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怪人第三号との接触2


「雅人お兄さんはあっちに行かなくて言いんですか?」

 クアンの言葉を聞き、雅人は溜息を吐いた。

「正直混ざりにくい。後で子供達から感想を聞けば十分だろう」

 そう呟きながら雅人が見た先には、妙に近代的な独楽回しに励む小さな男の子が二人、女の子が一人、そしてテイル。

 大人であるという事を忘れそうなほど見事に溶け込んだテイルは大きな子供と呼ぶにふさわしい有様となっていた。


「それで、あの玩具はリハビリに効果ありそうです?」

「……どうかな。まだ初日だからわからないが……既に無意味ではなかったと言えるな」

「そうなんですか?」

 雅人は頷き、子供達の方を見た。


「ああ。あの子達は親元から離され入院している。その為かほとんど笑わないくらい気が滅入ってたんだ。今は……御覧の様子だ」

 子供達は大いにはしゃぎ、笑い、大人げないテイルに負けて悔しがり、何とかボコボコにしようと三人で協力しあっていた。


「なるほど。流石ハカセ。そこまで考えて子供達に接待して見せてるんですね」

「いや、あれは自分の趣味である玩具の布教活動してるだけで、しかも百パーセント素の状態だ。……だから子供も懐くんだろう」

 雅人の言葉からはテイルに対する呆れだけでなく信頼が感じられ、クアンは小さく微笑んだ。


「それと、直接的な効果は今のとこ見られないが、たぶんリハビリとしても悪くない結果になるだろう」

「あ、そうなんです? 玩具で遊んでるだけですが」

「ああ。三人共肉体的には問題なく精神的な問題の可能性が高い。更にまずいのは、ぎこちない動きを人に見られるのが恥ずかしい事と考えている事だ、症状を隠して極力動かさないようにしている事が症状の悪化に繋がっていた」

