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香奈はもともと、少女漫画とか、恋愛小説とか、そういうのを好まない性格だった。
実際にこんな事があるんだったら、こんなにも苦労しない。
でも、そうじゃないかもしれない。
香奈はお風呂に入りながらあれこれ考える。
主に大翔の事だ。
「どうしよう、私で良いのかな?
…そんな訳無いよね。
私なんがか…はッ!
種村君もしかして酔ってたんじゃ?!」
思考回路がパンクしている。
頭の中は大翔でいっぱいなのだ。
『何言ってんの、広瀬。
俺酒なんか飲んでないし。
やっぱりお前面白いね。』
「えへえへ、そうかなぁ?
面白いことなんて…」
気付いた。
今お風呂には香奈しかいないはず。
話しかけたのは、誰?
恐る恐る顔を上げた。
目の前には、同じ浴槽に夏服のまま一緒に入っている大翔がいた。
「…疲れ目?
それとも種村君を好き過ぎての幻覚?」
そして声が返って来た。
『嬉しい事言ってくれるじゃん。』
もう一度顔を上げる。
大翔だ。
何故か夏服で。
そしてまた気付く。
自分は入浴中であること。
イコール素っ裸だということ。
香奈は叫んだ。
力の限り叫んだ。
その声を聞いた香奈の父が金属バットを持ってお風呂に入って来た。
「どうしたァ!」
勿論香奈は全面拒否。
叫びながら洗面器を投げ付けた。
「痴漢ー!」
父は失神してしまった。
「全くどいつもこいつも。
何勝手に人の体見てんのかね。」
『ごめんごめん、でももう見ちゃったし。』
「?
種村君だよね?何でここにいるの?
どうやって家に入って来たの?
っていうか何で夏服?」
大翔はしばらく黙った。
そして大翔が口を開けたその瞬間だった。
母が風呂場に顔を出した。
「あんたさっきから何言ってんの?」
香奈はまずいと思った。
高校生が一緒に実家で入浴なんて。
しかも変な状況で。
「えっと、これは、その…」
パニックになった香奈を横目に母はため息をついた。
「良い成績を残す分は構わないけど、パーになってもらっちゃ困るのよ。
さっき叫んだみたいだけど、何もいないじゃない。
お化けでも見たの?」
「…え…?」
香奈は後ろを振り返る。
そこには確かに大翔がいる。
お風呂に入っているのに寒気がした。
「今連絡網が回って来てね、あんたのクラスの種村君?
今日の夜、下校中に事故に遭ったんですって。」
香奈はもう一度、後ろを振り返った。
大翔が悲しそうに微笑んでいた。
夢であってほしい。
心が叫んでいた。