プロローグ
日永かぐやは優しくて、パッチリした目がかわいい女の子だ。肩より長いふわふわの髪、彼女の雰囲気によく似合ってて好きだ。そんな同級生の女の子が、誰かにストーカーされたとしてもありえない話じゃない。
だけど、どうして俺が日永の手をしっかり握って、暗い竹藪を走るはめになってるんだろう。体に張り付いた制服が気持ち悪かった。
「鬼ごっこは終わりだよ。おとなしくかぐや姫を渡しな」
目の前に現れたストーカー野郎の目は、金色に光っていた。
「うわ、なんつう夢見てんだよ」
汗だくで目を覚ました俺は、後味の悪すぎる夢に深くため息を吐きだした。
なにか食べたいしシャワーも浴びたい気分。こんな汗くささで学校行った日にはクラスどころか学校中に引かれる。シャワー浴びる時間あるのかな、最悪遅刻してでも。
液晶画面に映し出された時刻に、俺は目をごしごし擦ってみる。見間違いかな、時刻狂ってきちゃったかな。なんて思いながら再び携帯のボタンを押して画面に映し出された時刻を見た。
「は? 十二時過ぎ?」
十二時十五分、どう見ても昼過ぎです。というか置時計でもないのに携帯の時刻が間違ってるとかありえないでしょうよ!
カーテンを開けてみれば高くのぼった太陽からサンサンと降り注ぐ光に、俺は目を覆った。悪夢見て寝坊するとか、かっこわる。
「とりあえず、シャワー?」
ざっとシャワーで汗を流してからリビングにいけば、誰もいない。そりゃそうだ、この時間なら親父もおふくろもとっくに出勤してる。先日刈り上げたばかりの頭をタオルでごしごし擦りながら朝食だか昼食だかわからん支度に取り掛かることにした。すっごい腹減りましたもん。
トーストをテーブルに置いた俺は、そこに一枚のメモ用紙があるのに気がついた。
「なんだこれ。起きたら連絡してください、トキ?」
紙に書かれていたのは短いメッセージと電話番号らしき数字だった。じゃあこのトキってのは名前っぽいな、新手のいたずらかな。でもネタになりそうだからかけてみよ。
そんな軽いノリで電話をかけた俺は聞こえてきたしゃがれ声に悲鳴をあげた。そして、悪夢が夢ではなかったことを思い出したのだった。