「なるほど……。でも、今はそんな事ないですよね?」

 クアンの言葉に雅人は頷いた。


 三人共片腕がぎこちなく、上手く動かせない。

 だから子供達は最初格好つけようとしてうまく遊べなかった。

 子供達が変わったのはテイルが混じってからだった。

 大人げない全力ムーブで三人を一方的になぎ倒してから子供達も怒りと悔しさから目覚めた。


 腕が動かない事を隠そうともせずどうやってうまく回すか、どうやってあのテイルという名の悪者を倒すか。

 三人は手を取りあい、協力しあって傍若無人な魔王を打ちのめす事に集中していた。

 ただし、表情は笑顔に溢れていた。

 そこにリハビリの為入院しているような可哀そうな子供達の姿はなく、のびのびと全力で遊びに没頭している四人の子供の姿があった。




 雅人は時計を見てまだ時間がある事を確認し、クアンに話しかけた。

「さて……せっかく二人になったからちょっと今後の事を話そう」

「今後ですか?」

 雅人の言葉にクアンは首を傾げた。

「ああ。俺がハカセに呼ばれた理由なんだが……クアン。俺はお前の指導役に呼ばれたんだ」

「し、指導ですか?」

 少し驚いた様子でクアンは尋ね返した。

「ああ。まあ指導というような大したものじゃあないん。ただ……まあ俺が一番適任という事でな」

 少しだけ考え込むような仕草をした後、クアンは雅人に尋ねた。

「……もしかして、私に何か問題がありました」

 その言葉を聞きバツが悪そうにする雅人の様子が、言葉以上に応えを物語っていた。


「クアン。君は自分の性格をどう分析する?」

 雅人の言葉にクアンはためらいなく答える。

「普通」

「いやそれはないぞ今年度ベストポカリスト」

「ああああああああああ!」

 クアンは忘れたい過去を穿り出され頭を抱えて悶えた。


「じゃ、じゃあ雅人お兄さんは私の性格をどう分析しますか? って会ったばかりじゃわかりませんか?」

「いや。わかるぞ。真面目で常識的、後は優しいかな」

 その言葉にクアンは頬を染め、再度頭を抱えだした。


「……なんだがすっごいこそばゆい感じです」

「まあ事前にハカセから聞いてる事を言っただけだがな。ただ、話した限り合ってるとは思う」

「そ、そですか。それで問題って何でしょう? 悪の組織的に良い子ちゃんはダメーとかそんな感じです?」

「いや。ここまでは全く問題ない。問題なのは、自我の成長により得られた新しい個性だ」

「あー。ちょっといたずらとかに興味を覚えましたけど……それです?」

「いや、そっちではない。むしろらしくて良いんじゃないか」

 雅人の言葉にクアンは首を傾げる。

 他に何も思い当たらないのだ。


「――思い通りにならない事が許せない。考えるよりも先に動かないと」

 雅人の言葉は、まるでダムの時を見てきたような言いぶりだった。


「当たってるだろ?」

 クアンは頷いて答えた。

「はい。やっぱりわがまますぎますかね?」

 雅人は首を横に動かした。


「いや、俺はわがままだとは思わない。というよりも、気持ちが問題ではなく……問題点はたった漢字四文字で表せる」

「漢字四文字……それは?」

 クアンは生唾を飲み、緊張した様子で雅人を見つめた。


「急激に自我が目覚めた事で生まれた新しいお前の個性、それは『猪突猛進』だ」

「……ふぇ?」

「前のめりに進む事が悪いというわけではないのだが……本来はもう少し思慮深い性格だったそうじゃないか」

 確かに言われたら思い当たる事は幾つかあった。


「欲が生まれる事も、趣味嗜好が変わる事も悪い事ではない。ただ、今のままだと大切な時に後先考えずに動いて、絶対に大ポカをやらかす。そうハカセは判断したんだ」

「……う、ううーん。否定出来ません」

 クアンは困った顔のままそう呟いた。


「というわけで、怪人の中で最も落ち着いている……まあ理屈屋なだけだが。そんな俺が突撃癖を直しつつ色々お約束を教えるようハカセに言われた」

「なるほど。何だかすいません迷惑をかけてしまって。雅人お兄さんは嫌じゃないですか?」

 その言葉に雅人は小さく噴き出し笑った。

「嫌なもんか。妹の面倒を見るくらい兄なら普通だろ?」

 その言葉にクアンはにぱーっと笑顔を溢れさせた。

「そかー。えへへ。そっかー。では雅人お兄さん。指導お願いします!」

「ああ。俺がOKサイン出さないとアーブの活動も出来ないから、気合入れて覚えろ?」

「はーい」

 クアンは嬉しそうに元気よく返事をした。


 その奥では、子供達全員に負け地団駄を踏むテイルの姿があった。




 翌日、雅人にクアンを預けたテイルは、自分の部屋でカレンダーを見ながら電話をしていた。

『というわけで、一週間後位でどうでしょうか?』

 そんな事を打診する声に、テイルはどう答えようか迷っていた。


 電話相手は活動KOHO部隊で、今回の頼み事は、悪の組織として活動をして欲しいという申し込みだった。

 色々と問題があるクアンはしばらく表に出せない為、正直に言えば断りたかったのだが……その選択肢はテイルの中にはなかった。

 理由は二つある。


 一つは、アーブにはKOHOに大きな借りがあった。

 災害時のみ善悪を超越して動けるというのは相当優遇された組織しか該当しない。

 そんな特例を受けた組織は善悪合わせても十もなく、アーブ以外は全てoBクラス以上となっている。

 そんななかに弱小のBクラスであるアーブが混じれているのは、怪人の能力が高い事もあるが一番の理由はKOHOがコネを使って働きかけ政府の認可をもぎ取ってくれたからだった。


 元々、第三者委員的なポジションで善悪の構図を生み出した存在のKOHOの立場は高く善悪共に頭が上がらないのだが、アーブはそれに恩まで追加されている。

 心情的にも立場的にも逆らう事が出来なかった。


 もう一つはもっと現実的な問題である。

 長い事悪の組織として活動を怠ると……観客から忘れられるのだ。

 正義のヒーローであろうと、悪の大幹部であろうと、忘却には決して勝てない。

 だからこそ、忘れられないようこまめな活動を心掛ける必要があった。


「あー。その……今クアンが調整中ですので出せないのですが……良いでしょうか?」

『ああはい、問題ないです。では誰を出すか決まればまたご連絡下さい。それに合わせてマッチングしますので』

「わかりました。誰を出して欲しいとか希望はありますか?」

『……そうですね。男性だとありがたいですかねぇ』

「了解です。ではそういう感じで」

『そういう感じで。では失礼します』

 その数秒後に、電話の切れる音が流れテイルも電話を切りスマホをポケットにしまった。




 テイルはPCを起動し、怪人達から送られた予定表のファイルを開いた。

 クアンの場合は早めの処置が必要だった為雅人に無理を言って来てもらったが、本来は相手の予定を優先させるのが通りである。

 息子同然の怪人とは言え、独り立ちした相手なのだからその位の配慮は最低限のマナーだ。


 テイルは予定表を見ながら現在呼びつけても困らないほど暇がありそうな怪人を探した。

「……おや……。スケジュールがごっそり開いているな」

 本来は売れっ子の為忙しい人物のスケジュールが半年先まで開いているのを確認したテイルは少し考え、数か月ほど顔すら合わせていないのでちょうど良いと考え彼に連絡を取る事にした。

 テイルは再度スマホを取り出し、六番目の自分の息子に電話を繋げた。



ありがとうございました。

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