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悪の組織やってます ~怪人大好きな科学者による悪役ライフスタイル~  作者: あらまき
第一章:エゴイスチックな乱入者

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勘違いからの招待状


 昼下がりの小洒落た喫茶店『Gemmi Pass』に、普段とは訪れないようなとても愉快な客が訪れた。

 おそらく、百人がみたら百人は可愛らしいと言いながら口元を緩ませるだろうその珍客は、チチチと可愛らしい鳴き声を披露しながら店の外付をうろうろとし、天井傍の空いていた小窓からするっと潜り込んだ。

 どうやら相当人馴れしているらしく、その珍客こと小鳥は怯える事もなく天井付近をくるくると跳んでいた。


「あらあら……。ふふ。おいで」

 退屈そうにテーブルに座っていたクアンはその鳥を見た瞬間にニコニコと表情を切り替え、赤子を見るような優しい目をしながら鳥を手招いた。

 それを見た鳥は嬉しそうにクアンに近寄り、クアンの指先を枝代わりにし羽を休め始める。

 クアンは何やら幸せそうにその鳥をテイル達皆に見せびらかす。

「おおー。君賢いねぇ。よしよし……ってこれだけ人なれしてるって事は、どこかから脱走してきたのかな?」

 クアンがそう言いながら首を傾げると、テイルはどこか自信に溢れたような挑発的な笑みを浮かべながら、小さく意味深な言葉を呟く。


「……来たか」

 それに反応し、小鳥はクアンの指先から離れてテイルの肩に止まり、突然女性の声で笑いだした。

『ふふ。やっぱりわかっちゃうよねぇ』

 そう楽しそうに話す声には皆、聞き覚えがあった。

 以前『アリス』と名乗った少女である。


 ただし、声は一緒であるものの、その雰囲気は全くの別物だった。

 前までの演技のアリスはまさに不思議の国のアリスというような、そんな無垢で可憐な雰囲気だったが、今はもっと年齢が上の、知的な女性らしい雰囲気を持っている。

 おそらく、こっちが彼女の地の姿なのだろう。


『自己紹介が不要なのは楽で良いわねテイル。、まあ貴方となら無駄話も苦痛ではないでしょうけど……やっぱり時間がもったいないわ』

 そんなアリスの声にテイルはぴくっと反応を示す。

「ほぅ。理由は知らんがそこまで俺を買ってくれるか。それは光栄な事だ。それで、本題の要件を教えてくれないかアリス?」

『ふふ。そうねぇ……。最初は本当にお茶会を――と思ったけど、貴方の趣味嗜好に合わせてこの前みたいな()()()の方が良いかしら』

 そんなアリスの言葉に――テイルはニヤリと笑った。


「そうだな。それも一興だろう」

『そう言うと思ったわ。それじゃあ決まりね。でも、次はもう少しマシな玩具を用意しておいてね』

 そう言いながらアリスの操作する小鳥は、傍にいたファントムの方をちらっと見た。

 それを見たテイルは盛大に見下すように鳥を見つめ、淡々とした口調で呟いた。

「そうか。……彼を玩具と呼ぶ程度にしか解析出来なかったんのか……」

 テイルは同情したような表情でそう呟くと、アリスはテンションを上げ、心底嬉しそうに笑った。

『あははははは! やっぱり貴方は特別なのね! ええ! ええ! それでこそ()()よ! それじゃあ当日を楽しみにしてるわ!』

 そう言いながら小鳥はテイルの周りをくるくると愛おしそうに周り、そのまま店の外に飛び立っていった。


「……ファントム。お前の予想は大当たりだったな」

 テイルがそう話しかけると、ファントムは両手を横に広げやれやれと呟いた。




 テイルは別に、アリスが来る事を知っていたわけではない。

 ただ、ファントムが最後に見せたアリスの感情にはかなり強い執着が含まれていると感じた為、近いうちに何等かのアクションを取ってくるだろうと予想しただけである。

 そのファントムが役者生活で何人ものストーカーを量産し苦しんだという悲しい人生経験から来る予想をテイルは信じ、ファントムとクアンを傍に待機させてARバレットと繋がる喫茶店『Gemmi Pass』の中でここ数日は毎日待機していた。

 そして、その予想は今日見事に的中して見せた。


 ちなみに、アリスが小鳥の機械を使って接触するまでに三十回ほど、テイルは見当違いの人や物に向かって『来たか……』という意味深な言葉を呟いている。

 元からおかしい人で有名の為誰も何も言わず暖かい目で見ていたが、それが逆にクアンを悲しい気持ちにさせた。


「……なあ。マジな話、どうして俺に執着してるんだと思う? 事前情報がなければ俺もついにモテ期が来たかって思うくらいは好意的だったよな?」

 プランの言葉にファントムとクアンは頷いた。

 二人から見ても、明らかにアリスからテイルに向けられた感情は、友達よりもよほど強いものだった。

「ただ、アレは恋や愛というよりは……何でしょう? 全然違う感じですね。家族の絆に類似するけど別物の……僕には理解出来ない感情です」

 ファントムの言葉にテイルは腕を組んで首を傾げた。

「……天才の考える事はわからん」

 テイルがしみじみと呟くと、クアンはきょとんとした顔をした。


「あれ? ハカセも天才じゃないんですか? 前自分の事そう呼んでいたような」

「悪の科学者、偉大なる大天才! とかカッコいいだろ?」

「いえ別に」

 クアンのばっさりとした返しにテイルは苦笑いを浮かべた。

「ま、ただの恰好付けだ。俺は……まあ良くて秀才だな。物覚え自体は悪くないけど特定科目しかその能力が発揮できないタイプだ」

「はー。そうですか。ですが怪人って作るの難しいんじゃないです? それこそ天才と呼ぶ人間しか作れないようなイメージがあるような」

「そう言われると難しいな。ただ、俺が高性能な怪人(お前たち)を量産出来ているのは偶然によるブレイクスルー発生という奇跡にも似た状況である部分も大きい。残念ながら俺は凡人……ではないが天才ではない」

