怪人第三号との接触1
洪水の日から一月ほど経過したが、クアンは未だ『悪い事』が出来ずにいた。
急激な成長に加え、過度による能力使用、自我の変化。
それらによるメンタルチェックは思ったよりも時間がかかり、その間は悪の組織の仕事と過度な運動は禁止であった。
その間にクアンがした事と言えば、ナナなど従業員の友人と一緒にショッピングに行ったりお茶を飲んでお話したりである。
クアンはそんな、まるで女子高生の日常のような生活をしていた。
一つだけ変わった事と言えば、クアンは宝が山商店街の守護者、正義のヒーロートゥイリーズの二人と友人になっていた。
商店街に行った時ばったりと出会い、そのまま意気投合した。
クアンがゲームセンター未経験という事を聞き、トゥイリーズの二人はクアンとゲームセンターに行く約束を取り付けた。
クアンはそれが少しだけ、待ち遠しかった。
そんな自堕落とも言える生活を続けていたクアンを、テイルは呼びつけた。
おそらくメンタルチェックが終わったのだろう。
クアンはこれまでの長期休暇でへにゃへにゃになった心を引き締め、自分の頬をぴしゃりと叩き呼ばれた部屋に移動した。
「ハカセ。失礼します」
そう言いながら入室したクアンが見た者は――見知らぬ男に胸倉をつかまれ揺さぶられるテイルの姿だった。
緊急事態のはずなのに、何故かクアンはその状態を放置した。
テイルが怯えていないとか男の雰囲気が本気でないとか色々と理由はある。
だが一番の理由は……テイル以上に目の前の見知らぬ男にクアンは何やら親近感を覚えていたからだった。
「おい。俺は止めろって言ったよな?」
男のドスが効いた声にテイルは首をふるふると動かし否定した。
「ほーう。そうかそうか。だったら、おい、ジャンプしてみろよ?」
そう言いながら男はテイルから手を離し、テイルはぴょんぴょんと膝だけで軽くジャンプをしてみせた。
がちゃっがちゃっ。
テイルが飛ぶたびに何かがぶつかる音が聞こえた。
そして、何度目かのジャンプの際に、テイルの腹部辺りからカチャンと音を立て小さなものが転がり落ちた。
「んで、これは何だ?」
男の脅すような質問に、テイルは小声で答える。
「べ、ベ〇ブレード……」
その言葉と同時に、男はテイルの頭にスパーンとハリセンを叩きこんだ。
「だからそういう玩具を持ち込むなって言っただろ! そう言う場所とは違うんだよ!」
「いや……だって助けになるかなと……。あと可哀想だから玩具くらい満足に……」
「だから同情する気持ちが一番の敵なんだよ! 俺の仕事を邪魔するな!」
そう言いながら、男は転がり落ちたそのコマの玩具を拾い上げた。
「……ふむ。これは回すのが難しくないのか?」
男の質問にテイルはぱーっと目を輝かし、身振り手振りで遊び方を説明しだした。
「こうしてシューターにあてて、こう引っ張るだけ。だから難しくない上に治療の役に立てるかと……」
テイルの説明に男は深く考え込む仕草をした後、そっと自分の財布から万札を取り出した。
「よし。状況もかみ合うし失敗しても楽しめるなら無駄にならんな。ハカセ。これで子供三人遊べるように買ってきてくれ」
「いや、別に俺の使えば良いし買うにしても俺が金くらい――」
「俺の責任問題になるんだよ! 金の管理は正しくって何度も言ってるだろうが! 良いから俺のいう事を聞け!」
「サーイエッサー!」
テイルは敬礼をしたまま、万札を握らされた。
「はいダッシュ! 三人が平等に遊べるように! 私物はなし! 良いな!」
「イエッサー!」
そう言ってテイルは走り去っていった。
「……えーこほん。すまんな。見苦しい物を見せた。それで、君がクアンで良いかな?」
男はさきほどの映像では考えられないくらい優しい笑顔を向けクアンに話しかけてきた。
「はい。そうです。えっと……もしかして貴方は……」
その言葉に、男は頷いた。
「ああ。第三怪人ザースト。現在名『高橋雅人』だ。よろしく」
そう言いながら伸ばしてきた手をクアンは受け取り、握手をした。
「えっと、高橋さんと呼べば?」
その言葉に雅人は怪訝な顔をして首を横に振った。
「いや、ザーストの方は使ってないし高橋だと沢山いる。雅人と呼んでくれ」
「はい。雅人お兄さん」
そう言って微笑むクアンに、雅人は優しく微笑んだ。
「それで雅人お兄さん。さっきのは一体何があったんですか?」
「ん? ああ。作業療法士――いや、リハビリの仕事をしているんだ」
「おおー。お医者さん?」
「んー。ちょっと違うな。掛け持ちな上に臨時に近い。んで、今俺が担当しているのが三人の子供でな」
雅人はその子達について説明を始めた。
今雅人が受け持っているのは悪い意味で特別な子達だった。
怪我は治っているのに手のリハビリが一向に進まないのだ。
過去に大怪我をしたのだが、それはもう治り終わっている。
つまり、原因が特定できない状況、または精神的な方に問題があるという事になる。
あまりに治療が進まず、このままだと学業にも遅れが出てしまう。
だから今色々試している途中だそうだ。
その一環として、お互いの苦しみを分かち合えるよう遠方の三人を集め同じ病室に入院させた。
「……おそらく精神的なものだ。全く動かないわけではないからな。ただ、一定以上の動作が出来ない。恐らく怪我がトラウマになっているんだろう」
「なるほど……それで玩具を」
「ああ。コマ回しという意味なら手も使うし、動作も難しくないらしいからな。それにうまくいかなくても、寂しがっている子供達に遊ばせてやりたかったんだ。俺もハカセも」
そう呟く雅人を見て、クアンはくすっと小さく笑った。
「あれだけ怒っていたのに結局考えている事は同じなんですね」
「――っ。そうしないとアイツ際限なく甘やかすからな! 子供も、俺達も」
「確かに」
そう答えるクアンを見て雅人は苦笑いを浮かべ、それを見てテイルはまた微笑んだ。
「はいお待たせ! 買って来たぞさあ行こう!」
「はっや! いや。地上だろ玩具屋」
時間はまだ十分かそこらしか経っていなかった。
「うむ! 走ったからな!」
そう言いながらテイルはビニール袋を三つ、雅人に見せた。
「……多いな。おい。俺はちゃんと一万以内って言っただろ?」
その言葉にテイルはドヤ顔で答えた。
「ああ。ちゃんと一万以内だぞ! 玩具屋五件くらい回って安く買い揃えたわ!」
その言葉に雅人は溜息を吐いた。
「……十分で玩具屋五件回って買うって……。いやもう何も言うまい」
「これがスタジアム。んでこれがシューターと持ち手。んでこれがコマ本体で十個ほど。やっぱり選べた方が楽しいと思って。それで――」
「わかったわかった。良し行くぞ。どうせハカセも付いて来るんだろ?」
その言葉にテイルはただ――ドヤ顔をして返した。
「あの……私も行って良いですか?」
控えめなクアンの言葉に、雅人は優しく微笑んだ。
「ああ。おいで」
その言葉にクアンはぱーっと微笑み、とてとてと雅人の後ろをついて歩いた。
「……なあ。なんか俺と扱い違いすぎないか?」
そんなテイルの言葉を聞き、雅人はにやりと笑った。
「方や阿呆な事を繰り返す馬鹿親。方や可愛い妹。同じ扱いをするわけがないだろう」
その言葉を聞き、クアンは少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。
ありがとうございました。
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