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見つけた答えとその代償

 

「私のお兄さん達って本当に凄かったんですね」

 クアンは朝食の目玉焼きをフォークでつつきながら、そう呟いた。

「ん? どうした急に」

 その横でパンにマーガリンを塗りながらテイルは尋ねた。

「いえ、災害時に正義、悪の垣根なく働けるって凄くないです? それってハカセや私のお兄さん達が色々と頑張ったからそうなったんですよね?」

「ああ。そうだな。一応他にも理由はあるが……一番は他の怪人、お前にとっての兄達が評価されてという事は間違いないな」

「……だから、ああなったんですね?」

 クアンは山ほどのパンフレットを見ながら、しみじみと呟いた。

「ああ。俺の作る怪人というだけで仕事は選び放題だ。それだけの能力を持たせて、俺はお前たちを作っているからな。……と言っても、紙袋いっぱいのパンフレットってのはお前が初めてだが……」

 テイルは自慢げにそう呟いた。

 それを見て、クアンは小さく微笑んだ。

 テイルが自慢する事はあまりない。

 子供の玩具で勝った時など幼稚な事を除けば、それこそ一つくらいだ

 だからこそ、そのテイルの堂々とした偉そうな態度にクアンは愛情を感じた。


「えと……もう一つ聞きたい事があるんですけど、良いです?」

「なんだそんな遠慮がちに。好きに聞け」

 テイルの言葉に頷き、クアンは()()()思った事を尋ねてみた。

「ハカセは私にどう育って、何をして欲しいです? やはり水害救助関係でしょうか?」


 クアンは少しだけ悩んでいた。

 きっとテイルは自分を水害用に作ったのだ。

 最初はそう考えていた。

 別にそれでも何の問題もない。

 だけど……自分は何か勘違いをしているような気がする。

 テイルの愛の示し方としては、少し違うのではないだろうか。

 クアンはそうとも思うようになっていた。


 そんな悩んだクアンの質問に、テイルは首を傾げた。

「あー。そう言われてもな。希望なんてないぞ。……好きに生きろ。強いて言えば、幸せに生きて欲しい。ただそれだけだ」

 そうテイルははっきりと答えた。

「好きにですか?」

「ああ。能力は所詮能力。それと好きな事は関係ない。能力があろうとなかろうと、好きな事を見つけ、それを生きがいにしろ。そしてソレを俺達家族にバックアップさせて欲しい。そんな感じだな」

「――能力使わなくても良いんです?」

 その言葉に、テイルは小さく微笑みクアンの頭をぽんぽんと叩いた。

「お前の兄達は皆やりがいのある仕事に就いている。あいつらは能力で選んだわけじゃなく、やりたいから選んだ仕事だ。能力なんてどうでも良い。所謂、きっかけの一つに過ぎん」

 そんなテイルの言葉に、その手に、クアンは嬉しそうにニコニコと微笑んだ。

 

 朝食を終え、食器洗いを二人でしている途中にクアンは小さく呟いた。

「ハカセ。私、やりたい事を見つけました」

 その言葉に、テイルは感嘆の声と同時に嬉しそうに笑った。

「ほぉ。少し寂しくなるがそれは良い事だ。他の怪人達よりも圧倒的に早いが……それも個性か。それで、それは何かな?」

「私、人助けがしたいです」

 クアンは、はっきりとそう言い切った。


「そうか。良いじゃないか。せっかくのスカウトもあるし正義のヒーローになってみるか?」

 その言葉に対し、テイルは首を横に振って拒否した。


「ううん。ここで。このARバレット(アーブ)で人助けがしたい」

「ふむ……つまりどういう事だ?」

「博士。私達アーブって災害時は私好きに動けるんだよね?」

「Aプラス以内の権限という意味なら正義、悪関係なく動ける。oB以上の権限は流石にないがな」

「うん。十分。だからね、災害時にヒーローよりも活躍して、驚かして、鼻を明かして悔しがらせてやりたい……そんな悪い事をしたいなんて言い出したら――叱ったりします?」