「良くわかりませんがわかりました。それで……あのアリスさんは文句なしの天才なんですね?」

「ああ。機械工学から法律、金銭関連から身体能力。あらゆる意味で万能のドラ〇エの勇者みたいな存在だな」

 テイルは首を大きく動かし頷いて見せた。




 乱入してきたアリスの様子を見て、明らかにテイルがロックオンされていると感じたファントムはその事をテイルに伝え、テイルはアリスの事を知る為に情報を集めた。

 彼女の所属している悪の組織名は『A Mad Tea-Party』で、所属員はアリスのみ。

 そして設立して一週間という階級わけすらされていない状態である。

 アリスはただの悪の組織新入生というわけではなく、これにはちょっとした理由がある。


 『アリスのお茶会』『アリスインワンダーランド』『不思議のアリス』『不思議の国』等々……。

 合計したら三十を超える組織名は全て、アリスが設立した組織であり同時に解散した組織である。

 要するに、毎回組織を作っては解散してを繰り返しているという事だ。


 そして、アリスはマトモなマッチングを一度たりともした事がない。

 アリスの行動は善悪の戦いに第三者として横やりのみだった。

 ようは、乱入限定の組織である。


 ちなみに現在の組織『A Mad Tea-Party』としての戦績は、乱入数五回で、四回ほど両陣営全員をボコボコにしての完勝を達成していた。


 これらを踏まえると彼女の目的は見えて来る。

 彼女の目的……それはおそらく乱入して善悪の戦いをめちゃくちゃにする事だろう。

 新入りである事を盾に乱入してめちゃくちゃにし、そして注目度が増えたら解散して新しく組織を作る。

 どう取り繕っても、性質の悪い存在としか言いようがない。


 どうしてこんな明らかにブラックよりのグレーゾーン行為が許されているかと言えば、理由は二つある。


 一つは、確かにグレーゾーンだが、厳密に違反行為をしているわけではないという事。

 当然全て放送出来る範囲内の活動であり、更にその巨大な機械を人ごと潰そうとするクラッシャー具合は一部ではあるが熱心なファンが生まれるほどだ。


 そしてもう一つは……組織の設立は当然、理由なしの解散も決して安くない額の費用を請求される。

 繰り返すという事はそれだけ払ったという事になり、その多額の費用は全て、KOHOの運営費となる。

 つまりアリスは性質の悪い存在であると同時に、KOHOにとって立派な金の卵(金づる)でもあった。

 そんな事を続ける事が決して許されたわけではないが、アリスの謀略により見逃さざるを得ない状況になっていた。


 体格差の分類分け等表に出ていないKOHOの内部情報を推測だけで一定以上推測し、その細かい条件を全て満たしつつ一定以上の性能を誇る巨大ロボを製造。

 それに加えて法律の知識と階級A相当かそれ以上の運動神経。

 そして億を超える資産を持っている天才、それこそがアリスという存在だった。




「んで……どうして俺が気に入られたはわからんが、俺のする事はもう決まったな」

 テイルははっきりと言い切ってファントムの方を見た。

 アリスが何を言っていたのか半分以上わからなかった。

 だけど、一つだけ分かった事がある。

 ファントムを……テイルの愛する家族を『おもちゃ』と表現した事は、ファントムがいかに恐ろしい怪人であるか教え込む必要があるという事だ。


「期待には身命を賭して応える覚悟はあるのですが……あんまり自信はないですね」

 ファントムは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。

 アリスは間違いなく格上の強敵である。

 それは一度戦った、いや弄ばれたファントムが一番良く理解していた。

 むしろ、そこそこに地頭が良く効率的な動きが身に染みている自分では勝ち目などないのじゃないかとファントムは考えていた。


 だが、テイルはそんなファントムの肩をぽんと叩き小さく微笑む。

「大丈夫だ。俺に策がある」

 建前では恰好付けだが、内心はそうでもないテイルだが、今回は珍しく心から自信に溢れた様子である。

 そんなテイルに、ファントムは頼もしさと愛を感じ嬉しそうに微笑んだ。


 その横で、クアンは小さく首を傾げた。

 ファントムとテイルが微妙に怪しい関係に見える――事ではなく、アリスの事を考えていた。

 才女で性格が悪く、良い意味でも悪い意味でも普通の上を行くアリス。

 そんなアリスと通信越しとはいえ実際に話をしてみたところ、クアンはテイルやファントムが言うほどアリスが悪い存在であるようには思えなかった。

 むしろクアンには、アリスからまるで幼児のような幼さを内包した、とてもチグハグな存在に思えて仕方がなかった。


ありがとうございました。

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