちゃんとお代は頂くわよ。もしテストの点が私のおかげで伸びたと思ったら、二人が思う美味しい食べ物奢ってね。美味しければ何でも良いから」
「えっと……それはフルコースとかそういった意味でせうか?」
マリーの言葉にユキは苦笑いを浮かべた。
「屋台とかジュース一本で良いわよ」
「なんだツンデレじゃなくてただの天使か」
「私にとっては救世主よ。私本当に進級が危いから」
マリーの言葉の後被せるようにミントがそう言葉にした。
「ちょっと。ミント。貴方の問題集見せて」
そう言ってユキはミントの数学の問題集を見て、思わず真顔になった。
「……うん。ちゃんと教えるからがんばってちょうだい。いや本当に……」
ミントは真顔でこくんと頷いた。
その後、本来予定していた計画を変更しその場で勉強会が開かれた。
ミントが苦悶の表情を浮かべ、マリーが苦しみながらも問題と格闘する横で、暇だからついでに参加したクアンがサクサクと問題を解いていく。
それを見ながらユキはこっそりと伝票を受け取り、先に払って後でトゥイリーズの二人に怒られた。
ありがとうございました。