 不安げなクアンに対し、テイルはニヤリと笑った。

「いいやまさか。――最高に俺好みの答えだ」

 テイルの嬉しそうな顔に、クアンはにっこりと満面の笑みを見せた。

「じゃ、私はそういう感じで」

「ああ。そう言う感じで」

 そう言いながら、二人はニヤニヤとしながら皿洗いの続きを始めた。









 それから数日――。

 己のやりたい事が何となく形になってきたクアンだが、特に実行に移したりすることはなくゆっくりと日常を送っていた。

 肉体的にも多大なダメージを受け、精神も傷ついた上に急成長による負荷が心配され、テイルにより体調検査も兼ねてのドクターストップを受けたからだ。

 幸か不幸かクアンは金銭にだけは困っておらず、ナナなど従業員の女性と遊びに出かけたり家でゆっくりテレビや本を読んだりと多少の退屈はあれど十二分に幸せな日々を過ごせていた。

 そんなある日の夕食時、クアンはその場で唐突に、何か違和感のような物を覚えた。


 メニューは数種類の焼き鳥を中心にサラダ、鳥飯のおにぎりとどことなくおっさんらしさが全力で溢れていた。

 それ以外にもソーセージや卵焼きからフライドポテトなども用意されていた。

 パーティっぽい感じでないことはないのだが……どっちかと言うとそんな大層なものではなく酒飲み飯みたいな感じである。


「ハカセー。今日何かありましたー?」

 夕食作成の手伝いを断られたクアンは椅子に座りながら厨房にいるテイルに尋ねた。

「んあー。何がだ?」

「いや、食事メニューいつもと違いますし……。いや時々変な食事も出るのでいつも通りっちゃそうなのですが」

 そんなクアンにテイルは小さく微笑みながら答えた。

「ああ。ちょっと行儀悪いがテレビが気になってな。見ながら食べられるように考えてたらこうなってしまった。許せ」

 その言葉の後、並べられたメニューを見てクアンは納得した。

 用意されているものはサラダ以外全て、ワンハンドで食べられるものだったからだ。

 映画鑑賞しながらタコスを食べる外国の人みたいなものなのだろう。


「食べながらテレビを見るってハカセも悪い子ですね」

 そう言ってクアンはくすくすと笑った。

「そりゃ、悪の科学者だからな。クアンはそんな悪い事したくないか?」

「ふふ。私、悪の怪人ですから大丈夫ですよ。ちょっと楽しそうですし」

 そんな切り返しにテイルは満足そうに微笑み、大皿の唐揚げをテーブルに置いた。

「……そいや、この量二人で食べるんです? そうだとしたら私はハカセを女性の敵に認定しますが」

「いや、そんなわけないだろう」

 ジト目のクアンにテイルは慌てて手と首を横に振り、こほんと咳払いをした後クアンに向かって謎の決めポーズを取った。

「怪人クアンよ! これより指令を伝える。暇そうな奴誰でも、全員かたっぱしから連れて来い!」

「らじゃー」

 クアンは笑いながら敬礼をし、二人は別々に基地内を移動して従業員、戦闘員達の招集に入った。

 招待に応じたのはナナを含め三十人ほどだった。




「それでハカセー。何見るんです? やっぱり正義とか悪とか系の番組? あ、もしかして知り合いとか出るんです?」

 クアンがおにぎり片手にそう尋ね、テイルは思い悩むような表情を浮かべた。

「うーん。何と言えば良いだろうか。一年に一度、正義、悪両方の新人を評価する番組なんだが――」

「ほほー。アカデ〇ー賞的な? 主演男優賞とかみたいな感じです?」

「んんー。いやそんながっつり本格的な感じじゃない。もっと気軽に……ああ。珍〇レー好〇レーって言ったらわかりやすいか?」

 クアンは首を傾げた。

