-1-
私には絶対に縁がないと思っていた、ひと夏の思い出。
まるで夏蜜柑のような…。
広瀬香奈、高校二年生。
恋愛経験ナシ。
明後日から始まる夏休みは家でこもりっきりになる予定だ。
みんなは彼氏とか、彼女とかと遊びに行くらしい。
俗にいうパッツンの髪型で窓から外を眺める。
みんなカップルで学校にやってくる…夏なんだからもう少し離れなさいよ…。
「香ー奈っ」
不意に後ろから抱きつかれた。
友人のちはるだ。
「夏休みなんか予定ある?」
「えっと…」
「ある訳無いじゃん、このパッツンが」
幼なじみの紗羅が香奈の席に接近しながら(ダジャレではない)言う。
「ムカ。
そりゃ彼氏とかいないから、デートの予定とかないけどさ。
でもそろそろ恋の予感!」
「妄想僻だな…フッ」
ちはるの幼なじみの志保が言った。
香奈はこの三人といつも一緒にいる。
そしてイビられる。
「もう!何でみんなして!
実はどこかの誰かから愛されてるかもじゃん。」
「あ〜、ないない。」
「香奈パッツンだし。
また変な髪型になったね(笑)」
「笑うな!
短くしてくださいって言ったらこうなったのー!」
「大学デビューが良いよ」
言いたい放題だ。
冗談で言われてるのは十分承知だ。
でも、ムカつく。
「うるさいうるさいうるさぁ〜い!」
そう叫んだときだった(そんなに大きな声でもないが)
三人が黙った。
不思議に思った香奈は顔を上げる。
目の前には一枚のプリントが差し出されていた。
「はい。」
クラス一、いや学年一、いやいや学校一かもしれない。
イケメンの種村大翔だ。
バスケ部のエースで成績優秀。
同じクラスの美人、柊伊織と噂がある。
正直恥ずかしかった。
学年の人気者にそんなところを見られるなんて…。
「…ありがとう」
大翔は微笑んで答えた。
「広瀬って面白いね。」
大翔が去ったあと、三人に囲まれた。
「種村君なんでこんなやつに…」
「プリント渡しに来ただけだって!」
「あれ、伊織さんと付き合ってんじゃないの?」
プリントを握りしめたまま彼を目で追った香奈には、その声は聞こえてなかった。