「……ニュアンスからバラエティ寄りだという事は理解しました」

「うむ。間違ってない」

 テイルはそう言いながら、リモコンのスイッチを押した。


「あ、あの人この前私と戦った人ですね」

 テレビに映っていたのはこの前雨の時に戦った黒ずくめ黒頭巾の男、ライゾーだった。

 映されている映像はライゾーと西洋甲冑を着た剣士の一騎打ちで、一目でライゾーが不利であるとわかるほど圧倒的な状況だった。

 ライゾーが何度攻撃しても決定打にならない。

 鎧には弾かれ、隙間を縫った攻撃は再生され、その間に剣士は嬲るようにライゾーを攻撃する。

 そんな状況でもライゾーは持ち前の機動力を生かし、決してあきらめず攻撃を重ねていく。

 ライゾーの攻撃はテレビ上に表示されてカウントされ、それが十万を超えた辺りで、剣士の動きが鈍くなり……そして遂に剣士は地に伏した。

 階級oBを倒すという本来あり得ないジャイアントキリングの映像にテレビ側にいる複数の司会者達が感動したかのように手を何度も叩き、いかに凄い事なのかを皆で力説していた。


「凄いな。……新人のAがoBに勝つなんて本来なら絶対にありえない事だ。例え相当相性が良くてもな。その位の力量差が……いや、だからこれだけ評価されたのか」

 テイルは感心したようにそう呟いた。

「凄いですね……さすが期待のルーキー。……その目元の濃さはルーキーというよりはベテランですけど」

 そう言いながらクアンも小さく拍手をしてライゾーの事を応援していた。

 戦った相手だからか、クアン自身が力に執着がないからか、ライゾーの事をクアンは応援したいと思うほどには好意的に捉えていた。


「――何を他人事のような顔をしているんだいクアン君」

「はぇ?」

 テイルのニヤニヤ顔の意図に気づかず、クアンは唐揚げを咥えたまま間抜けな返事をしていた。

 その瞬間に番組は次の受賞者の選定に入る。

 そこに映されたのは、まぎれもなくクアン自身の姿だった。



 ヒーロー達を激励しながら行動に移り、目から、腕から血を流しダムに近づくその姿。

 目の前でダムが崩壊しても諦めず、強引にダムを止めて街を護った血まみれの背中。

 至るところボロボロでも、絶対にくじけず立ち続けその折れない姿を見せつけるその意思は……それは他の何でもない、英雄ヒーローの姿だった。


『今回の話を知っている方から詳しい話を聞けました。事件前ですが、再現VTRをどうぞ』

 司会の人がそう言って映し出されたのは、タクシーに乗るところだった。


「すいません。私はこの世界を救いたいんです。手を貸して」

 そうきりっとした顔で呟く――クアン似の女優さん。

 三割ほど美化されているが、一応クアンだとわからなくはないくらいの見た目になっていた。


「安心しろ……ここは俺の庭だ。――早く乗んな」

 そう言いながら、美化されすぎて掘りの深い外国人になっている運転手がきりっとした表情をしていた。

 この段階で、誰がどんな詳しい話を持ち込んだのかクアンは良く理解した。


『ええ。始まる前から疲れた様子で、しかもお金もないのにあの場所に行こうとして。新人だからですかねぇ。明らかに余裕ない様子でしたね。それなのに――俺の心配して出来るとこまで、危なくない部分までって言ってな。それで途中で下ろす選択肢あると思います? ここで乗せなきゃ男が廃るって思いましたね』

 顔にモザイクをかけた覇気のない中年がそうインタビューに答えていた。




「というわけで、軽見優ダム職員ならびに周辺地区在住ヒーローに推薦されたクアン様を、ダムの崩壊を未然に防ぎ、街の為に命をかけたこの映像を持って今回のベストニュービー賞の受賞に決定いたしました!」

 司会の言葉に合わせて、盛大な拍手が吹き荒れた。

 拍手はテレビの先だけではなく、クアンと共にいるテイル、従業員達一同も拍手をしていた。


 クアンはゆでだこのように真っ赤になり、頭に蒸気があがっていた。

「あわ、あわわわわわわ」

 何も言えず、ただ慌てるだけのクアンにテイルは優しく微笑む。

「よくやったな。俺だけじゃなく、みんながお前を認めたんだ。胸を張れ」

 その言葉にクアンは恥ずかしいだけじゃない感情を抱きつつ下を俯き、小さく首を縦に動かした。


「そしてクアンよ。残念ながら……番組はまだ終わっていないぞ――いや、こう言っておこう。これからが本番だ」

「ふぇ?」

「俺は珍〇レー好〇レーのような番組と言っただろう」

 そんなテイルの言葉にあわせるように、テレビ画面ではエンディングが駆け足で流れ、裏で舞台をスタッフが片していく。

 わずか一分たらずで受賞場のような雰囲気の会場が一気に崩れ、外国のニュース風コメディ番組のような雰囲気に変わった。

 中央右辺りに横広いデスクが置かれ司会らしき男性とその補助らしき女性が二人で座りこちら側を向いている。

 そしてそのデスクの上には金のトロフィーが大、中、小と三つ用意され、そのデスクの背後に人の背よりも大きな巨大トロフィーが置かれていた。


「さて、続いてやらかした、失敗したニュービーを紹介するポカリスト万歳の番組なのですが……申し訳ない! 今回……番組の諸事情により今年ナンバーワンであるベストポカリスト賞を最初に発表したいと思います」

「オゥジーザス! 今までのオオトリを最初にやるなんてなんて! それで、どんな理由?」

 アナウンサー風の金髪女性がそんな事を言うと、横の白髪で小太りの司会がにっこりと満面の笑みを見せた。

「そりゃあアレさ。この番組が何かをする時はいつだって理由は一つだ。盛り上げるためさ。それじゃあ、実際の映像をどうぞ」

 司会がウィンクをしながら指をパチッと鳴らすと、テレビ画面が変わり何かの映像が放送され始めた。


 それは――ダム事件の最後、クアンがヒーロー達に名を名乗ったシーンだった。


『はっ。くだらない。私みたいな新入りがでしゃばらなかったら救えないななんて……ヒーローって奴はなんと無様なんだろうか』

 そうきりっとした表情でドヤ顔をしているクアンの下にテロップが表示されていた。

【※ARバレットの怪人は災害時A+ヒーローと認定されていますので、彼女は現在ヒーローです】


「あー。コレは勘違いですねー。ニュービー特有の情報不足が原因でしょう」

「オオゥ……。でもそのガッツは買いたいわ」

 VTRを止め、二人はそう感想を言いあった後VTRの続きが流される。


『そう。私はあなた達とは違う。むしろ対極の存在よ。それがヒーローだなんだと……面白すぎて笑う事も出来なかったわ』

【※面白いのは貴方の方です】

 そんなテロップと同時に笑い声のBGMが挿入され、司会と女性の二人もハハハと陽気に笑っていた。


『そう……。私の名前はクアン。怪人クアン。アーブ第八の怪人……あなた達の敵よ』

【※今は味方です】


 ドッと大きな笑い声のBGMと同時に陽気な音楽が流れ、そこでVTRが終了した。


「というわけで、視聴者の皆さま、これは十分なポカと言って良いのはないでしょうか?」

 そんな司会の言葉に賛同するかのよう歓声が溢れ、盛大な拍手が巻き起こった。

 テイル含むこっち側の皆も拍手をしていた。


「はい。というわけで、今回は前代未聞のベストニュービー賞、ベストポカリスト賞のダブル受賞となったARバレット所属クアンに、今一度盛大な拍手を!」

 その瞬間に、耳をつんざくような拍手が鳴り響いた。




「いっそ……殺して」

 ニヤニヤした視線を一身に浴びながらクアンは食堂の地面に突っ伏し、真っ赤な耳に両手をあてて自分の世界に閉じこもった。


 ありがとうございました。

 これで一部、クアンの解説や世界観を中心にしたお話が終わりです。


出来る限り特撮っぽくやっていきたいと考えるのでそういうのが嫌いじゃない方はお付き合いくだされば幸いです。


それと【確約は出来ませんが】

 キャラへの質問や世界観の質問、またキャラに直接応援メッセージ等があれば私のメッセージボックスの方に『悪の組織やってます ~怪人大好きな科学者による悪役ライフスタイル~』のコメントだとわかるようにした上で、載せて良いP.Nを沿えて送信して下されば番外編とかで拾わせていただきます。

 あれです、昔の特撮のエンディングとかで流れる質問コーナー的な感じです。

 もしそう言った番外編や本編紹介がなければ、メール、来ませんでしたーと思ってください。


 それではありがとうございました。

 また皆様がお手に取ってくださるよう、これからもがんばっていきます。

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